後ろに立つ者の首を刎ねる事なく、刀は指先一つで止められている。
振り向いた先、燃えるような紅の髪と漆黒の瞳の男がいた。
服装はどこかの執事みたいな格好で、モノクルをつけニタリと笑っている。
「誰…?」
その笑い顔を見ていると、
顔に見覚えがない事から、この世界に来てからの知り合いではない。
それにコイツ今、あたしの事をお嬢様とか呼んだか?
前世の知り合いか何か?
「お久し振りで御座います、
感極まったのか、男はあたしが持っていた刀を奪うと抱きついてこようとする。
数歩後ろに飛んで、それを回避した。
「あぁ、お嬢様。恥じらっておいでなのですね? でも大丈夫です。あの夜、
「あなた、何言って…」
途端、頭痛がし始める。
思い出すな、と体が拒絶し始めた。
「お嬢様、私の事をお忘れですか? あぁ、私は悲しい! あんなに愛し合った仲ですのに!! …ですので、こちらの世界でも愛を確かめ合うため、名乗らせていただきます」
男は
その所作は美しく、しかし同時に、恐怖心が込み上げてきた。
「
「………っ!!」
パリン、とガラスが砕ける音がする。
思い出してはいけない、記憶の扉が開かれる。
さようなら、新しいあたし。
こんにちは、今までの私。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!!!」
あたしの絶叫が、謁見室に響き渡った。
その声が内からなのか、外からなのか、今のあたしにはわからない。
痛い、痛い痛い痛い痛い!
頭が割れる!!
死んでしまう!!
【我が主、お気を確かに!!】
「主!!」
雛桔梗とレヴィの声が聞こえる。
あたしは声なき声で、二人に命令した。
気を失ってしまう。
だからあたしを守れ。
と。
「【承知】」
二人の声が聞こえ、あたしは意識を手放した。
◆◆◆
目を開ける。
少し青が入ったレースが目に入った。
天蓋の一部で、私はこれが気に入っていた。
「お嬢様、起きられましたか?」
天蓋のカーテンの外から声がかかる。
私はゆっくりと起き上がり、声の主に声をかけた。
「えぇ。起きたわ、
「おはようございます、
カーテンを長谷川が開ける。
朝の眩しい光に目を細めた。
「眩しいわ、長谷川」
「申し訳ございません、お嬢様。しかし我慢していただければと。お召し物をお変えします、こちらに」
長谷川他、数名のメイドに洋服と髪を整えてもらう。
また新たなメイド達が来て、ベッドメイクなどをして行ってくれる。
「いつもありがとう、貴女達」
「滅相もございません、お嬢様」
「そうでございます。私共は、お嬢様のためだけに生きておりますので」
お礼を言うと、ニコニコと笑顔を返してくれるメイド達。
嘘つきばかり、と思ってしまう。
どうせお金目当てなのでしょう?
私が男の子だったら既成事実を作ってやるのに、なんて言っているのは知っていてよ。
しかしそれはおくびにも出さず、私は微笑む。
髪型も可愛い感じにしてもらい、私は外へ出る。
部屋の横には、私の護衛役である
私達の名前の漢字が同じなのは、お母様方が仲が良く、子供が同じ学年なので同じ文字をつけようとお決めになったから。
お陰様で、先生方が困惑する羽目になった。
「おはよう、
「はよ」
「お嬢様が挨拶なさっているのだから、まともな返事を返しなさい」
そう言って、長谷川は
彼女は
お嬢様の護衛役なのだから、何でもできて当然です。
と長谷川は言っていたけれど、
「いきなり何するんですか、長谷川さん」
「これくらいの対応ができなくてどうします。それでお嬢様をお守りできると思っているのですか、要」
長谷川はマナーや礼儀に厳しい反面、愛情深い女性だ。
私だって、小さい頃は長谷川に厳しくマナーを叩き込まれたし、礼儀作法やダンス、食器の取り扱い、
「理不尽すぎません?」
「これが篠原家の侍従です」
いつもの事ながら、仲が良いなと思う。
そう言うと
長谷川は口ではあんな言い方だけど、優しい目で
「長谷川は勘違いされやすいよね」
なっちゃんとカヅキの漢字が同じなので、ルビを振ります
これでどれがどっちかわかるはず…