それに加えて家事もやっているのだから、少し褒めてほしいくらいだわ。
「シャルの凄さも、あいつらは理解したようだし。これからお前にやっかみを向ける連中は減る事だろう」
「だからって、あの場で宣言する事は無かったと思うわ」
観衆を集めたのは、多分ユキヤ君とカナリアだろう。
アンコールから決闘すると敵意を向けられ、戦闘場所も決まった段階で相談に行ったはずだ。
何であたしがそれを知らなかったかって、お手洗いへ行く彼についていけるわけがない。
それに、帰って来るのも十分以内だった。
彼との約束で、お手洗いは別、行って帰ってくるのは十分以内。
それを越した場合、念話で状況確認する事と取り決めされていたからだ。
「良い方法だったと思うが」
「そうね。夏休み明けでも良かったとは思うけど」
アンコールの敵対心を更に煽る結果になった気がする。
むしろ、あたしにも暗殺者が向けられそうで、労力が二倍になりそうだという懸念もあった。
まぁ、全て返り討ちにしてやるが。
『雛桔梗、貴女疲れって感じる?』
【いいえ。それには否定で返します、我が主。私の体は機械で出来ておりますので、主からの魔力供給が途絶えない限り、活動不能になることはありません】
グッド。
なら、あたしが就寝中は雛桔梗に警戒態勢でいて貰えばいいだろう。
レヴィもいる事だし。
「お前に相談もなしにやって悪かった」
「別に、すぐに知れる事になるから。それが遅いか早いかだけの違いだと思うわ。貴方は結構先を読んで行動するから、その場では反感を買おうとも後から結果がついてくるもの。だから、皆が貴方を尊敬するし、付いて行こうとするのだと思うわ」
かくいうあたしもその一人だ。
数ヶ月の付き合いしかないけど、彼の人となりはわかってきたつもりだ。
だから、守りたいと思った。
その力があたしにあるのが、今は嬉しい。
「そうか。ありがとう、シャル。お前がいてくれて良かったよ」
「いやね、何を今更。後そんな言い方しないでちょうだい。縁起が悪く聞こえてしまうわ」
主に、死亡フラグと呼ばれるものだ。
あたしはテーブルに夕飯を並べて行く。
ナズナの真向かいに座り、手を合わせた。
「いただきます」
「前から不思議に思っていたのだが、記憶を取り戻してからそれをするようになったな? 何かの文言か?」
あー、こっちではそういう事しないものね。
何で説明したら良いのか。
「万物の食物って、皆生きてるじゃない? だからその命を頂くって意味で、うちの故郷だと食事をする前にいただきますって言うのが、礼儀なのね。後は、作ってくれた人に感謝して、っていう意味もあるの」
そう言えば、長谷川が作ってくれた蜜柑ゼリー美味しかったなぁ。
風邪の時、よく作って持ってきてくれたっけ。
この世界には蜜柑がないから、再現できないのが惜しい。
日本にあったものがないか結構調べてみたんだけど、似たものはあってもまんま同じ物は無かったのよね。
惜しい、辛い。
蜜柑ゼリーもだけど、蜜柑ケーキも好きだったのに。
少し遠い目になりながら、あたし達は夕食を食べ終わった。
◆◆◆
次の日。
学校へ登校した直後。
あたしの目は信じられないものを映し出していた。
「お姉様、おはようございます!」
昨日の金髪馬鹿令嬢こと、アンコールがあたしをクラスの前で待ち構えていたのだ。
あたしのことをお姉様と呼びながら。
「…おはようございます」
「昨日は申し訳ありませんでした、お姉様。
声高らかに宣言されても。
あたしはナズナの方を見る。
リューネ国民全員の顔と名前、年齢や身分全てを覚えているこの人に尋ねたい事があったからだ。
「トワネット嬢の年齢は?」
「17だな。お前よりも一つ年上のはずだ」
ですよね?
二学年ということは、いくら早生まれでも最低16歳のはず。
同い年にお姉様と呼ばれるのもおかしいが、年上にお姉様と呼ばれるのは更におかしい事になっている。
クラスメイトを見ると生暖かい目で見てくるし、助けてくれる気配すらない。
「ちなみに、あの場にいた者達全員がお姉様のファンクラブの会員ですの。ざっと100人位かしら」
気が遠くなる数字ですね。
「ナ、ナズナ…止めて…」
ナズナに助けを求めるも、彼は苦笑して首を横に振った。
「自由意志を止める事は出来ん。抑圧すれば、不満となり積もっていき、いつかは爆発する。止めたいなら、一人で頑張れ。王族である俺は手出し出来んからな」
薄情すぎる、うちの雇い主。
言ってる事は分かるけれども!
しかして、あたしのファンクラブを解散させるという事柄は、あたしが卒業してから終ぞ叶うことが無かったのは、言うまでも無い。