夏休みが終わる一週間前、学校に戻ろうという時にユキヤ君が、馬車を一台ではなく二台使って行こうと言い出した。
いや、確かに迎えの時も二台で来てましたけど。
いったいどうしたのかな?
あたしが首を傾げていると、ナズナが耳打ちしてくる。
「俺達に気を遣ってるんじゃないかと思うんだが。あとシャル、気付いていないようだから言っておくが、ユキヤとオリヴィエは恋人同士だからな。本来ならカナリアと二人きりは避けたいはずだ。推測だが、オリヴィエから何か言われたんだろう。でなければ、気を遣ってもこのような提案するはずがない」
成程。
オリヴィエさんが。
「というか、それって…」
「しー」
続きは馬車に乗ってからな、とでも言いたげに、ナズナは自分の口に手を当てそう言ってくる。
あたしは一つ頷いて、彼と共に馬車に乗り込んだ。
本来ならこの季節、窓を全て閉めると暑いのだが、お義父様が作ってくれた小型魔道具が馬車に搭載され、空調管理が行き届くようになっている。
ついでに、馬車のソファー部分も硬かった物から柔らかい物に交換されており、これもお義父様が手配してくれたらしい。
義娘可愛さと、ターニャの入れ知恵だろうな。
これ。
ナズナ専用の馬車にしか搭載されていないようで、カナリアが羨ましがっていた。
代わって欲しいと言われてしまったが、ナズナが馬鹿な事を言ってるんじゃない、と嗜めるだけで終わったのは良かった事なのか。
良かった事なのよね、うん。
カナリアに悪意がないから、多分本当に羨ましかったんだろうけど、あたしも流石に恋人と女性が一緒に馬車にいる姿は想像したくない。
密室だしね、ここ。
浮気してないって言われても、信じれるかどうか。
「別にゴシップが好きなわけではないけれど、さっきの話の続きをしても良いかしら?」
ゆったりしているナズナに問いかける。
「あぁ、ユキヤとオリヴィエの話か。俺も気付いたのは数年前だが、あれで上手く隠しているのは流石俺の弟というべきか。どちらから想いを告げたのかは分からないが、ある時から仲睦まじくなっててな」
「ユキヤ君にも婚約者いるよね?」
ナズナにもいたのだ、ユキヤ君にいないわけはないだろう。
てか、後宮に引っ込んでる面々にも婚約者がいるはずなのに、何で出ていかないのかしら。
「あぁ、いるな。俺の時とは違って、結構まともな所のご令嬢だ。落ち度も何もないから、このまま行けば普通に婚姻を交わすだろう」
「でも、オリヴィエさんと恋人なんだよね、ユキヤ君…。あ、その婚約者さんと関係最悪とか?」
そう言うあたしに、ナズナはゆるく首を横に振る。
「何回か王宮内で会ってはいるようだが、和やかにお茶飲んでたぞ。あれも本心を隠すのが上手いからな。相手のご令嬢も穏やかなタイプで、本来ならユキヤを支え慈しむような感じなんだ。今後どうするかはわからんが、最悪な方にいかないと良いとは思っている」
「最悪な方?」
とは何だろうか。
ナズナから聞かされるユキヤ君の婚約者は、愛人を許してくれそうな性格をしているように感じる。
オリヴィエさんの存在事、ユキヤ君を愛してくれそうな。
その点あたしはダメだ。
ナズナから、他に好きな人が出来たと言われても、離れてあげられそうにない。
嫉妬に狂って、ナズナ諸共そのご令嬢を殺しかねない。
これじゃあ、宮塚と一緒じゃない。
少し思考してから、若干落ち込む。
「オリヴィエは平民だ。お前と違って、何か功績を立てたわけでもない。親衛隊の副隊長ではあるが、ただそれだけだ。王族は平民と婚姻出来ないのは知っているな?」
「うん。それは知ってる」
そういう風に法律で決まっていると、ターニャは言っていた。
平民は同じ立場の人か、貴族としか婚姻出来ないとも。
「ユキヤがオリヴィエと駆け落ちしないか心配なんだ。俺が王位についたら、すぐに法改正を行うつもりなんだが、そこまで待てるかどうか…」
「王位につくって、一体何時のつもりなの?」
それによっては、その最悪が起こる可能性がある。
「というか、それって最悪なの?」
「ユキヤ達にとっては幸せだろう。だが、王家の威信なんてどうでも良いが、ご令嬢の名に傷が付くんだ。王族と婚姻して、行く行くは中流貴族の一貴族として、家を盛り立てて行くつもりだったのに、その王族に捨てられてしまう。しかも、婚約者の王族は平民と駆け落ちしたなんて醜聞、いくらこちらが慰謝料として大金を払った所で、消えはしないだろう。次の婚姻も決まるかどうか、わからん」
そこまで大事になるのか。
自分の弟の幸せは願いたいが、ご令嬢の立場を考えるとそれも難しい、という事なのだろう。
「ナズナが娶るとか、あたしそれは流石に嫌よ」
「俺も嫌だ。なぜユキヤの責任を俺が取らねばならん。取らせるなら、駆け落ちしたユキヤを探し出して、あいつ自身に取らせる。あと、俺が王位についたら後宮は解体する予定だ。国内外に、俺の妃はシャルだけだと知らしめる」