転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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31.過去を思い出しました

後ろに立つ者の首を刎ねる事なく、刀は指先一つで止められている。

振り向いた先、燃えるような紅の髪と漆黒の瞳の男がいた。

服装はどこかの執事みたいな格好で、モノクルをつけニタリと笑っている。

 

「誰…?」

 

その笑い顔を見ていると、怖気(おぞけ)が走る。

顔に見覚えがない事から、この世界に来てからの知り合いではない。

 

それにコイツ今、あたしの事をお嬢様とか呼んだか?

前世の知り合いか何か?

 

「お久し振りで御座います、夏月(なつき)お嬢様。お会いしとうございました…!」

 

感極まったのか、男はあたしが持っていた刀を奪うと抱きついてこようとする。

数歩後ろに飛んで、それを回避した。

 

「あぁ、お嬢様。恥じらっておいでなのですね? でも大丈夫です。あの夜、(わたくし)達は契りを交わしました。お嬢様が恥じらいを(いだ)かれる必要はございません」

「あなた、何言って…」

 

途端、頭痛がし始める。

思い出すな、と体が拒絶し始めた。

 

「お嬢様、私の事をお忘れですか? あぁ、私は悲しい! あんなに愛し合った仲ですのに!! …ですので、こちらの世界でも愛を確かめ合うため、名乗らせていただきます」

 

男は(うやうや)しく、あたしに向かって一礼する。

その所作は美しく、しかし同時に、恐怖心が込み上げてきた。

 

宮塚麻人(みやづかあさと)と申します。以後お見知り置きを、篠原(しのはら)夏月(なつき)お嬢様」

「………っ!!」

 

パリン、とガラスが砕ける音がする。

思い出してはいけない、記憶の扉が開かれる。

 

さようなら、新しいあたし。

こんにちは、今までの私。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」

 

あたしの絶叫が、謁見室に響き渡った。

その声が内からなのか、外からなのか、今のあたしにはわからない。

 

痛い、痛い痛い痛い痛い!

頭が割れる!!

死んでしまう!!

 

【我が主、お気を確かに!!】

「主!!」

 

雛桔梗とレヴィの声が聞こえる。

あたしは声なき声で、二人に命令した。

 

気を失ってしまう。

だからあたしを守れ。

 

と。

 

「【承知】」

 

二人の声が聞こえ、あたしは意識を手放した。

 

◆◆◆

 

目を開ける。

少し青が入ったレースが目に入った。

天蓋の一部で、私はこれが気に入っていた。

 

「お嬢様、起きられましたか?」

 

天蓋のカーテンの外から声がかかる。

私はゆっくりと起き上がり、声の主に声をかけた。

 

「えぇ。起きたわ、長谷川(はせがわ)。おはよう」

「おはようございます、夏月(なつき)お嬢様。本日は午後に雨が降ると予報が出ております。迎えに上がるまで、あの者と共にお待ちください」

 

カーテンを長谷川が開ける。

朝の眩しい光に目を細めた。

 

「眩しいわ、長谷川」

「申し訳ございません、お嬢様。しかし我慢していただければと。お召し物をお変えします、こちらに」

 

長谷川他、数名のメイドに洋服と髪を整えてもらう。

また新たなメイド達が来て、ベッドメイクなどをして行ってくれる。

 

「いつもありがとう、貴女達」

「滅相もございません、お嬢様」

「そうでございます。私共は、お嬢様のためだけに生きておりますので」

 

お礼を言うと、ニコニコと笑顔を返してくれるメイド達。

嘘つきばかり、と思ってしまう。

 

どうせお金目当てなのでしょう?

私が男の子だったら既成事実を作ってやるのに、なんて言っているのは知っていてよ。

 

しかしそれはおくびにも出さず、私は微笑む。

 

髪型も可愛い感じにしてもらい、私は外へ出る。

部屋の横には、私の護衛役である要夏月(かなめかづき)がいた。

 

私達の名前の漢字が同じなのは、お母様方が仲が良く、子供が同じ学年なので同じ文字をつけようとお決めになったから。

お陰様で、先生方が困惑する羽目になった。

 

「おはよう、夏月(かづき)

「はよ」

「お嬢様が挨拶なさっているのだから、まともな返事を返しなさい」

 

そう言って、長谷川は夏月(かづき)を投げ飛ばす。

彼女は夏月(かづき)の師匠で、礼儀や体術、果てはマナーや料理まで叩き込んでいた。

 

お嬢様の護衛役なのだから、何でもできて当然です。

 

と長谷川は言っていたけれど、夏月(かづき)にも得手不得手があると思うのよね。

 

「いきなり何するんですか、長谷川さん」

「これくらいの対応ができなくてどうします。それでお嬢様をお守りできると思っているのですか、要」

 

夏月(かづき)の抗議を意に介さず、長谷川は淡々と言う。

長谷川はマナーや礼儀に厳しい反面、愛情深い女性だ。

私だって、小さい頃は長谷川に厳しくマナーを叩き込まれたし、礼儀作法やダンス、食器の取り扱い、夏月(かづき)が育つまでは私の護衛役をして、護身術だって教わったりした。

 

「理不尽すぎません?」

「これが篠原家の侍従です」

 

いつもの事ながら、仲が良いなと思う。

そう言うと夏月(かづき)は否定するのだけど。

長谷川は口ではあんな言い方だけど、優しい目で夏月(かづき)を見ているのだから、それに気付かない彼は勿体無いと思う。

 

「長谷川は勘違いされやすいよね」




なっちゃんとカヅキの漢字が同じなので、ルビを振ります
これでどれがどっちかわかるはず…
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