「あぁ、貴女がシャルのご友人ですか。ベルファ・ジェイド・テスタロッサといいます。以後お見知り置きを」
「要夏月と申します。今宵の晩餐にお招きいただき、恐悦至極に存じます」
椅子から音もなく立ち、お義父様に対してカーテシーで挨拶する。
TPOは守れるんだ…いや、流石にそうよね。
後ろでターニャが睨みを効かせているんだし。
「シャル同様見事ですね。シャルと同じ師を仰いだのですか?」
「はい。とても厳しい方でした」
チラリ、とターニャの方を見る。
彼女はカヅキを見たまま微動だにしなかった。
その目が若干潤んでるのを見て、本当に愛情深い人だと感じる。
なんでカヅキは理解しようとしないのかしらね。
和やかに食事が始まり、お義父様はカヅキに質問する。
「シャルとはどこで?」
「お嬢様とは同郷なのです。遙か東の国から参りました。私お嬢様の幼馴染なのですが、お嬢様が何者かに拐かされてしまい、こちらにいらっしゃると聞いて馳せ参じた次第でして」
嘘八百甚だしい。
よくそんな作り話が言えるものだ。
少し真実を混ぜているから、ほとんど嘘とも言いにくいところが、また何とも。
「そうだったのですか。確かにナズナ君から、記憶喪失で凄腕の女性を専属護衛にした、と聞かされた時は驚きましたよ」
「お義父様は随分、殿下と仲が宜しいようで」
普通、ナズナを呼ぶ時は殿下と周りは言うけれど、お義父様は最初から君付けで呼んでいる。
それ程までに仲が良かったとは知らなかった。
「いやー、うちの姉の息子がナズナ君に度々迷惑をかけているようでしてね。魔道具が完成する度に、ナズナ君に話しかけていたらそんな仲に」
「そういえば、21貴族の全部の家から娶ってるんでしたっけ、陛下」
お義父様に見えないように、あたしの方を向いたカヅキが物凄い顔をしている。
本当か、と訴えているようだった。
その気持ちはわかるわ。
でもその顔をあたしに向けないでほしい。
あの人の考えなんて、あたしに理解できるわけがないのだから。
「えぇ。その中でもうちの姉は強烈でしてね。ナズナくんのお母様、リン姫が数年後に輿入れすると決まっていたにも関わらず、学校に通っていた当時の陛下に薬を盛って、子を成してしまったのですから。あの時は上へ下への大騒ぎになりましたねぇ…。自分が王妃になりたかったのでしょうが、あの姉の素行が悪すぎたので、21貴族であろうと王妃に迎え入れる事は出来ないと、当時の会議で決まったそうです。いやはや、我が姉ながら何とも恥ずかしい限りです」
お義父様の目が、侮蔑を孕んだような目つきになる。
それほどまでに、自分のお姉さんが嫌いなんだと理解が出来た。
「シャルが、もしナズナ君と婚約するのであれば、姉に絡まれる事必須でしょうね。三人子を成しましたけど、全て男子でしたし。この間の魔王討伐の功労者であるシャルと、前の戦争の功労者である王太子のナズナ君が婚姻するとなれば…まぁ、汚い手を使ってでも邪魔してくるでしょうねぇ」
「その前に排除とか出来ないんですかね?」
カヅキがお義父様に質問する。
それが出来れば苦労はしないと思うのだけど。
「そうですねぇ…その汚い手を使う前に、証拠を押さえて後宮から追い出せば、あるいはですが。まぁ、うちは引き取り拒否なので、平民に降ってもらうことにはなるかと思いますが」
はっはっは、とお義父様は笑う。
この時、ターニャとカヅキが一瞬目を合わせた。
これ、なんかしでかす気だな。
「お義父様。流石に側妃の伯母様が、そんな愚かな事をなさるとは思えないのですが」
「いやいや、シャルは一回絡まれてるじゃないですか。ナズナ君から聞いてますよ? 自分の愛人になれって言った王族を、手を振り払っただけで転ばせたとか何とか」
…まさか、あいつが?
あたしの脳裏に、一人の男性が思い浮かぶ。
錆色の髪の、品位の欠片も無いような男が。
「…まさかとは思いますが、エンリケ様ですか?」
「そうですよ? いやー、あれが我が甥とは思いたくないくらい、酷いものですよねぇ。ちゃんと王族としての教育は受けているはずなのに、自分が王太子になれなかった腹いせに、現王太子のナズナ君に絡んでいるんですから」
確かに。
ナズナより年上のくせに、威張り散らしてるだけの臆病者だ。
王太子になりたいなら、あの時戦場に出てきて功績を挙げれば、少しくらいチャンスはあったかもしれないのだけど。
…いや、ないな。
学業の成績も、ナズナの方が優秀だと聞いた事があるし。
ナズナやユキヤ君が死なない限り、その座が転がり落ちてくる事はないだろう。
「他にも、伯母様のお子様方はいるんですか? 王宮で働いてはいますが、会った事がなくて」
他の王族と会った事はあるが、ナズナと友好的な人達しか覚えていない。
というか、敵対してくる人は名乗りもしないし、ナズナに一発で負かされているから、名を聞こうにも聞けないのだ。