あたしも怪訝な顔をしていた事だろう。
あたしの横をツカツカと通り過ぎた、ターニャに気付かないくらいに。
スパンっ、と気持ち良いくらいの打撃音に、黒髪のメイドはその場で蹲った。
「いっ…っ!!」
「何をやっているのですか、要。お嬢様の
メイドは自分を叩いた人を見上げ、げ、と声を上げる。
「師匠! 何でここに?!」
「げ、とは何ですか。躾が足りなかったようですね。追加授業を行って差し上げましょう」
自分達は関係ない、と言わんばかりに立たされているメイドさん達は目を逸らしていた。
「お前達、下がっていいぞ」
ナズナの号令で、メイドさん達は下がって行く。
ただ一人、ターニャに床に這いつくばされている、この人を除けば。
「タ、ターニャ、やり過ぎでは?」
「いいえ、お嬢様。要は調子に乗ると、下らないミスをする事がございます。それに、一月前。お嬢様の機体に接触を図りましたね、要? あなたにプログラミングを教えたのは誰だと思っているのですか? あなたの癖を見抜けぬ程、耄碌したと思いましたか?」
「
メイドが、ドイツ語っぽい何かでターニャを罵った。
発音自体ドイツ語みたいだから聞き取れるけど。
というか、さっきからターニャは、懐かしい苗字を連呼していたような。
「ターニャ、このメイドさん…」
「えぇ。お嬢様がお探しの、
あたしは若干気が遠くなるのを感じた。
◆◆◆
「というか、あたしがカヅキを探してた事知ってたんだ…」
「リアラとリリスから報告されていましたよ。口止めなさっていないようでしたので」
ターニャが入れてくれたハーブティーを飲んで、リラックスする。
それもそうか。
あたしも二人にはターニャに言わないように言ってなかった。
自分達の上司に報告するのは当たり前だ。
「で、こいつは間者ではなく、二人の知り合いで、シャルの探し人だったというわけか」
ナズナが腕を組み、簀巻きにされて床に転がされているカヅキを見る。
ターニャのお仕置きは仕方ないものだが、少し同情した。
というか、何でこんな方法で侵入してきたの彼は。
「そういう事ですね。どうせ、お嬢様を驚かせようとしたのでしょうが、あなた、もう一つプランがあったのでしょう? 吐きなさい」
「
カヅキがまた、ドイツ語っぽい言語で罵る。
しかし、随分流暢に喋れるようになったなぁ。
「あなた、わからないと思って言っているのでしょうが。
「30種類くらいだったかしら…? もう英語とかの公用語しか喋れなくなっちゃったけど。ヒアリングくらいなら、まだなんとか出来る、かな?」
流石お嬢様、とターニャは言うが、各国に挨拶に行く必要性も無くなってしまったので、忘れてしまった。
せっかく必死で教えてくれたのに、ごめんなさい。
「Du
「わからないとお思いですか? どうせあなたの事です。わけのわからない機械を組み立て、空から降下しようとでもしたのでしょう。周りの被害や迷惑など考えず」
カヅキと目線を合わせるように、ターニャは屈んで
話している。
あぁ、懐かしいなぁ。
よく長谷川に投げ飛ばされて、どこが悪かったのかこんこんと説教されるカヅキという構図が。
「ん? カヅキって、ターニャの事苗字で読んでいたわよね? さっき、師匠って言わなかった?」
「お嬢様の御前では、ちゃんと苗字で呼ぶように躾けましたので。要、あなたお嬢様と同等程度かそれ以上の力を手に入れましたね? なのに、何ですかこの体たらくは。驕り高ぶりましたか?」
「Ich will
反論しているカヅキも可愛いわね。
なんて現実逃避をする。
あたしの隣には、婚約を保留にしてもらっている恋人がいた。
そんな彼はあたしをずっと見つめている。
目線が痛い。
「そろそろラーニングも終わったでしょう。要。先程の言語は、わざとですね? 一月で覚えられないのですか、あなたは」
「いちいちうっさいですね、長谷川さんは。貴女みたいな完璧超人に、俺みたいなペーペーが敵うわけないでしょうが」
簀巻きにしていたカヅキの拘束を、ターニャは解く。
瞬間、彼はあたしの足元に跪いた。
「お嬢様、ご無沙汰しております。要夏月、遅れ馳せながら推参致しました」
「お久し振りね、カヅキ。ちょっと立ってもらってもよろしい?」
カヅキがその場に立つ。
転生してから、随分背が縮んだみたい。
一体何があったのか。
だが、今のあたしにはそれはどうでも良かった。
あたしも立ち上がり、カヅキを平手打ちする。