彼に肘打ちして黙らせた。
鳩尾にクリーンヒットしたらしく、ナズナは呻きながら腹を抱えて蹲る。
「何回言わせるのですか、殿下。まだ喪が明けていないうちから、そのような発言をされるものではないと」
「す…すまん…」
ターニャ仕込みの、絶対零度を思わせる笑顔でナズナを見た。
カヅキが怖がるくらい、この笑顔は怖いらしい。
ナズナもあたしのその顔を見て、頬を引き攣らせていた。
怒らせるからよ、ばーか。
「で、話って?」
「あ、あの、ここじゃ、ちょっと…」
さっきの騒ぎで、注目を浴びてしまっている。
どうやらローゼヴィッヒは、内緒の話をしたいらしい。
「わかった。あっちの隅に行きましょうか。ナズナも一緒でいいわよね? でないと話は聞けない」
確認を取ると、彼は頷く。
ギルドの隅に行くが、それでも皆が聞き耳を立てている事は、気配で分かった。
あたしは嘆息し、創造魔法で聴覚遮断の結界を張る。
「これで周りには何も聞こえないわ。で? 話って?」
「あ、あの…シャルロットさん、転生者ですよね?」
あたしは、自分の目付きが鋭くなっていくのを感じた。
なんでこいつがそんな事知っている?
オドオドしているのも、こちらを油断させるため?
狙いは何?
まさか、ナズナの暗殺しに来たとか?
それならば、許さない。
警戒を露わにしていると、ナズナが肩に手を置いてくる。
「落ち着け。ローゼヴィッヒに敵意はない」
「そんなの、わからないじゃない」
あたしは、ナズナを守らなければならない。
せっかく守る力があるのだから、今度こそは失いたくない。
「シャル、大丈夫だから。それに、ローゼヴィッヒが怯えている」
優しく、諭すように言うナズナへ一度視線を向けて、正面にいるローゼヴィッヒを見る。
彼は涙目で少し震えているようだった。
「…ごめん」
「お前、俺の事になるとすぐ頭に血が昇るな。それはそれで嬉しいのだが、少し冷静になってくれ」
苦言を呈され、あたしは深呼吸をする。
落ち着け、あたし。
篠原夏月だった頃を思い出せ。
あの頃はコントロールできていた感覚を、思い出すんだ。
「ごめんなさい、ローゼヴィッヒさん。お話を続けてもらっても宜しいかしら」
「あ、はい…」
あたしの変わり方に若干驚いた様子のローゼヴィッヒは、ポツポツと話し始めた。
「僕も、転生者なんです。前の名前は、神谷光と言って、女の子でした。僕、体が弱くて、ずっと病院から出れなくて。死んじゃった後に、神様から、こっちの世界に転生させられたんです。その、僕と一緒で、転生者がいるから、仲良くしてくれるだろう、って…。その後、彷徨っていた所をお義父さんに拾ってもらって、ヴァリエールの家の子になりました」
「あー…」
あたしと一緒のパターンだったのか、この子。
警戒していたあたしが馬鹿みたいじゃない。
「成程、だからか」
ナズナも納得したように、一つ頷く。
何を納得したというんだ、彼は。
「いきなり存在が出てきた事について?」
「それもある。だが、一番の違和感は所作だな。性別は男だろうに、歩き方や仕草、挙動が女性のものだった。お前も違和感を感じていただろう?」
違和感の正体はそれだったのか。
確かに、体付きは男性なのに色んな事がチグハグに思えていた。
「ごめんなさいね。あたし、この人の護衛だから。何事も警戒しなくてはいけなくて」
「い、いえ。と、当然だと思います。僕の方こそ、警戒させてしまって、ごめんなさい…」
ションボリしてしまったロゼの頭を撫でる。
キョトンとしている彼に、あたしは笑いかけた。
「貴方が謝る必要はないの。本当にごめんなさい。これから仲良くしてもらえるかしら?」
「も、勿論!」
ニコリと笑う彼に小動物感を感じていると、腕を引っ張られ、ローゼヴィッヒから離される。
それをやった人物を、あたしは軽く睨む。
「ナズナ、いきなり何よ」
「シャルは俺のだ。あまり妬けるような行動はしないでくれ」
そう言い、ローゼヴィッヒの頭を撫でていた手にキスを落とされる。
「あ、あの。恋人同士、なんですか?」
「まぁな」
聴覚遮断の結界を張っていて良かった。
いや、行動が見えてるからどっちにしろアウトな気がする。
「ナズナ、いい加減にして」
「俺の恋人は怒らせると怖いからな。逆鱗に触れる前に離れるとしよう」
あたしから離れたナズナは、悪戯っ子みたいな笑顔をあたしに向けた。
彼の熱が離れた事に少しの寂しさを感じるが、それをおくびにも出さず、あたしはローゼヴィッヒに手を差し出す。
「仲直りの握手、しましょう?」
「あ、はい!」
お互いに握手をし、微笑む。
そして思う。
せめて、性別の変更はするかどうか、確認してから落としなさいよあの神。
本当に無能!!
◆◆◆
この後も、学校に戻って授業を受けなければならないのだが、何故かあたし達とロゼはギルドマスターの応接室のソファーに座っている。
時は三十分程前、ギルドカードを発行してもらった所まで遡る。
iPhoneの予測変換がクソ過ぎで、打っては消し打っては消しを繰り返している今日この頃
流石に指が痛くなってくる…