「この度は、我が財閥の侍従が大変なご迷惑をおかけ致しました。謹んでお詫び申し上げます」
「侍従…? 魔王はお前の侍従だったのか? それに財閥とは?」
頭を上げると、困惑顔のナズナが目に入る。
「私の名前は篠原夏月と申します。異世界にある大財閥、篠原財閥の次期総帥…になる予定の女でした。私は殺され、神にこの世界へ転生させられたのです。俄かには信じ難いお話でしょうが、信じていただく他ございません。魔王である宮塚麻人が、どうしてあのようになったかは、私も存じ上げませんが、ただ、私の首を締めて殺したのは、宮塚であると断言できます。ですので、私は次期総帥として、そして殺された者として、あの者に処罰を下したに過ぎません。ですが、この国の民へ被害を与えたのは宮塚であり、あれの雇用主は私の父でありました。その責任の一端は、私にもあると言えるでしょう。ですので、ナズナ殿下。どうか処罰を」
もう一度、あたしは頭を下げる。
ナズナは無言であたしを見ているようだった。
「…お前が言った言葉に、分からないものが多数あった。説明しろ」
「はい。財閥とは、その世界で大きな力を持っている一族の総称です。こちらの世界で言いますと、王族に近いものがあるかと」
裏で政界を操ったりしていたお祖父様もいる事だし、それでどんどん篠原家は大きくなっていったのだから。
王族とは言えないけど、近い存在ではあると認識している。
「21貴族みたいなものか?」
「はい。総帥は、その一族の長です。当主ですね。私は時期当主になる予定でした。神に転生させられたというのも、この世界の主神であるヴェスタ神にお会いしたからです…まぁ、私の死因を隠したのは、いささか疑問を覚えるところではありますが」
むしろ、あたしの死因を忘れた可能性は捨てきれない。
それほどまでに無能と感じた。
「………」
ナズナが無言になる。
どんな処罰を与えるべきか悩んでいるのだろうか。
もし、もう一度死んだとしても、悔いはない。
あれの本性を見抜けず、放置してしまったあたしの責任なのだから。
「…お前は、一度死んだのだな?」
「はい。それは間違えようも無く」
首回りをキツくすると、何故気絶したりするのか原因がわかった。
宮塚に首を絞められたのが、魂に刻まれるほどトラウマになったからだ。
「なら、処罰はない。前のお前の責任であろうが、今のお前の責任ではないだろう?」
ナズナの言葉に顔を上げる。
彼は優しい目で、あたしを見つめていた。
「殿…下…」
「それに、お前は魔王討伐の立役者だ。その者を処罰するなど、俺には出来ない」
甘い、判断が甘過ぎる。
それで王が務まると思っているのか。
あたしは尚もナズナに訴える。
「殿下…!」
「お前が罪を覚えるなら、生きて贖うといい。あれがお前の責任だというなら、お前はこの国に尽くすべきだ。違うか?」
死ぬ事は許さない。
言外に彼はそう言っているのだ。
「殿下…」
「それで、俺はどちらで呼べばいい? シャルか? ナツキか?」
あたしの頬に触れ、ナズナは微笑む。
あたしは一度目を閉じ、再び開けると彼に笑んだ。
「シャルで。ナツキはもう死んでいるから。あたしは、シャルロット。この世界に生まれ直したあたしは、シャルロットだよ」
あたしの答えに、ナズナは満足したようだった。
彼はあたしの隣に座ると、頭を撫でてくる。
「お前が眠っている間、お前に対する褒章が議論されたのだが」
本人がいない所で、何を話し合っているのだろう。
まぁ、魔王を倒したのが王族ではなくただの平民なのだから、そうもなるだろうと予想は付くけれど。
「親父達は、金を持たせればいいだろうという意見だった。だが、俺とユキヤが抗議してな。シャルが起きるまでこの話は保留にしてもらっている。義母上にも目を光らせてもらっているから、早々親父がお前を嫁に迎えようとはしないだろうが」
されても困る。
でもナズナ達が止めててくれて本当に助かった。
「まだ、何がほしいかわからないけれど…決まったらナズナに言うね」
「あぁ。だがすまん、一つ決まった事がある」
ニコリと笑んでナズナに言うが、彼は少しすまなそうにそう言ってくる。
「…何?」
「お前は、21貴族の養女になる事が決定しているんだ。行き先はテスタロッサ。魔王討伐の際、援軍を寄越してきた領だな。顔合わせは、夏休みに入ってからになるが…」
何それ聞いてない。
まぁ、眠っていたからなのだが。
ではなく。
「なんで、どうして?」
「お前の魔力量が多い事が、テスタロッサの興味を引いたんだろう。魔道具を作る事が楽しい奴でな、リューネに流通している魔道具は全てテスタロッサ製だ。そこと、魔王を討伐したのが平民なのが困る親父の利害が一致した結果だ。少し変人だが、悪い奴ではない。そこは安心してくれ」
ナズナの人を見る目は確かなので、あたしは頷く他なかった。
「わかった」
「すまんな」
ナズナが謝るところではないと思うのだけど、まぁ、仕方ないか。