「そうですね、上からエンリケ、ファウスト、マルシオでしたか。私もあまり交流がなくて覚えてられないんですよね」
覚えてられない、ではなく、覚える気がない、の間違いではないだろうか。
指摘するのは野暮なので、しないけれど。
◆◆◆
夕飯も終わり、あたしはメイド達に毎度の事ながら体を磨かれる。
1人で入れるのだけど、そこはテスタロッサ家の娘だからとターニャに叱られてしまっていた。
「そういえば、カヅキと組み手してない…」
ちょっとムスッとなる。
家に帰ってきたらしていいって、ターニャ言ってたのに。
カヅキと組み手が出来ていたのは、小学低学年あたりだったか。
あたしに防衛術を身に付けさせるために、カヅキが相手になってくれていたのだ。
今のあたしの力で、どれだけカヅキと戦えるか分からないし、何なら戦い方を教えて欲しい。
ターニャに相手になって欲しいとお願いした時があったが、ダメですときっぱり断られてしまった。
私の力だと、お嬢様の力に対抗できず圧倒されてしまいますので、と彼女は言っていたけれど、カヅキを拘束できていた時点で、あたしと同じかそれ以上の実力がある、と見えるのだが。
「あー、ナズナに会いたいなぁ」
何なら、ナズナと組み手したっていいのだけど、下手したら骨を折ってしまう。
何回か訓練していた際折ってしまっているし、付き合う前ならいざ知らず、今は恋人同士であるわけで。
流石に、恋人の腕や足は折りたくない。
「お嬢様、電話があるじゃないですか」
お湯から上がった後、全身マッサージしてくれてたリタがそう言ってくる。
「電話って、内線だけでしょう? 外線なんて話、お義父様から聞いた事ないけど」
「お館様のお部屋には、ナズナ殿下直通のお電話があるそうですよ。今の時間だと、メイド長と食堂で晩酌なさっておいででしょうし、こっそり忍び込んでかけてみるのはアリなのでは?」
何でそんな話知ってるのよ、リタ。
怪訝そうなあたしの表情に、リタはニコリと返してくる。
デマか本当かは分からないが、許可なくお義父様の部屋に忍び込む趣味は、あたしにはない。
「別に良いわ。話したいなら、直接行くまでだし」
「夜這いになりますよ、それ」
その言葉に、あたしの顔が真っ赤になる。
「だっ、誰が夜這いなんてはしたない真似しますか!! された事はあってもした事はないわよ!!」
「えー! 夜這いされたんですか?! 誰ですか誰ですか?! アレンですか? リオンですか? それとも渋いところでジョニーとか?! ローエンさんは…夜這いするようには見えませんけど…」
誰がこの屋敷の者だと言ったのか。
むしろリタの目には、ここで働く男性従業員は、全員獣だとでも思っているのだろうか?
「まぁ…この屋敷の者でない事は、彼らの名誉のために言っておくわ」
「なら、ナズナ殿下にですか?!」
きゃーっ、と一人盛り上がるリタに、あたしは遠い目をした。
それならどれ程良かったのか。
貞操観念がしっかりしている彼に限って、そんな事態に陥らないから、少しヤキモキしているというのに。
あたしは首に少しだけ触れる。
あの夜を塗り替えられるのは、ナズナだけだと思っているのだけど、言葉にするのは恥ずかしい。
はしたない女だと思われたくない。
こんな事考えている時点で、はしたないのだけれど…。
思わずため息をついてしまう。
「お嬢様?」
「殿下とはそんな仲ではないし、勘繰らないでもらえると助かるんだけど」
すみません、とリタは謝ってくる。
うちの若いメイド達は、ゴシップネタが大好きだ。
ターニャもそれは規制せず、好きにさせている。
それ以外楽しみがありませんから、この世界は。
と、彼女はため息をつきつつ言っていたのを思い出した。
◆◆◆
寝巻きに着替えたあたしは、カヅキが泊まっている客室の部屋をノックする。
すぐに返事が返ってきて、部屋の扉が開いた。
「おま…その格好で来るとか馬鹿なのか?」
「あら、今は同性でしょう? 何を気にする必要性があるの?」
白いワンピースみたいな寝巻きを着用していたカヅキが、あたしの格好を見て苦言を呈してくる。
そんなに変な格好かしら、と自分の姿を反射した窓越しに確認する。
黒いシフォンのワンピースに、夏用のカーディガンを羽織り、確かに少し胸を強調するような襟元の開き方ではあるが、それも少しばかりであった。
異性の部屋に行くならもう少し着込んで来るが、相手はカヅキだ。
お互い幼い頃から知っているのだ、今更だと思う。
「本当にお前は警戒心がないのな」
「警戒して欲しいの? 女性になった貴女に? どうして?」
「テメェで考えろ」
突き放すような言い方をするが、本当に突き放すわけではないので、カヅキも優しい人だなと思った。
「お邪魔しまーす」
「おま…っ! …はぁ」
カヅキの横を通り抜け、部屋に入る。
あたしの行動に、彼女は制止しようとして諦めた。