イフリート1の月。
夏の日差しが増してきた今日この頃。
あたしは馬車に揺られて、ある領に向かっていた。
行き先はテスタロッサ領。
21貴族が1家門であり、あたしが養女になる事が決定している家でもある。
「後1時間くらいかな…」
馬車に揺られながら、今さっきまであった事を思い出していた。
夏休み前にファンクラブが出来上がり、ゲンナリしていた矢先へ、今度はあたしに向けて襲撃者が現れ、難なく撃破して尋問してを繰り返していたら、夏休みに突入し、ナズナと一緒に王都に帰る事となった。
「ナズナの婚約者候補選別って、喪が明けてからって話じゃなかったっけ…?」
「まさか俺も、連日来るとは思ってなかったぞ…」
二人して盛大なため息をついた。
襲撃者の事もだが、ナズナにちょっかいをかける女生徒が、あの日から多くなった気がする。
皆、何でかわからないが、あたしがナズナの婚約者として隣に立つのでは、と噂し始めたのだ。
ファンクラブは認めてないけど、アンコールことアンには色々助けてもらったりしてた。
主に、そのちょっかいかけてくる女生徒達の牽制として。
「お姉様とナズナ殿下の仲を引き裂こうとするなんて、万死に値しますわ!」
とは彼女の言葉だが、正直牽制してくれて助かったと思っている。
それに仲も何も、あたしとナズナは護衛対象と専属護衛の仲で、それ以上でも以下でもないのだが。
そして、ナズナ自身を見てくれる人なら良いのだが、大抵は王太子という肩書きしか見てない連中ばかりで、彼の機嫌が下降気味でもあった。
その機嫌を取るのもあたしの仕事なわけで。
「ナズナ、一つお願いがあるのだけど」
「なんだ?」
馬車の外の景色を眺めていたナズナに、あたしは声をかける。
そんなあたしへ、ナズナは首を傾げた。
「長期休暇の間、暇を貰いたいの。記憶を取り戻した時に、大切な人達の事も思い出したから。ある人もあたし同様に宮塚に殺されてて、もしかしたらこの世界に転生している可能性があるの。だから、その人を探しに行きたい」
「探してどうするんだ?」
ナズナの目が少し厳しくなる。
それはそうだろう。
自分の専属護衛が、自分から離れて人を探しにいくと言っているのだから。
「お礼を言いたいだけ。ただそれだけよ」
彼に会えたら、好きだった事も伝えたい。
あたしより先に転生しているから、もしかしたらおじいさんになっているかもしれないけれど。
それでも、感謝と愛情は伝えたかった。
あの日、伝える事が出来なかったから。
はぁ、とナズナは大きなため息をついた。
やっぱり無理だろうか、と半ば諦めていた時。
「休みの間だけだぞ。終わったら戻ってこい、良いな?」
「わかった、ありがとう」
ナズナは本当に優しい。
あたしの我儘も、受け入れてくれるのだから。
本当に、良い人が見つかればいいのに。
◆◆◆
城に到着するや否や、あたしはニーナさん達に親衛隊の宿舎に連れて行かれた。
ナズナはといえば、騎士の人達のお出迎えで自分の自室に向かったようなので、そこは安心出来たのだが。
「シャル、なんて無茶な事したの!」
「生きてて良かったー!」
「魔王ってー、凄いイケメンだったー?」
「今そこ気にするとこ?」
親衛隊の先輩達に取り囲まれ、質問攻めだったり心配の言葉やお叱りの言葉を頂いた。
あたしが魔王討伐したという話は城にまで届いていたらしいのだが、当の本人が帰ってこないので相当心配してくれていたみたい。
大変申し訳ございませんでした、と謝った矢先、ニーナさんが書状を持ってやってきた。
「シャルロット、よく戻った。お前の功績は城の内外まで響いているぞ。で、だ。帰ってきた所で悪いのだが、テスタロッサ卿がお前に会いたいと書状を寄越してきてな。今から行ってくれないか」
「…ナズナ殿下に、一言ご挨拶してからではダメなのですか?」
あたしの問いかけに、ニーナさんは首を横に振る。
「急ぎで頼むとの事だ。というわけで、カナリア、レイラ、ルナ。シャルロットを着飾ってやれ」
「「「はい」」」
3人に揉みくちゃにされながら、あたしは化粧だの着替えだのされる羽目になった。
完成したのは、フリフリの白いフリルドレスにつば広帽子。
こちらもフリルがついてて、あたしではなくお人形みたいな可愛い女性だったら似合うのでは、と思われる装いだった。
「うーん、可愛いけど、子供っぽいかな?」
「ナズナ殿下が心配なさらないように、配慮するにはこうするしか…」
「養女って体でお嫁さんにしようとする輩も少なくないって聞きますからね。まぁ、仕方ない仕方ない。我慢してね、シャルロット」
三者三様の意見に、苦笑いするしかない。
ナズナの話だと、テスタロッサ卿は悪い人ではないという話だったのだけど。
世の中にはそんな怖い男の人もいるんだなぁ。
「馬車を用意してある。それに乗って行ってくれ。殿下には私の方から話をしておこう」
ニーナさんに言われるがまま、あたしは再び馬車に乗り、テスタロッサ領に向けて出発したのだった。