彼に続いて魔法陣に乗ると、目の前の景色が一瞬で変わる。
王家紋章が刺繍されている陣幕が目に飛び込んできた。
ここが、リューネ王家の陣地らしい。
「ダーカン、いるか?」
「これは、ナズナ殿下! よくぞ来てくださった!!」
学校への道中、護衛してくれてた第一騎士団の団長が幕の中で出迎えてくれる。
この非常事態の中ナズナが来た事で、一瞬見た表情が暗いものから明るくなった。
いつもの粗野な物言いと違うのは、やはり戦場だからだろうか。
「他の連中は…やはりいないか。予想通り過ぎて、笑いしか込み上げてこないな」
「は…。陛下からこちらに来るよう仰せつかったのは我ら第一騎士団と第二騎士団、それに魔法師団第一部隊のみとなっております。あとは、王都の守りにつくようにと…」
騎士団は、一団総勢5000から6000人の規模と聞いた事がある。
それが二つと、第一部隊だけ。
「第一部隊って、何人くらいなの?」
「30人だな。くそ、あの親父…他の兄弟に何か言われたな…! これで足りると思っているのか!」
あたしの質問にナズナは答えてくれたが、直後怒りを露わにした。
確かに、魔王が出現したというのに少なすぎる。
珍しくナズナが怒っているので、あたしはそっと、彼の腕に触れた。
「…すまない、取り乱した。ダーカン、今の戦況は?」
「は。こちらをご覧ください」
投映装置なのか、幕にある絵が現れる。
第一印象は、禍々しい城だと思った。
「これは?」
「魔王がいるであろう城です。この城から、無限と言えるほどの魔物が湧き出しています。ギルドと騎士団が合同で討伐にあたっておりますが…戦況は芳しくなく…」
それはそうだろう。
あちらの戦力は無限、こちらの戦力には限りがある。
いくら魔物が本能で人間を襲い、知能がないとはいえ強靭な牙も爪もあるのだ。
それにずっと対抗できるほど、人間の体力は無限ではない。
「こちらの部隊から、あちらの部隊まで広域展開してはおりますが、回復部隊の手も回らず死傷者も出ております」
「…ユキヤ、作戦は練れるな?」
団長さんの言葉に、ナズナはユキヤ君へと話を振る。
ユキヤ君は難しい顔をして、首を横に振った。
「もう少し情報が欲しいところではあります。部隊の詳しい配置図と、展開している陣形はどのようなものか。第一部隊の魔法規模はどのくらいか、使える魔法などですね」
忙しなく動いている騎士団の人達、地図を見ながら作戦を練っているナズナ達。
あたしは手持ち無沙汰になり、後方に待機しているカナリアの隣に並ぶ。
顔が少し青ざめている彼女の表情を見て、あたしは小声で話しかけた。
「大丈夫? カナリア」
「私、鼻がよく効くんだけど、血の臭いと死臭が風に乗ってきてて、少し吐きそう…」
それでも耐えてるんだから、貴女は凄いわ。
あたし、それ嗅いだら一発で倒れるかもしれないのに。
「大丈夫そう? 何なら風魔法で防護しようか?」
「大丈夫。それに、シャルだって具合悪そうにしていたのに、ナズナ殿下へあんな啖呵きったんだもの。先輩として負けていられないよ」
啖呵を切った覚えはないのだけど、カナリアの鼓舞になったのなら良しとしよう。
「このまま、戦況が良くなってくれればいいんだけど」
「殿下達が来たんだもの。絶対良くなるよ。それに、ナズナ殿下が突貫したらそれに着いて行かなきゃいけないんだよ? シャルは。今は体力温存しとこうよ」
あたし、馬に乗れないんだけど。
雛桔梗を展開して、飛んでついて行こうかしら。
そんな事を考えていた時だった。
雛桔梗からアラート音が鳴る。
【緊急事態発生、緊急事態発生。異常な魔力波を感知。3秒後、下方に出現。3、2、1…】
唐突なアラート音と、雛桔梗の表示にあたしは固まってしまう。
その場で動けば良かったものの、隣にいたカナリアも驚いてしまってあたし同様固まってしまっていた。
【0】
あたしの真下に知らない魔法陣が展開される。
転位の魔法陣だと気付いた瞬間、とても嫌な気配を感じ取り、あたしはナズナは手を伸ばした。
「いや…っ! ナズナ!!」
「シャル!!」
彼もあたしの異変に気付いて手を伸ばしてくれたけれど、その手は掴まれる事なく、あたしはどこかへ飛ばされた。
◆◆◆
「ここ、どこ…?」
薄暗い一室。
陽光が指す場所を見るに、ここは謁見室か何かなのだろう。
窓の外を覗くと、あたしがいた場所より5キロくらい離れた所らしく、陣幕が小さく見える。
という事は、あの禍々しい城の中に転移させられたと考える他ない。
つまり、敵陣の只中なのだ。
『雛桔梗、この城に敵性存在がどれくらいいるかサーチできる?』
【はい。一階相当部分に五万、二階相当部分に二万、三階相当部分に五千、最上階部分に一です】
一?
最上階というと、ここ?
瞬間、雛桔梗のアラート音が鳴り響く。
【敵性存在確認。6時方向より接近中】
あたしは雛桔梗を部分展開させて、魔力で刀を作り出し、後ろ目掛けて切りつけた。
「おやおや、刃物を振り回す等…少々お転婆になりましたか? お嬢様」