転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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51.不審者です?

イフリートの名を冠する月は、燃えるように暑い。

煌々と照る太陽を睨み付けながら、あたしは親衛隊の訓練に参加していた。

 

「てか、シャル。もうそろそろナズナ殿下との婚約間近なんだって?」

「はぁ?! な、何でそんな話になってるの?! あたしと殿下が? ないない!」

 

城の周りを十周するという訓練で、あと一周というところでカナリアがその話を持ちかけてくる。

あたしは全力で否定したけど、カナリアは疑わしい目を向けていた。

 

「本当かなぁ? 夜な夜な、シャルが殿下の寝室に行ってるって、噂になってるよー?」

「あれは、政務の事で聞きたいって言われてただ訪問してるだけで、やましい事は何もしてないわよ!」

 

そう。

やましい事は何一つしていない。

政務の事も本当だ。

 

あたしが次期総帥だった知識から、ナズナに治水工事の件をアドバイスした事がある。

それについて詳しく聞かれ、あたしの言う通りに工事したら、川の氾濫が無くなったのだ。

だから、ナズナが少し行き詰まったらあたしが呼ばれる事があるだけだ。

 

男女の関係になった事は、ただの一度もない。

そういう雰囲気になった事もない。

 

そういうのは、結婚してからだって彼言ってたっけな…。

 

自分の父親の例を見ている分、ナズナはそこら辺慎重らしい。

あたしにとってはありがたい限りだ。

 

「本当ー? シャルのファンクラブ、この城の中にもいるんだよね。ナズナ殿下とくっつくなんて、そいつら卒倒するんじゃないかな」

 

あっはっは、とカナリアは笑うが、あたしは笑えない。

何だそれ、怖っ。

 

訓練が終わり、親衛隊の宿舎のシャワー室で汗を流す。

この時期は冷水がとても心地いい。

テスタロッサ製のシャンプーやらを使い、汚れを落とした後、着替える。

あたしはそのまま、髪を乾かさずナズナの執務室へ向かった。

 

陛下達はまだ、あの別荘から帰ってきてない。

王の政務をこなせるのはナズナだけなので、無理に連れて行かれた先でも、政務をこなしていて大変そうだった。

帰ってきてからも、彼はほぼ執務室から出れないでいる。

 

あたしが少しでも手伝って、負担を軽くしてあげなくちゃ。

 

書類仕事なら難なくこなせる。

あと、自分の欲望ではあるが、あわよくばナズナとイチャイチャしたい。

 

そう思って早歩きで歩いていると、腕を掴まれた。

そして、地を這うような声で言われてしまう。

 

「お嬢様、何ですかその髪は…!」

「うぁ、ターニャ。来てたんだ…」

 

度々、お義父様の用事で城を訪れているようだと、話には聞いていたのだが。

 

まさかこの姿で見つかってしまうとは…。

 

「宿舎にもドライヤーぐらいあるでしょう?! なんで乾かさないで来るのですか!!」

「ごめんって、ターニャ。それにこの月は乾かさなくても勝手に乾いてくれるから、つい…そんなに怒らないでよぅ…」

 

化粧室に連れて行かれ、備え付けのドライヤーで頭を乾かされる。

どこから出したのか、ヘアオイルで髪質を整えられた。

 

「怒ります! お嬢様、貴女はテスタロッサ家の一人娘です! 自覚を持ってくださいませ! あと、この後は親衛隊の執務はございませんね? これに着替えていただきます」

「何で執務状況も把握してるの?! やっぱり影かなんか潜ませてるんでしょ、ターニャ!」

 

あたしの抗議も虚しく、あたしはドレスに着替えさせられる。

青いビーズが散りばめられて、まるで星のように輝くドレスだった。

薄いフリルが何層にも重なって、とても優美だ。

首周りもゆったりで、しかし何故か肩の部分が出ていたので、シースルーのストールを羽織る。

 

「お綺麗ですよ、お嬢様」

「ありがとう…なんで、髪も整えられているのか、甚だ疑問ではあるんだけど。ナズナに会いに行くだけなのに…」

 

だからですよ、とターニャは言う。

一体どういう事なの。

説明を要求したい所なんだけど、ターニャが嬉しそうなのであたしは口を噤む事にした。

 

ナズナの執務室に向かうが、ターニャも後からついてくる。

彼女もナズナに用があるようだ。

 

「殿下、シャルロットです。入ります」

 

扉をノックして、開ける。

ナズナだけかと思いきや、左側にメイドさん達が横一列で並んでいた。

 

「あの、殿下。これは一体…」

「来たか、シャル…お前、その格好はなんだ。綺麗じゃないか」

 

いや、今その感想は横に置いておいてほしい。

褒められて嬉しいけど。

後ろのターニャも、良い仕事したって顔してんじゃないわよ、ありがとう。

 

「で。殿下、この方達は?」

「先日からうちで働き始めたメイド達らしいのだがな。一人、見覚えがないのがいたんだ」

 

ナズナは、小柄で眼鏡をかけた、黒髪の一人のメイドの前まで行く。

彼の目が鋭く光った。

 

「お前、何処の者だ。間者か?」

「い、いエ。私はこの国ノ国民でございまス。殿下」

 

軽く片言の部分がある。

これで怪しくないと言ったら嘘だろう。

 

「俺は、このリューネ国民の顔と名前は全て把握しているんだ。見慣れない者がいたらすぐわかる」

「ソ、そんなバカな…」

 

眼鏡が厚すぎて、表情が上手く見えない。

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