いつもの客室なのだが、友達がいるだけでこんなにもワクワクするとは思わなかったあたしは、ニコニコでカヅキに言う。
「恋バナしましょう!」
「何でだよ?!」
あたしの提案にカヅキが叫ぶ。
今は夜中に近くなってきている時間だから、そんな大声出すのはいけない事だと思うのだけど。
「カヅキ、静かにして」
「誰のせいだと…」
さらにため息を吐く彼女に、あたしは首を傾げた。
なんでそんなに怒る必要があるのだろうか?
本当にわからない。
「お前さぁ、俺元々は男なんだぞ? それにお前の婚約者だったの。本来なら結婚してたの。おわかり?」
「それも一回死んでリセットされちゃったじゃない。今は貴女女の子なのよ? それに、あたしはナズナが好きだから。貴女が男の子で来たとしても、揺らがなかったわ」
ベッドに腰掛け、カヅキに微笑む。
長いため息を吐いた彼女は、あたしの隣に腰掛けた。
あたしの行動へ、反抗するのを諦めてくれたらしい。
「で、貴女好きな人出来た?」
「…まぁ、な。妹も出来たし」
少し顔を赤らめて、カヅキは言う。
恋する乙女の顔で、あたしは嬉しくなった。
「良かったー。あたしの事引き摺ってたらどうしようと思って」
「引き摺るわけねーだろ、ばーか。お前は、まぁ…今は大事な友達だと思ってるよ」
更に顔を赤くした彼女が可愛くて、あたしは抱きつく。
「かーわーいーいーっ! 大好き、カヅキ!!」
「うわっ! 抱きついてくるな! 邪悪なクッションに潰される!! …俺も好きだよ、ナツキ…」
最後の方は小声だったけど、ちゃんとあたしの耳には届いた。
抱きしめる力が強くなる。
「まじ、呼吸できない、から、離せ…っ!」
「あ、ごめん」
バシバシと背中を叩かれカヅキから離れると、少し恨めしげに睨まれた。
「くそ…羨ましい」
「成長途中だって、ターニャも言ってたじゃない。これからカヅキも大きくなるよ、多分」
それに、胸を羨ましいと言っているあたり、男の子の思考というより、女の子の思考に偏っていってる気がする。
あたしの知っているカヅキだけど、カヅキじゃなくなってもいるのだ。
それが、少し寂しいと感じてしまう。
「そういえば妹さん出来たって言ったけど、貴女向こうの世界で生まれたの?」
「なら逆に聞くが、お前はどうやってこの世界に来たんだ?」
どうやって、と聞かれても、あの馬鹿神に碌な説明もされず落とされたのだが。
そう説明すると、カヅキはそういう事だと返してきた。
だからどういう事なのよ、説明しなさいよ。
「妹は葵というんだが、拾ってきてな。今は彼氏の裕里と一緒に育ててる」
「葵ちゃんかぁ…」
カヅキが育てているのだから、きっといい子に違いない。
多分、きっと。
…捻くれてないといいなぁ。
深夜になるまで話していたら、ターニャが部屋に押し入ってきて、あたしは自室に返されてしまう。
もう少し、話していたかったなぁ。
◆◆◆
朝の光で目が覚める。
いつもながらだが、メイド達が起こしに来る前に起きてしまった。
いや、護衛の任をしているわけだし、起こされて起きるようなヘマだけは避けたいんだから、別に良いのだけど。
起き上がろうとして、お腹辺りが重い事に気付いた。
何かがあたしに抱きついている。
「…?」
羽毛の掛け布団を捲ると、あたしに抱きついてカヅキが爆睡していた。
自分の部屋からここに移動してきたと推測出来るが、何故移動してきたのか分からない。
あたしは呼び鈴を持ち上げ、鳴らす。
「おはようございます、お嬢様。お呼びでしょうか?」
微かな音だったにも関わらず、アリスが来てくれた。
あたしは要件だけ告げる。
「おはよう。悪いのだけど、ターニャを呼んできてくれないかしら」
「畏まりました」
部屋を辞したアリスを見送って数分後、ターニャが部屋へやってきた。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「うん、呼んだ。あのね、これどうしたらいいかなって…」
布団を捲って、爆睡しているカヅキを見せる。
途端、ターニャの顔が険しくなり、近くの窓を全開にすると、
「何をやっているのですか、要ーっ!!」
あたしからカヅキを引き剥がし、窓の外に放り投げた。
驚いて声を出すのも忘れたあたしの耳に、ドスンッ、と何かが地面と激突した音が聞こえる。
「…え、ちょ、ターニャ?! ここ2階なんだけど?!」
「存じ上げております」
存じ上げております、じゃないよ?!
アワアワしてるあたしの耳に、風切り音が聞こえ、何者かがターニャに蹴りを入れていた。
彼女はそれを腕で防御していたが、ミシミシと音が鳴っている。
「おはようございます、要。なぜお嬢様のお部屋にいて、なぜお嬢様に抱きついて寝ていたのか、説明していただけませんか?」
「おはようございます、師匠! てか、寝てる人間外にぶん投げるのは師匠くらいですよ! 殺す気ですか!!」
ターニャが腕を振り下ろし、カヅキを自分から遠ざけた。
離れた瞬間、腕を振っているところを見るに、相当痛かったようだ。
表情は全く変わってはいないが。