そんな中ドンっとお腹を蹴られ、あたしは痛くて少し蹲った。
最近胎動が増えてきて、特にナズナと一緒にいる時が多いような気さえしてくる。
「いたた…シャナ、少し落ち着いてくれないかしら…今お父様はお仕事中だから、後もう暫く待っていましょうね?」
あたしは大きくなったお腹をさすり、笑う。
シャナ、という名前はあたしが考えた。
ナズナと一緒にいる時、子供の名前は何にしようかと話になって、あたしは彼にこう言ったのだ。
「あたしの名前と貴方の名前、半々で名付けてあげたいわ。女の子だったらシャナが良いわね。男の子だったら……うーん……貴方が考えて?」
「あぁ、良い名前だな。男の場合……うん…ちょっと、名付けの本でも探してみるか…」
なんて、自信なさそうに言うものだから、いつもの彼とのギャップに大笑いしたものである。
「王妃様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、アドリアーノ。最近シャナがお転婆でね。落ち着いてって声をかけても、暴れてしまうの。ナズナ…陛下が声を掛ければ、すぐ治ってくれるのだけど」
最近あたしの護衛に任命された、レモンイエローの髪の女の子。
アドリアーノが、心配そうに聞いてくる。
「王妃様。陛下を呼んできましょうか?」
もう一人、茶色の髪の女の子、メルディアが声をかけてくれた。
あたしは二人に苦笑を返す。
「もう、心配性ね。大丈夫よ。それに、このくらいで陛下の手を煩わせるわけには…」
ズキリ、とお腹が痛くなってきて、あたしは驚いた。
味わった事のない痛みで、顔を歪めて蹲る。
「王妃様?!」
「私、サカネ先生呼んできます!!」
サカネ先生の名前を聞き、あぁ、これが陣痛というものかなんて、痛むお腹を抱えながら思った。
確かに臨月で、出産間近なんて診断はされていたけど、まさか今日だとは。
「いや…ずっとお腹の中に、いたくは、ない…よね…」
パシャ、と音がして生暖かいものが広がる感覚がする。
あー、破水したー。
なんて、他人事のように考えてしまった。
それによって痛みが激しくなり、あたしは動けなくなってしまう。
サカネ先生をメルディアが連れてきてくれて、護衛二人がかりであたしはベッドに寝かせられた。
「はい王妃様、力込めてくださーい」
先生の合図でお腹に力を込めたり、抜いたりと、我ながら器用に出来るなぁ、と、やっぱり他人事で考える。
痛いは痛いんだけど、それよりは頑張って産まなきゃって、そっちの方に集中してしまった。
というか、ナズナが待ってろって言った場所が、寝室で良かったのか悪かったのか。
後でシーツとか、総取っ替えじゃないかしら。
その内、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、あたしは子供が産まれたと悟った。
「王妃様、女の子です!! 姫ですよ!!」
メルディアが、布に包まれた赤ちゃんを見せてくれる。
まだ顔が真っ赤だったが、髪の毛は金色で。
あぁ、ナズナとの子供だと嬉しくて涙が出てきた。
「王妃様、力込めてください!! まだいらっしゃいます!!」
「はぁ?!」
確かに痛み引かないけど、出産ってそういうものなのかしらなんて思っていたのに。
まだいる?!
女の子の時と同じく、数分してからまた赤ちゃんの泣き声が聞こえ、それと比例するかのように痛みが無くなっていく。
「王妃様。次にお生まれになったのは、男の子です。殿下です」
アドリアーノが、次に生まれたあたしの赤ちゃんを見せてくれた。
女の子と同様、顔を真っ赤にして泣いている。
その髪の色は、あたしと同じ蒼だった。
「シャル!!」
護衛二人があたしの傍に子供達を置いてくれ、出産を終えたからと扉を開けたサカネ先生の横を通り、ナズナが駆け寄ってくる。
「シャル…っ! シャル…っ!!」
子供を産むって、こんなに疲れるんだ…知らなかったなぁ…。
あたしはぼんやりと、ナズナを見つめた。
彼はあたしの手を取り、泣いているようだった。
「あなた…」
「シャル…よく、頑張ったな…っ!! 辛かっただろう、痛かっただろう…それでも、よく…よく頑張ってくれた…っ!! ありがとう、シャルロット…!!」
ボロボロと、涙がその頬を濡らしていく。
「あなた…見て…お腹の中に、二人もいたのですって…」
「あぁ…お前にそっくりだよ、二人とも…シャル、ゆっくり休んでくれ。愛しているよ、シャルロット…大変な思いをして俺達の子供を産んでくれて、本当にありがとう…っ!!」
泣いているナズナの頬に、握られているのとは逆の方向の手を伸ばして、彼の涙を拭う。
少し微笑んでから、疲労に抗えずあたしは意識を飛ばした。
◆◆◆
次に目が覚めたのは夜で、真っ暗な部屋の中、あたしは辺りを見回す。
「起きたか、シャル。まだ体が辛いだろう? 寝てて良いぞ」
ベッドの傍で、どっちか分からないけどあやしているナズナに、あたしは尋ねた。
「貴方、その子…」
「ん? あぁ、抱いているのはシャルにそっくりな男の子だ。シャナは、そっちの揺籠で眠っている」
ナズナが顔を向けた方向に、あたしも顔を向ける。
ベッドの横に、揺籠が置いてあった。
いつの間に。