その衝撃で、かけていた眼鏡が吹っ飛んだ。
「いっ…! 何しやがる、ナツキ!!」
「主人を置いて、先に逝ってしまった貴方への仕置きよ。あたしに伝える事があるなら、真っ先に言うべきだったのに。それも伝える事なく、あたしの元から去るなんて…これぐらいで済んで良かったと、思いなさい」
言いつつ、あたしは彼を抱きしめた。
目には、涙が浮かんでくる。
「ごめんね、カヅキ。あたしも貴方が大好きだった。愛してた。ありがとう、あたしを守ってくれて」
「おう…結局、守れずに死んじまったわけだが」
暫くそうしてから、カヅキから離れた。
彼は少し顔を赤くしながら、顔を逸らす。
「くそ…デカい胸、羨ましい…」
一体何を言っているの、この人。
少し冷ややかな目で彼を見てしまった。
「これで、憂いは無くなったなシャル?」
「ナズナ…」
あたしの肩に手を置き、彼はニコリと笑っている。
その笑顔が少し怖い。
先程のあたしの行動が、とてもお気に召さなかったらしい。
確かに、背が低くても彼は男。
そんなのに、恋人が抱きつくのはいい気がしないだろう。
「う、憂いは無くなったけれど、貴方まだ喪が明けていないじゃない? その、婚約の話はまだ…」
「婚約だ?」
ナズナの方から、カヅキの方へ目線を向ける。
彼は、ナズナを睨みつけるように見ていた。
「そんなヒョロっちい奴が、ナツキの婚約者だ? ナツキを守れるかどうか、怪しい限りだな」
「要、ナズナ殿下はこの国の王太子ですよ。無礼を働いてはなりません」
ターニャが苦言を呈すが、カヅキは鼻で笑うだけで返す。
あと、ナズナは細マッチョと呼ばれる部類の人で、ヒョロくはない。
結構ガタイがいい方だと思う。
何で知ってるかは愚問だ。
彼の着替え何回か手伝ってるからですが何か?
「俺、別にここの国民じゃありませんし? ナツキに会いに来ただけですし? 無礼って言われても、関係ないっていうかー」
「はぁ…。
ターニャの言葉に、あたしとカヅキはギョッとなった。
ナズナだけ、冷静にふむ、と言っただけで黙る。
「待って待って、ターニャ! カヅキが女ですって?! それに、婚約者?! そんな話あたし聞いてない!」
「何で俺が今女の体になってるってバレたんですか?! 平たい胸でも見たからですか、コノヤロー!」
あたしとカヅキの抗議に、落ち着けとターニャはジェスチャーで示す。
「まず、要の疑問からですが。貴女を縛った際、骨格の作りが女性の物だったのです。それで気付きました。あと、胸は関係ありません。貴女は発達が遅れているだけでしょう。転生する際、男から女へ骨格などが変わったのです。ホルモンもその際変化したはずです。これから女性らしい体つきになっていくはずだと、推測出来ます。まぁ…背は伸びるかどうかは知りませんが」
最後の言葉に、カヅキはムキーっとなってしまった。
そしてターニャはあたしに向き直り、
「お嬢様。前世のお父上から、婚約者がいるというお話は聞かされていたかと思われるのですが」
と言ってきた。
「確かに、婚約者はいると聞かされた事はあったけど、会わせてもらえなかったのよね。まぁ、高校卒業したら否が応でも顔合わせはあるだろうし、家の為になる人だろうから。愛情を抱けなくても、後継者を作ったらあとは好きにしてもらっても良いと思っていたし」
その言葉に、三者三様のなんとも言えない目線があたしに注がれる。
「な、何よ」
「お嬢様…上に立つ者としての覚悟はご立派でございます」
「お前、結構ドライなとこあるよな」
「シャル、俺はお前の事を愛しているからな」
いや、何でそんな反応になるのよ。
普通でしょ、この考え。
「で、なんで婚約者がカヅキになってるのよ」
「お館様と旦那様の取り決めで、同じ時期に生まれたお嬢様方を婚約者にし、将来は添い遂げさせようと画策していたと聞いております。名前の漢字を同じにしたのも、その為かと。なればこそ、私は心を鬼にして要を鍛え上げた次第でございます」
すぐさまカヅキから、嘘つけ、と悪態が漏れる。
「何が嘘なものですか。次期総帥のお嬢様の伴侶となるのです。お守りしつつ、お嬢様をお支えできるよう、あらゆる技術を叩き込んだのではないですか」
「あれは児童虐待って言うんだよ! 睡眠時間削ってまでやる事か?!」
カヅキの怒りは尤もだ。
あたしでも、小学校時代から中学時代まであんな訓練していたら、精神崩壊を起こしてもおかしくはなかったと思う。
あたしが長谷川から教えてもらったのはその一部だけだったけれど、それでもきつかったのは覚えてる。
それをよく耐えたわ、カヅキ。
「ついぞ、絵心だけは開花しませんでしたが」
「すみませんね! 絵だけ上達しなくて!!」
あなた表記がターニャの場合ひらがなになっていたのはわざとです