「今の貴女は頑丈でしょうに。何を言っているのですか」
「頑丈でもですよ。逆に返しますが、非常識が服着て歩いているような人が何言ってんですか」
売り言葉に買い言葉。
昨日は仲良さげな雰囲気だったのに、起きたらこうなる、と。
あたしは少々呆れながらも、カヅキに質問する。
「本当に、なんであたしの部屋にいたの貴女は?」
「…本当にわからん。夢遊病か?」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと着替えてらっしゃい。貴女の着替えは部屋に用意していますからね。それとも、宛てがわれた部屋がわからない…とは言いませんよね?」
あたしの質問に首を傾げるカヅキへ、ターニャが追い打ちをかけるように言う。
だから、なんでそんな言い方しか出来ないの貴女は…。
「はあー? 分かりますがぁ? 馬鹿にするのもいい加減にしろよ、クソババア!!」
「それほど元気なら、大丈夫そうですね。ほら、着替えに行きなさい。お嬢様の裸体でも拝みたいのですか、貴女は」
誰が見るか、ばーか!!
とカヅキは扉が壊れるんじゃないか、というくらいの音で出て行った。
「ターニャ…素直にごめんなさいって言えばいいのに」
「別に謝る必要性を感じた覚えはございません。下は生垣でしたので、あの子の受け身ならば怪我一つしないと信じたまでです。まさか、一階からこの場まで跳躍してくるとは思いもしませんでしたが…。ヒビ入ってますね、これ」
カヅキの攻撃を防御した腕。
左腕であるが、ターニャが袖を捲ると赤黒く変色していた。
「うわ、治そうか?」
「ご心配には及びません。こんな状態でも動けるよう、気取られぬよう訓練は受けてますので」
それ前世の話だよね?
今の話じゃないよね?
ヒビが入っているというのに、ターニャは手を鳴らし、他のメイドを呼び寄せる。
シオンに選んでもらった、紫色の花が刺繍されている白いワンピースに袖を通し、暑いからと髪はポニーテールにしてもらった。
そのまま食堂に行くと、ちょうど着替えたカヅキと遭遇する。
「さっきぶり。大丈夫そう?」
「何が」
さっきのターニャとのやり取りで、若干不機嫌になっているようだった。
あたしは苦笑いを浮かべるしかない。
「好き嫌いとかあったっけ」
「ない。あっても表情に出ないよう訓練されてるの、知ってるだろ?」
知ってはいる、知ってはいるが。
何でここまで似てるのに、この師弟は仲が悪いのか。
いや、カヅキの煽り耐性の低さが原因か、もしくはターニャの自覚なき口の悪さが原因か。
どちらともだな、と思考の果てに至る。
今日の朝食にお義父様はいないようで、メイドのリタに尋ねた。
「お義父様はどちらに?」
「昨夜から研究に没頭なさっておいでのようで、朝食は研究棟で取る、とお言葉をいただいております」
この場にターニャがいないのもそれが原因か。
朝食に、コーンポタージュのスープと焼きたてのパン、サラダとスクランブルエッグが並ぶ。
そのメニューを見た瞬間、カヅキがあたしを見た。
「気になさらなくて結構よ、カヅキ。アレルギー反応は出なくなってるから」
「…マジで言ってるのか?」
前世であたしは卵アレルギーだった。
それも重度の。
一口でも食べたら、蕁麻疹が体を覆い、呼吸困難になって意識が無くなるくらいだった。
それを考慮してか、あたしに出されるのは卵が抜かれた料理達で、コンタミネーションも許さないような調理の仕方だったと、長谷川から聞いた事がある。
でも今世では、毒耐性とでもいうのだろうか。
アレルギー症状が全く出なかった。
あの使えない神にしては、そこだけ仕事しているようだ。
おかげで卵料理が美味しい事!
一口食べてみるが、牛乳を入れてあるのかクリーミーで美味しい。
カヅキの方を見てニコリと笑うと、ヒヤヒヤしていた彼女の表情が安堵に変わる。
「おま…自殺行為だぞ、それ」
「だから、大丈夫なの。心配してくれてありがとう。でも、今世の体はよほど頑丈なようよ?」
前世でひ弱だったというわけではないが、そういうハンデがあった。
気軽に人が作ったものなんて食べれたものじゃなかったし、何なら篠原家の料理人達には苦労をかけさせた。
だからこそ、今は楽しい。
ご飯も美味しく食べれるし、何なら鑑定スキルで毒物の有無もわかるし。
転生して良かったとは、手放しでは喜べないけど。
それでもこの体質は嬉しい。
「てか、ベルファさん、何の研究してんの?」
言語と仕草が全く噛み合っていない彼女が、あたしに質問してきた。
「魔道具の研究ですって。何を作っているかはわからないけど、この世界に自販機とか冷蔵庫とか現代にあるものは、全てお父様が作ったものだそうよ。勿論、ターニャの入れ知恵でね」
助かってはいるけれど、凄いチグハグ差を感じてしまう。
中世ヨーロッパ風なのに、使うものは現代のものだなんて。
世界観がバグっているとしか思えない、と何度思った事か。
「ふーん。その研究棟、俺も入りたいんだけど」
「ターニャに許可もらえれば入れるかもね」
途端、カヅキは嫌そうな顔をする。