ブォン、という音を立てて15mくらいの範囲が結界によって区切られた。
そこに一人の隊士が入っていく。
「簡易結界の中では、怪我しても瞬時に回復するわ。相手に負けを認めさせるか、昏倒させれば勝ちなのだけど、大丈夫かしら?」
「了解いたしました。説明ありがとうございます、ニーナ隊長」
ニーナさんに頭を下げ、結界の中に入ったあたしは剣を抜く。
相手の水色髪の彼女も剣を抜き、あたしに向けた。
「ルル、全力でやっても構わん」
「はい! 隊長!」
腕を組み、ニーナさんはルルさんにそう言う。
それに元気よく返す彼女は、多分実力としては1番下なのだろう。
「では行きますよ!」
「はい、よろしくお願いします」
ルルさんはあたしに向かって走りながら剣を振り下ろしてくる。
だが、動きが少し鈍い気がして、あたしはそれを避けながら腹部を蹴り上げた。
続け様に、剣の柄で後頭部を強打する。
「ぐっ?! がっ!!」
ふぅ…甲冑着られてたら使えない手だから、彼女らが薄手で良かった。
ルルさんが倒れ伏した後、その背中に足を乗せ、首あたりに剣を突き立てる。
「それまで! 勝者、シャルロット!」
ニーナさんが判定を下す。
その声で、背中から足を退けた。
「ルルさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。強いね、君」
手を差し伸べると、にへら、と彼女は笑う。
その顔はとても愛嬌があり、なんで親衛隊なんてやってるんだろうと思った。
「次、サリナ!」
「はーい」
手を取り、立ち上がったルルさんと入れ替わるようにして、クリームイエローの髪をしたサリナさんが入ってくる。
「ルルと違って、私はすこーし手強いわよぉ?」
「お手柔らかにお願いします」
クスッと笑う彼女は少し妖艶で、やっぱり親衛隊という場所には似つかわしくないように見えた。
少ししてから、ニーナさんの始めという声が聞こえる。
「我が敵を撃て、
サリナさんが詠唱を唱え、火の玉があたし目掛けて飛んできた。
成程、彼女は魔法が得意なようだ。
あたしは昨日、雛桔梗と一緒に覚えた4大属性を思い出す。
所謂地水火風というやつだ。
この世界には魔法があり、人はそれぞれ1属性しか使えない。
稀に2属性使える人がいるらしいが、本当に稀だそうだ。
ならあたしは? と雛桔梗に聞いたら
【我が主は全ての属性が使えます。派生系も使えるはずです】
との事だった。
確か、火属性には水属性が対抗手段だったはず。
そこまで思考して、あたしは左手を突き出した。
「
火の玉を消しながら、複数の水の弾丸がサリナさんに襲いかかる。
もちろん急所は外してだ。
「きゃあぁあ?!」
水の弾丸を放ちながら、あたしは脚に強化魔術をかけ、サリナさんへ瞬時に近付き、剣の腹で顔面を殴る。
「それまで! 勝者、シャルロット!」
ニーナさんの判定の後、昏倒したサリナさんに回復魔術をかけた。
瞬時に傷が回復していく。
いくら、結界の回復機能があっても申し訳ないと思った。
あーあ…綺麗な顔が…歯も吹っ飛んじゃってるし…ごめんなさい。
心の中で合掌して、傷が回復したのを見届けると元の位置に戻った。
「次、は…」
ニーナさんが言い淀んでいるのに気付いて、あたしは彼女の方を見る。
ナズナ君達もだが、みんな若干顔が引き攣っているような気がした。
「…?」
一人一人、実力はあったものの、あたしがあっさり倒してしまったので驚いているんだろうか?
「ニーナ、数人がかりでやってみろ」
「殿下、それは…!」
ナズナ君が、ニーナさんにそう指示する。
まぁ、素人だと思っていた奴がこんな動きするんだもの。
もっと実力を見たいということだろうか?
「構いませんよ、どうぞ」
「…アガサ、ベラ、ブリジット! 前へ!」
あたしの言葉にニーナさんは意を決したようで、三人の名前を呼ぶ。
呼ばれた三人が結界内に入ってきた。
アガサさんがモスグリーン、ベラさんがライラック、ブリジットさんがローズレッドの髪、の人かな?
皆一様に嫌な顔をしている。
何故だろうか?
「どうぞ、ご自由に攻撃してください」
声をかけてみるけど、三人とも動こうとしない。
それどころか
「…アガサー…あの子隊長並みに強くない?」
「言うな、私も思うけど」
「いつもの連携でいけば大丈夫でしょ! ほら、行くよ!!」
ベラさんが情けない声をあげ、応答したアガサさんも嫌そうな声を隠そうともせず言う。
一番威勢がいいブリジットさんは、そんな二人を励ましていた。
…あたしは珍獣か何かなんでしょうか?
「いらっしゃらないなら、こちらから行きますが?」
「いかないとは言ってないでしょ! ちょっと待ちなさいよ!」
ブリジットさんに制止され、あたしはニーナさんの方を見る。
試合だから止めた方がいいのか、戦場を想定して動いていいものか、判断を仰ごうと思ったからだ。
「ブリジット…お前、ここが戦場で、敵に同じことを言うのか?」
「で、でも隊長!」
でももへったくれも無いだろうに。
ニーナさんは、自らを見ていたあたしに頷く。
やってもいいという事だ。
「申し訳ないですけど、終わらせていただきます」
「だから待てって…!」