長い時間、唇を合わせている中、そんな思考に至る。
というか、長すぎ。
「ん、ナズ、も…!」
抗議の声をあげると、後頭部を掴まれさらに深いキスをされる。
何か分からない刺激と共に、呼吸が荒くなってきた。
怖くなって彼の腕を掴むと同時に、立っていられなくなって、あたしは座り込んでしまう。
その際唇が離れて、あたしは彼を見上げた。
「……悪い、シャル。自制が効かなくなった」
「あ、謝るくらいなら、最初からしないでもらえる?!」
あたしの目線に合わせて、膝をつき謝ってくる彼に怒鳴る。
心臓の鼓動が早くて、潰れてしまいそうだ。
「シャル、顔真っ赤だぞ」
「誰のせいだと…っ! んっ…」
触れるだけのキスをされ、ナズナは悪戯が成功したような笑顔を見せる。
「俺だな」
「…馬鹿」
その後本当に立てなくなってしまって、ナズナにお姫様抱っこされながら、退勤の時間までそのままの状態で、政務をこなされてしまった。
書類を持ってきた文官さん達の目線が凄く痛かった…。
◆◆◆
「っていう事があってね」
「俺は何聞かされてんだ、これ」
帰ってきてから、カヅキと組み手をしながら城であったことを話す。
それを聞いた彼女の感想がこれだ。
「ナズナも酷いと思わない?」
「お前の力なら抵抗できただろ。抵抗しないって事は、お前も嫌がってないって事じゃんか。まぁ、相手がナズナじゃなかったらぶち殺してる所だが」
ナズナじゃなかったら、あたしだって本気で抵抗している。
彼だから許したわけで。
「ゲロ甘すぎ。聞かされる俺の身にもなってくんない?」
「貴女だって、恋人とこういう事くらいするでしょ?」
そう聞き返すと、彼女は顔を真っ赤に染める。
「してねーわ!!」
「うわっ! 力強っ!!」
回し蹴りをして来たので腕で防御するが、先ほどより重さが増していた。
何とか踏ん張り、飛ばされる事は回避したが、防御した腕が痺れてしまう。
「ナズナみたいに破廉恥じゃねーよ! 裕里は!!」
「ナズナだって破廉恥じゃないわよ! 愛情表現が行き過ぎただけだもん!!」
ドカッ!!
バキッ!!
と、通常では考えられないくらいの音をさせながら、あたしとカヅキは本気の取っ組み合いを始めてしまった。
衝撃波が生まれ、屋敷の窓が割れ始める。
それでもあたし達は気付かないくらい、頭に血が昇ってしまったようで、さらに威力が増していった。
「はっ! やるじゃねぇか、ナツキ!」
「貴女もね! 今まで本気で相手してなかったわね?! 無礼じゃないの!」
お互い怒鳴り合う。
だがそれも、頭に衝撃が走るまでだった。
「いっ…!」
「痛っ!! え、何?!」
二人共蹲り、頭を押さえる。
あたしは何が起きたか分からず、驚いて動けなくなってしまった。
「師匠! 何するんですか!」
「それはこちらの台詞です。何をやっているのですか。それにお嬢様も。この惨状お分かりですか?」
顔を上げると、ニッコリ笑っているターニャが目に入る。
彼女が言った惨状というものがわからず、あたしは周りを見渡した。
花壇はえぐれ、屋敷の窓は破損し、植えられていた木はなぎ倒されている。
この状況から察するに、やったのはあたしとカヅキだろう。
「「すみませんでした」」
仁王立ちしているターニャに、二人して土下座する。
「この惨状の回帰、勿論して頂けますね? 出来ますよね、お嬢様? カヅキ?」
「「はい、喜んで!!」」
カヅキは回帰魔法を屋敷に施し、あたしはあたしで、敷地内の惨状を創造魔法で作った時魔法で戻して行く。
「あんなターニャ、久々に見たよぅ…怖いよぅ…」
泣きそうになりながら、魔法を行使して行くあたしに、カヅキは言った。
「俺、いっつもあれだったんだけど。だから言ったろ。お前には甘いって」
「うぇ…ごめんなさいぃぃぃ…」
もはや何に対して謝っているのかわからないが、もう二度とカヅキと本気で組み手しないと誓う。
怪我人がいなかったかターニャに聞いたが、自分で探しては? との答えが返ってきたので、トボトボ屋敷の中を歩いて怪我人を探した。
本気で怒っているらしい。
あんなターニャ見たの、小学生の時以来だ…。
「お嬢様、大丈夫でございましたか?」
廊下の向こうから、ティアが走ってくる。
胸の大きさがあたしと同じくらいで、走る度に揺れて邪魔そうだ。
「ごめんティア…あれ、あたしとカヅキが原因でね…怪我人いたら治すから、誰か怪我してない? ごめんねぇ…」
「お嬢様、泣かないでください! 怪我人は幸いにも出てませんから。メイド長にすっごい叱られたんですね。私も怒られた事があるからわかります」
ティアがヨシヨシと、頭を撫でてくれる。
優しいなぁ、ティアは。
ターニャがいたら甘やかすなと言われそうだけど。
「お嬢様は、ご自分の何処が悪かったのか理解出来ているから、多分これ以上は怒られませんよ」
「そうかなぁ…そうだったら良いなぁ…」
その日の夕飯はお義父様に出されたものと違い、結構質素な物を出された。