それを聞いたルーティは、すぐさま別のメイドに作って持ってくるよう指示を出していた。
「あの、先生。ありがとうございました」
あたしは、立ち上がって去ろうとしている先生にお礼を言う。
原因がわかって、ホッとしたからだ。
「別に礼を言われる程じゃありません。リューネの女性は皆、妊娠すると魔力が不安定になるんです。気分が悪くなって寝込んだり、王妃様みたく飯が食えなくなったり。まぁ、安定期に入れば戻りますんで。お大事に」
そう言って、先生は今度こそ部屋を出て行った。
次はナズナに伝えなければと、椅子から立ち上がったあたしは、ふと、嫌な想像をしてしまう。
「ルーティ……ナズナが浮気したらどうしよう…」
子供が出来たと伝えた瞬間、側妃を娶る彼の姿を想像して、涙が出てきた。
最近夜の方の相手も出来ていないから、きっと呆れられている事だろう。
妻としてそれはどうなんだ、と言われそうである。
「その場合、テスタロッサに帰りましょうお嬢様。奥様や旦那様も、お嬢様が帰っていらっしゃったなら、とてもお喜びになります。それに、御子もご一緒なんです。陛下が御子を返せと仰ってきても、突っぱねればよろしいと奥様なら言うはずです。お嬢様を傷つけ、尚且つ子供を返せなどと言うクズなど、全面戦争をしても構わない、と」
「ルーティ…流石に飛躍しすぎよ…」
ターニャなら言いそうではあるけど。
あたしはルーティを伴い、ナズナの執務室へ行く。
軽くノックすると、扉が開けられた。
「シャル! どうだった?! 何か病気だったのか?! 体調は?!」
どうやらあたしの魔力を感知して、居てもたってもいられなくなったのだろう。
扉を開けたのはナズナ自身で、後ろで親衛隊の皆が慌てていた。
「あの、陛下…せめて誰かに開けさせて下さい…暗殺者が忍び込んでいたら、どうするおつもりだったんですか…」
「そんな事は些細な問題だ。今は、お前の体調の方が心配なんだシャルロット」
ナズナは本当に心配そうな顔をしながら、あたしの肩に手を置く。
あたしはそんな彼を見つつ、先程の嫌な想像を思い出し、俯いた。
「シャル…? シャルロット…? どうした? まさか、重大な病気にかかっていたのか? 死ぬようなやつなのか…?」
彼が軽くあたしを揺さぶってくる。
それに対して、あたしは首を横に振った。
「違……揺さぶるのやめて?! 吐くわよ、ここで?!」
胃に何も入っていないから、出るのは胃液のみだろうが。
それに、ナズナからの揺さぶりで更に体調が悪くなってくる。
「シャル!」
「叫ばないで……病気じゃなかったの……子供、出来たって…」
そう言うと、ナズナの動きがピタリと止まった。
揺さぶるのも止まったので、あたしは彼の顔を見る。
「本当か…?」
ナズナの顔は驚愕に染まっており、あたしはやっぱり、側妃を娶るとか言い出すのかな、なんて思ってしまった。
「嘘だと思って、サカネ先生にも確認したわ……ここに、あたしと貴方の子供がいるんですって。その、ナズナ…」
あたしは自分の下腹部に手を当て、少し俯く。
側妃を娶るなら、早く言って欲しいと目を閉じた。
だが。
「……っ!! シャルロット!! よくやった!! ありがとう、俺達の子を宿してくれて!!」
ナズナはあたしを持ち上げ、満面の笑みでそう言ってくる。
あたしは逆に驚き、彼を見つめてしまった。
「え? 側妃は?」
「何を言ってるんだ…側妃なんているものか。俺の妃はお前だけだと言っているだろう? あぁ…とても嬉しい…!! シャルロット…ありがとう…っ!!」
ナズナが何回もお礼を言ってくるので、あたしもようやく彼が本当に喜んでくれているのだと実感した。
「あの、ね、ナズナ。夜の相手…」
「お前以外抱くつもりはない。子供が産まれて、落ち着くまで我慢するさ…シャル…っ!!」
彼はあたしを抱きしめ、頭に頬擦りしてくる。
そして少し体を離し、ナズナは言った。
「とても楽しみだな。俺達の子に会えるのが」
「…えぇ。あたし、頑張るわ。あたしも、貴方との子供に会いたいから」
そう言うと、ナズナはまた満面の笑みを浮かべてくれた。
◆◆◆
月日は流れ、シルフ1の月。
あれからナズナは、あたしに対してとても過保護になった。
今まで気遣ってもらってはいたのだろうけど、更にその上をいく過保護ぶりで、あたしは苦笑いを浮かべる他ない。
あたしが何処かに歩こうとすれば、すかさず傍に付き、腰に手を回して転ばないようにと歩幅を合わせて歩こうとするし。
あたしがようやくご飯を食べられるようになったら、栄養のあるものをなんて言って、色んな料理を料理長に言って作らせ、目の前に並べさせるし。
勿体無いからやめなさいと、流石にそれは怒った。
…今日は珍しくリューネに雪が降っている。
ナズナから、ベルナール卿と謁見室で会う事になっているから、自分が戻るまで大人しく待つように言われてしまっていた。
「確かに二個下だけれど、別に子供ではないのに…」
窓を眺めつつ呟く。