朝のアレがあるからだろうが、見たいというなら我慢してもらわなければ。
「ナツキも一緒に…」
「あたし、これから仕事なのよね」
一緒に来て欲しそうなカヅキに、あたしは断りを入れる。
彼女はムッとなってしまったけど、王族の専属護衛任務だから申し訳ない。
「仕事って言ったって、王子様といたいだけだろうが」
「だから何よ。あたしの目的は達成されたのだから、後はナズナの喪が明けるのを待つだけよ」
喪が明けたら、テスタロッサ家に婚約の打診が来るだろう。
お義父様も、薄々あたしとナズナが好き合っていると気付いているだろうし。
まぁ、誠実なナズナに限って、浮気なんて馬鹿な真似はしないだろうが。
モテるんだよね、ナズナ…。
「ご馳走様でした。リタ、アルヴィンに今日も美味しかったって伝えておいてくれる?」
「はい、お嬢様。今日の夕食はいかが致しましょう?」
いつも作ってもらっているから、こちらからリクエストしたいところなんだけど。
「うーん…貴女達が食べたいもので良いわ」
和食が食べたいって言ったら、多分血眼で材料とか探して作ってくれるんだろうけど、そこまで我儘は言えない。
洋食も、美味しいものはたくさんあるしね。
◆◆◆
帰ったら組み手をするという約束をして、屋敷の前でカヅキと別れる。
研究棟へは、ティアとアニーが連れて行ってくれるだろう。
あたしは転移で、王宮内にある宿舎の自室に飛んだ。
隊服に着替えて、ナズナの自室に向かう。
途中、薄い水色の髪をした少女が専属護衛を伴い、こちらに歩いてくるのが見え、あたしは壁際に身を寄せ頭を下げた。
「あら、貴女は…そうだわ。ナズナ兄様の専属護衛の方ね。ここはとても広いから、会うのも難しいもの。お久しぶりね、シャルロット」
「お久しぶりでございます。サラ・ブルーローズ・ブリリアント殿下」
ナズナと友好的な王族の一人であるサラ殿下。
ユキヤ君と同い年の女の子なのだけど、母親であるノーラ様がリューネ国の祭事を取り仕切っている、ジルベルト家の出身なものだから、その娘であるサラ殿下も物腰が柔らかい。
ナズナと友好的なら、あたしも敵対する謂れはないし。
「もう、サラで良いって言ったのに。頭も上げていいわ。そういえば、ナズナ兄様と婚約間近だって噂、本当?」
「…ご想像にお任せします」
はいそうです、なんて、誰が聞いてるかわからない廊下で話すことはできない。
若干目が泳いではしまうが。
サラ様、天然さんな感じがするんだよなー。
「貴女が義姉様になってくれたら、この国は安泰ね。知識も豊富だって、ブランカ姉様も褒めていらっしゃったもの。貴女の花嫁姿、とても綺麗だと思うわ」
「恐縮です…」
苦笑を浮かべると、両手を握られてしまった。
「本当よ。ナズナ兄様はとても苦労なさっているもの。貴女が支えてくれたら、兄様も助かると思う。私は落ちこぼれだから、兄様達のお役には立たないし…」
「サラ様の心根だけで、ナズナ殿下は救われておりますよ。殿下には、内外でも敵は多いと聞きます。殿下の心配をなさってくださる、サラ様のような方が殿下には、とても有難いのです」
手を握り返し、微笑む。
ユキヤ君は勿論、血の繋がった兄弟だから信頼しあっているのはわかる。
アキカちゃんや、ハルト君は、王妃様がハーフエルフだから人間世界の事なんてどうでもいいのだろうと思っている。
まだ幼いしね。
でも、ある程度年齢を経ている王族はそうもいかない。
野心を持っている側妃も多いと思う。
そんな人達を、ナズナは一人で対処しなければならなかった。
今までは、だけど。
「私も、ナズナ殿下をお守りし、そのお心が晴れるように精進するつもりです」
サラ様はあたしの言葉に微笑みを返してくれた。
花が綻ぶような笑顔で、愛らしいの一言に尽きる。
本当に、ナズナに敵対している王族の人達に、サラ様の爪の垢でも飲ませてやりたいくらいだわ。
拒否るだろうけど。
「それでは、私はナズナ殿下の元へ行かなければならないので、これにて失礼します」
「兄様によろしく伝えておいてもらえる?」
はい、と返して手を離すと、サラ様はニコニコとあたしに対して笑いながら手を振ってくれた。
専属護衛の親衛隊の人も会釈してくれる。
それに手を振り返して、あたしはナズナの元に急いだ。
少し嫌な予感がしたから。
サラ様もだけど、側妃の御息女が本宮に来ることは稀なのだ。
大体は後宮にいるか、来ても軍部の方の所属…まぁ、窓際役職だが…にいる事が多い。
あとは、ナズナに突っかかるために出てくる暇人か、散歩のために出てくるかくらいだ。
後宮も敷地は広いが、あそこは兄弟姉妹が多い魔窟だと、ナズナに聞いた事がある。
「だから、軍部の強化をするべきだと言っているのよ! 何でわからないのかしら、このわからずや!!」
ナズナの部屋の前に到着すると、中からそんな声が聞こえた。
続いて、
「隣の国が戦争を仕掛けてきたらどうするの?! 私達殺されるじゃない!」
と甲高い声も聞こえる。