と、ここまで回想であり、現在に戻るわけだが。
「大きい…」
テスタロッサ領の領主が住む街を、馬車で進む。
街は賑わいがあり、領主の手腕がいいと物語っていた。
「…自販機?!」
街の所々に自販機が置いてあり、街の人々はコインか何かを入れて、飲み物を買っているようだった。
元々いた世界でしか見た事が無いようなものが置いてある時点で、やはりテスタロッサ卿は、転生者か何かなのだろうかと疑念を抱く。
城よりは小さいが、それなりの大きさの屋敷の前で降ろされる。
衛兵が立っていたが、話が既に通っていたのかすんなり中に入れてくれた。
「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました。
銀髪に褐色の肌、レモンイエローの瞳が印象的な女性。
凄くしっかりとした姿勢で出迎えてくれて、あたしはある一人の女性を思い浮かべる。
「長谷川…」
「っ!!」
ターニャさんが驚いた顔をして、あたしは我に返った。
いくら似ているとはいえ、礼を失するとは何事だ、あたし。
「大変申し訳ありません。ご挨拶が遅れました。
あたしはカーテシーをして、ターニャさんに挨拶を返す。
瞬間、ターニャさんが腰を抜かしたようにその場へ座り込んでしまった。
彼女の他に誰も出迎えがいなくて、あたしは若干焦る。
「タ、ターニャさん?! 大丈夫ですか…っ?」
慌てて駆け寄り安否を確認するが、ターニャさんに腕を掴まれてしまった。
「シャルロット様。今から私がする質問に、お答えいただけますか?」
ターニャさんは俯いてしまって、その表情がわからない。
一体何を質問されるのだろうと恐る恐る、はい、と答えた。
「ハセガワイクミ、という名前に聞き覚えは?」
あたしの心臓が、ドクンと鳴る。
ハセガワイクミ、長谷川郁美。
あたしの専属のメイドで、あたしの教育係で、あたしのもう一人の育ての親で、時に厳しく、そして優しくしてくれた、大好きな長谷川。
あたしは意を決して、ターニャさんに聞き返す。
「ならば、貴女はシノハラナツキという名前をご存知ですか?」
ばっ、とターニャさんが顔を上げた。
その瞳には大粒の涙が浮かんでいる。
「……っ、えぇ、えぇ…っ! 勿論、存じ上げております…っ!
「えぇ…。本当に久し振りね、長谷川…ありがとう、そしてごめんなさい。宮塚の本性を見抜けず、貴女に深い悲しみを与えてしまった。私の落ち度だわ。本当にごめんなさい」
そう言うと、長谷川はあたしを抱きしめた。
「いいえ、いいえ! お嬢様が悪いのではございません! それに、あれの本性を見抜けなかったのは私もでございます。…要がいなくなった後、彼の後任を探している
あたしの肩が、長谷川の涙で濡れて行く。
あたしは彼女の頭を撫でて、言い聞かせるように言った。
「大丈夫。苦しかったけど、それだけ。その後の事はあいつに聞かされたけれど、それも私が死んでからの事だから。長谷川、もう泣かないで。貴女に泣かれていたら、私が悪者になってしまうわ。いえ、私が悪いのね。ごめんなさい、長谷川」
フルフルと、小さく首を横に振る長谷川に、あたしは苦笑する。
こんなに泣く姿を見たのは初めてだ。
カヅキのお葬式でも、泣いた姿を見た事がないのに。
「長谷川、泣くのなら嬉し涙にしましょう? 私も貴女に再び会えて嬉しいわ。大好きよ、長谷川」
「わ、私もです、お嬢様…っ!!」
長谷川が泣き止むまで待って、あたしは彼女の頭を撫でた。
「落ち着いた?」
「…はい、お見苦しい姿をお見せしました。申し訳ありません、お嬢様」
目が赤くなっている事から泣いていたのはバレバレなのだが、彼女はそんな事は無かったという風に立ち上がる。
「大丈夫だけれど、目が腫れていてよ。治しましょうか?」
「いえ、お嬢様のお手を煩わせるわけには参りません。自然治癒で結構でございます」
頑として譲らない所は、長谷川らしいといえばらしいのだが。
「もう。私が泣かせたなんて知られたら、テスタロッサ卿の私への印象が悪くなるでしょう? 大人しく治癒魔法掛けさせてちょうだい」
「思慮が足らず申し訳ございません、お嬢様。お願い致します」
長谷川の目に手を当てて、治癒魔法を唱える。
手を退けると、目の腫れ等々は全て引いて、元の綺麗な瞳に戻っていた。
あたしは再び、長谷川に言い聞かせるように言う。