罰だから仕方ないのだけど、経緯を聞いたお義父様は爆笑して、ターニャに嗜められる。
「これが笑わずにいられます? うちの娘はお転婆だったんですねぇ。驚きの発見ですよ、まったく」
「面目次第もございません、お義父様…」
恥ずかしくて俯いてしまうと、いやいや、とお義父様から声がかかった。
「シャルの意外な一面が見れて、私は嬉しいんですよ。黙っていると儚げな印象なのに、芯が強くてお転婆で、礼儀を弁えている。表情も公式の場では取り繕えるのに、家ではコロコロ変わるのも愛らしい。いやー、うちの義娘は可愛いですねぇ。ねぇ、ターニャ。私と結婚して、シャルの義母になりません?」
「寝言は寝てから言っていただけませんか、旦那様」
お義父様からの誘いも、全く気にせずあしらうターニャへお義父様は言った。
「おや、その言い方だと、今晩私の寝室に来ていただけるんですか?」
「何でそんな取り方になるのですか。訴えますよ」
断られちゃいました、とお義父様は苦笑する。
そのやりとりを見ていたカヅキが小声で、
「あれ、マジで口説いてない? なんでターニャさん、ベルファさんとくっつかないの? 超優良物件じゃん」
「ターニャにも事情というものがあるんでしょうよ、知らないけど」
前に、お義父様に対して思っている事を聞いたけど、そっけない反応だった。
あれが彼女の本心…だとは思うんだけど。
「あたしも、ターニャがお義母様になってくれたら嬉しいのだけど」
と言ってみたが、彼女は軽くため息をついた以外、何も言葉を発さなかった。
ごめんなさい、話しかけてごめんなさい…。
◆◆◆
ターニャの機嫌は翌日には良くなったようで、昨日の話を蒸し返さないようにカヅキと意識共有する。
「そう言えば、貴女。いつまで滞在する?」
朝食の時、軽く尋ねた。
今日でカヅキが滞在して三日目になる。
別に早く帰れと言っているわけではないが、長期滞在するなら、食材もその分多く仕入れてもらわなければならないからだ。
「あぁ、今日の夕方には帰るよ。大体、お前目的で来たは良いが、驚かせてやろうと一ヶ月前から来てたんでな。そろそろ帰らないと、裕里がキレる」
「一ヶ月前って…貴女馬鹿なの?」
あたしがテスタロッサの家にいた時からって話じゃない。
馬鹿としか言いようがない。
「それ、ターニャさんにも言われた。あと、ベルファさんから養女にならないかって言われたけど断ったよ。あっちに家族残してきてるしな」
「移住してきたらいいのに」
何とは無しに言った言葉に、カヅキは首を横へ振った。
「あっちの世界が性に合ってんだ。こっちなんて、貴族とかお偉方との腹の探り合いだろ? んな面倒な事ごめんだな」
「でも将来、あたしが困ったら助けに来てくれる?」
首を傾げ、あたしは彼女に尋ねる。
勿論、断られる事前提の質問だった。
「…まぁ。お前は大事な友達だからな。請われれば、一度くらいは助けてやろう。私様は寛大だからな!」
「何、そのキャラ付け…」
冷めた目で見ると、カヅキはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
拗ねてしまったようだった。
「神様仏様カヅキ様、助けてくれますよね?」
「どーしよっかなー」
ぎゃいぎゃい言い合いながら、友達の急な別れを寂しいと思ってしまう。
カヅキはカヅキで、向こうの世界での生活があるのだから。
寂しいと思ってしまってはダメだと自分に言い聞かせる。
と、そんな気持ちをナズナに溢したら、
「そうか、なら見送りをしなくてはな」
書類を書く手を動かしながらそう言ってきた。
「そうか、見送り…」
「しないつもりだったのか?」
そんなわけないでしょ、と彼に言う。
「神出鬼没に現れたものだから、帰りも勝手に帰ってるものだと思ってしまってて」
家に帰ったらもういませんでした、なんて事態を想像していたのだ。
「そんなわけないだろう。少ししか話してはいないが、あれは律儀な奴だと思う。シャルの初恋の相手だったか? 妬けるな」
「もう、やめてよ。今は貴方が好きなんだって、何回言わせるつもり?」
彼は振り向き、背後に控えていたあたしの腕を掴んで、いきなり引っ張ってくる。
体勢を崩したあたしの耳元に唇を寄せ、
「何回でも言って欲しいな」
と、低い声で囁くように言ってきた。
「だから! そういうのやめなさいって言ってるでしょうが!!」
ナズナの腕を振り払い、耳を押さえて離れる。
本当にこの王子様は、油断も隙もあったものじゃない。
「俺も見送りに行こう。退勤する時に、連れて行ってくれ」
「…御意」
そして夕方。
退勤したあたしはナズナを連れてテスタロッサ家へ戻る。
そこには雛桔梗に似た何かを身に纏ったカヅキがいた。
「ナイスタイミング。んじゃ、帰るから」
「軽っ!!」
片手を上げてあたしにそう言う彼女へ、思わず突っ込んでしまう。
「要。あちらでお食べなさい。貴女の好物ばかり詰めてみました」
「お婆ちゃんみたいっすよ、師匠。ありがたく貰いますけど」
ターニャからお弁当をもらったカヅキは、収納魔法にそれをしまう。
「カヅキ。今度は真正面から城に来い。歓迎する」
「おう。次に会う時までに鍛えておけ、ナズナ。俺が本気出せるくらいにな」
お互いに拳をくっつけ、ニヤリと笑った。
ナズナが短期間で気を許すなんて、余程カヅキの事を気に入ったのだろう。
「ナツキ」
カヅキがあたしの名前を呼び、抱きしめてくれた。
「息災で。あぁは言ったが、本当に困ったら何回でも呼んでくれ。どこにいても駆けつけるから」
「うん…っ! 元気でね、カヅキ。大好きだよ…っ!!」
涙が零れる。
あたしの初恋の人は…友達は本当に優しい。
カヅキが纏った鎧から機械音が鳴り、あたしは離れる。
ブースターが入ったようで、カヅキの体が宙に浮き始めた。
「じゃあ、またな」
そう言って彼女は消える。
多分、自分の世界に転移していったのだろう。
「また、ね」
あたしは、涙ながらに彼女を見送る。
きっと、また会えると信じて。
2000文字越えたけど、悔いはない!
八月完!