学校に入ってから一月。
こちらの季節もそろそろ春が終わり、初夏の気配が漂い始めていた。
ちなみにこちらの月の呼び方を聞いたら、なんと4大精霊の名前を冠して呼んでいるらしい。
4大精霊とは、ウンディーネ、ノーム、シルフ、イフリート。
月は三ヶ月ごとの区切りで、あたしが落ちてきた月は、シルフ1の月。
今はノーム2の月、日本でいう所の5月に相当するらしい。
そこはレイラさんに教えてもらわなかったので、ナズナには感謝だ。
そんな季節、あたし他ナズナやカナリア、ユキヤ君は校長室に呼び出しを受けていた。
一体何かしただろうか、と思案する。
この間の小テストでは、点を落とした記憶はないし、補修をしなければならない事態にもなっていない。
体育の時間だって、手加減して突っかかってきた子息達を投げ飛ばしたくらいで怪我はさせていないし。
ならば、ユキヤ君達だろうかと考えもしたが、彼らが素行不良するわけはない。
ナズナだって、四六時中あたしと一緒にいるのだ。
成績だって学年トップだし、やはり呼び出される謂れがない。
「あの、校長先生。一体何の御用でしょうか? もうそろそろ授業が始まるので、お
ユキヤ君がそう言ってくれる。
確かに無遅刻無欠席で来てるので、早めに教室に戻りたい。
「…各担任には連絡してあるわ。貴方達は、授業の心配をしなくてもよろしいの」
とても暗い顔で、校長は言った。
心配しなくてもいいと言われても、ならば何故呼び出されなければならなかったのか。
「まさか、退学処分とか…?」
「シャル、なんかやったの?」
ヒソヒソと問うてきたカナリアの言葉に、あたしは思い切り首を横に振る。
「むしろ、カナリアが何かはしゃいで、物品壊したりしてない?」
「してないしてない。むしろ、寮と学校の往復しかしてないもん。はしゃぐ要素がどこにあるっていうのさ」
背後でヒソヒソとしているあたし達に、ナズナは咳払いしてきた。
声なき注意のため、あたし達は口を噤む。
「ナイジェル、さっさと話せ。何があった?」
「…実は、先程王宮から早馬が参りまして。端的に申しますと、魔王が復活した、と」
魔王、との単語にナズナ達は明らかに動揺していた。
ファンタジー世界にありがちな奴だけど、そこまでのことなのかしら?
あたしが首を傾げていると、それに見かねたのかナズナが説明してくれた。
「王家と、歴代の校長しかその存在は知らされていない。特に、王家とは因縁深い奴でな。100年の周期で復活してくる」
「前回討伐されたのは約70年前でしたか。それにしても、復活するまで早くないですか?」
何それ。
本当にファンタジーじゃないの。
100年周期で復活してくる魔王とか。
何で倒し切れないのかしら?
「異例の事態もあるだろう。うちの国は500年続いているが、魔王が現れたのは500年のうち二十数件に昇る。数百年前の事例だと、10年後に復活したという事もあったそうだ」
何それ怖い。
魔王って言ってもゾンビじゃんそれ。
「それからナズナ様、もう一件ご報告がございますの」
ほぅ、とため息をつく校長の仕草はとても女性らしい。
何でこの人女性に生まれさせなかったんだろ、あの神。
まぁ、仕事できないからだろうけど。
「なんだ」
「実は、魔王が通った場所にご婚約者様がいらっしゃったようで…。村ごと焼き払われてしまったと、ご婚約者様の御者が…」
ナズナの婚約者というと、あのマゼンタの髪の巻きロールさんか。
名前は確か…
「ヴィオレッタが…そうか」
「その、とても言い難い事なのですが…ご婚約者様は、別の男性との旅行中だったようで…」
そうそう、ヴィオレッタさん。
お亡くなりになったのか。
校長の声が小さくなっていく。
こんなことまで報告しなきゃいけないなんて、彼も可哀想だと思った。
「王太子妃になろうというのに、まったく…まぁ、知ってはいたが」
ナズナのその一言に、周りがギョッとする。
知ってた?
今こいつそう言ったか?
「知ってたんですか、兄さん…」
「俺があの女に、情を抱くと思ったかユキヤ。証拠も集めていたさ。ついでに奴の父親の悪事もな。学校を卒業したら、即婚姻を結ばれる予定だったからその前に、と」
ナズナ、超優秀。
というか、その情報ってどうやって集めたのかしら。
やっぱり王太子直属の諜報部隊でもいるのかしらね?
「今回の魔王は少しおかしい、と早馬の御者は申しておりましたわ。一部生存者もいるそうで、その方達からお話も聞けたそうですの」
「ほう?」
あたしのイメージだと、魔王城に篭って魔物に指示を出している悪い奴、って感じなんだけど。
歩き回っているところを見ると、やっぱりおかしいのかな。
「生存者のお話ですと、ナツキと呼ばれる少女を探しているのだとか。黒髪黒目らしいのですが、そんな特徴的な方いないとは申しませんが、うちの国ではけっこう珍しいですわよね? 名前も特徴的ですし。むしろ、吾妻ノ国が最有力候補かと思われますが」
「あぁ」