真剣な顔をした彼に、あたしは思わず目を逸らしてしまう。
少し顔が赤くなってしまっているだろうと、推察出来た。
「ふっ…お前は可愛いな」
「口説かないでもらえません? 外には団長達もいるのに。それに今は仕事中なので」
ぷいっ、とあたしは顔を背ける。
そんなあたしの行動に、ナズナはくっくっと笑いを堪えきれないでいるようだった。
◆◆◆
久々に登校する学校は、相も変わらず大きいという印象を与えてくる。
挨拶してくれるクラスメイト達に挨拶を返し、あたしはナズナの隣の席についた。
「というか、席替えとか無いのかしら?」
「ないな、ほぼここだ。まぁ、あったとしてもお前は俺の隣だ。護衛役だしな?」
少し疑問に思った事に、ナズナが返してくれる。
ただの独り言だったのに、彼は律儀だ。
あと首を傾げて言わないで欲しい。
あたしにとっては目の毒だから。
「それはわかってるわよ」
「はーい、静かにー」
カーン先生が出席簿を持って教室に入ってくる。
それまで騒いでいたクラスメイトが、一気に静かになった。
「えー、皆さんおはようございます。今日は新学期の初日なんで、ホームルームが終わったら解散してもらって構いません。ですがその前に、転入生がいますので紹介します。はい、入ってきて下さい」
カーン先生に声をかけられた人物は、ゆっくりと扉を開け、彼の隣に並ぶ。
「自己紹介どうぞ」
「あ…ローゼヴィッヒ・ロードナイト・ヴァリエール…です。ロゼって呼んでもらえたら、嬉しいです。よろしくお願いします…」
少し気弱そうな印象を抱いた。
ローズピンク色の髪を三つ編みにし、横に流している。
学生服は男性仕様なので、多分彼は男の子なんだろう。
ナズナの方を見ると、少し眉が寄っている。
何故だろうと首を傾げていると、ローゼヴィッヒが席に案内された。
「はい、では解散」
カーン先生がそう言い、教室を出て行く。
途端、ローゼヴィッヒにクラスメイト達が群がって行った。
それを横目で見つつ、あたしはナズナに尋ねる。
「さっきから眉が寄ってるけど、どうかした?」
「いや…ヴァリエールの一族に、ローゼヴィッヒという名前の奴はいないはずだ。このクラスに編入してきたという事は、あいつは少なくとも17歳。俺の一つ下なら、俺が知らないはずはないんだ」
そう言えば、ナズナはリューネ国民の顔と名前を全て覚えていると、前に言っていた。
一体何万人規模でいると思ってんだ、と思った事もあったが、カヅキが帰った後の視察に付き合った時、平民の人達にも声をかけていて、そして全て名前を呼んでいて、彼らも驚いていた記憶がよぎる。
そんなナズナが知らないって、それは相当まずい事が起こっているのではないだろうか。
「探ってみる?」
「いや、まずはヴァリエールの家に確認を取る。その返答次第だな。それまで待て」
彼の言葉にあたしは頷く。
ナズナは何か書いた後、伝書鳩みたいな鳥にそれをくくりつけて、飛ばした。
ローゼヴィッヒの方を見ると、クラスメイトから質問攻めにされてアワアワしている。
そういえばこの間気付いたけど、王族の人達のミドルネームには花の名前が、21貴族の人達のミドルネームには宝石の名前が入っている。
まぁ、そういうものだろうとスルーしていたが、彼のミドルネームにも宝石の名前が入っていた。
「ヴァリエールの、遠縁の子って可能性は?」
「遠縁も把握している。それでも、あいつの名前はない」
ナズナがそこまで言うなら、やはりこの国の人ではないんだろう。
「ふーん…」
遠目からだが、ローゼヴィッヒを観察してみる。
ローズピンク色の髪、青色の瞳。
少し困ったように下がる眉、声も少し高いので女の子の格好をしたら、女性と押し通れそう。
魔力は…。
魔力値も測ろうとした瞬間、拒絶を受ける。
バチンッ! と静電気を起こしたような感覚に、あたしは驚いて体を揺らした。
「どうした、シャル?」
「…弾かれた」
思わず呟く。
あたしは神から力をもらっていて、だから、他人の魔力を測れないなんて事は今までなかった。
「あの子、何なの…?」
ローゼヴィッヒが涙目でこちらを見る。
だがあたしは、それを睨みつけるように見つめるだけだった。
◆◆◆
二学期の最初の授業は、王都のギルドに行って登録する、というものだった。
学校にある転位門からギルドの転位門へ繋ぎ、生徒達が続々門を潜って行く。
その年の二学年の、恒例行事らしい。
「なんでギルドカード作んなきゃいけないの?」
門を潜ると、景色が変わった。
あたしの後に続いてきたナズナに質問する。
「他国に行っても、身分を証明できるようにするためだな。3年には修学旅行なるものがあるらしい。その為のだろう」
こっちの世界でも、修学旅行というものがあるんだ。
前世では視察という名目の、半分旅行、半分仕事で各国を回ったことがある。
学校の修学旅行はそのせいで行けてない。
お金持ちが通う学校ではなく、普通の中学に通っていたので、行き先も定番だったからだ。