転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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60.夜です

「そうですね、上からエンリケ、ファウスト、マルシオでしたか。私もあまり交流がなくて覚えてられないんですよね」

 

覚えてられない、ではなく、覚える気がない、の間違いではないだろうか。

指摘するのは野暮なので、しないけれど。

 

◆◆◆

 

夕飯も終わり、あたしはメイド達に毎度の事ながら体を磨かれる。

1人で入れるのだけど、そこはテスタロッサ家の娘だからとターニャに叱られてしまっていた。

 

「そういえば、カヅキと組み手してない…」

 

ちょっとムスッとなる。

 

家に帰ってきたらしていいって、ターニャ言ってたのに。

 

カヅキと組み手が出来ていたのは、小学低学年あたりだったか。

あたしに防衛術を身に付けさせるために、カヅキが相手になってくれていたのだ。

 

今のあたしの力で、どれだけカヅキと戦えるか分からないし、何なら戦い方を教えて欲しい。

 

ターニャに相手になって欲しいとお願いした時があったが、ダメですときっぱり断られてしまった。

私の力だと、お嬢様の力に対抗できず圧倒されてしまいますので、と彼女は言っていたけれど、カヅキを拘束できていた時点で、あたしと同じかそれ以上の実力がある、と見えるのだが。

 

「あー、ナズナに会いたいなぁ」

 

何なら、ナズナと組み手したっていいのだけど、下手したら骨を折ってしまう。

何回か訓練していた際折ってしまっているし、付き合う前ならいざ知らず、今は恋人同士であるわけで。

流石に、恋人の腕や足は折りたくない。

 

「お嬢様、電話があるじゃないですか」

 

お湯から上がった後、全身マッサージしてくれてたリタがそう言ってくる。

 

「電話って、内線だけでしょう? 外線なんて話、お義父様から聞いた事ないけど」

「お館様のお部屋には、ナズナ殿下直通のお電話があるそうですよ。今の時間だと、メイド長と食堂で晩酌なさっておいででしょうし、こっそり忍び込んでかけてみるのはアリなのでは?」

 

何でそんな話知ってるのよ、リタ。

 

怪訝そうなあたしの表情に、リタはニコリと返してくる。

デマか本当かは分からないが、許可なくお義父様の部屋に忍び込む趣味は、あたしにはない。

 

「別に良いわ。話したいなら、直接行くまでだし」

「夜這いになりますよ、それ」

 

その言葉に、あたしの顔が真っ赤になる。

 

「だっ、誰が夜這いなんてはしたない真似しますか!! された事はあってもした事はないわよ!!」

「えー! 夜這いされたんですか?! 誰ですか誰ですか?! アレンですか? リオンですか? それとも渋いところでジョニーとか?! ローエンさんは…夜這いするようには見えませんけど…」

 

誰がこの屋敷の者だと言ったのか。

むしろリタの目には、ここで働く男性従業員は、全員獣だとでも思っているのだろうか?

 

「まぁ…この屋敷の者でない事は、彼らの名誉のために言っておくわ」

「なら、ナズナ殿下にですか?!」

 

きゃーっ、と一人盛り上がるリタに、あたしは遠い目をした。

 

それならどれ程良かったのか。

貞操観念がしっかりしている彼に限って、そんな事態に陥らないから、少しヤキモキしているというのに。

 

あたしは首に少しだけ触れる。

 

あの夜を塗り替えられるのは、ナズナだけだと思っているのだけど、言葉にするのは恥ずかしい。

はしたない女だと思われたくない。

 

こんな事考えている時点で、はしたないのだけれど…。

 

思わずため息をついてしまう。

 

「お嬢様?」

「殿下とはそんな仲ではないし、勘繰らないでもらえると助かるんだけど」

 

すみません、とリタは謝ってくる。

うちの若いメイド達は、ゴシップネタが大好きだ。

ターニャもそれは規制せず、好きにさせている。

それ以外楽しみがありませんから、この世界は。

と、彼女はため息をつきつつ言っていたのを思い出した。

 

◆◆◆

 

寝巻きに着替えたあたしは、カヅキが泊まっている客室の部屋をノックする。

すぐに返事が返ってきて、部屋の扉が開いた。

 

「おま…その格好で来るとか馬鹿なのか?」

「あら、今は同性でしょう? 何を気にする必要性があるの?」

 

白いワンピースみたいな寝巻きを着用していたカヅキが、あたしの格好を見て苦言を呈してくる。

そんなに変な格好かしら、と自分の姿を反射した窓越しに確認する。

 

黒いシフォンのワンピースに、夏用のカーディガンを羽織り、確かに少し胸を強調するような襟元の開き方ではあるが、それも少しばかりであった。

 

異性の部屋に行くならもう少し着込んで来るが、相手はカヅキだ。

お互い幼い頃から知っているのだ、今更だと思う。

 

「本当にお前は警戒心がないのな」

「警戒して欲しいの? 女性になった貴女に? どうして?」

「テメェで考えろ」

 

突き放すような言い方をするが、本当に突き放すわけではないので、カヅキも優しい人だなと思った。

 

「お邪魔しまーす」

「おま…っ! …はぁ」

 

カヅキの横を通り抜け、部屋に入る。

あたしの行動に、彼女は制止しようとして諦めた。

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