「じゃあギルドカードも貰った事だし、帰りましょうか」
ギルドカードを発行してもらった生徒は、続々と転位門を使って学校へ帰って行く。
あたしとロゼのギルドカードの発行が最後だったため、先にカードを発行してもらっていたナズナに待っててもらったのだ。
「あのー、すみません」
先程魔力の測定をしてくれたギルドの受付嬢が、あたし達に話しかけてくる。
「何か?」
「ギルドマスターが、貴方方にお話があるそうで。応接室までご足労願えませんでしょうか?」
ギルドマスターがあたし達に何の用なのだろうか。
怪訝な顔をしていたのだろう、受付嬢はコホンと一つ咳払いしてあたし達に頭を下げた。
「申し遅れました。このギルド、バンツァーで受付をしてます、マツリカと言います。Zランクの方々とナズナ殿下にご挨拶できて光栄です」
「今は一生徒だ。下げる必要はない」
ナズナがそう言うと、マツリカさんは顔を上げ微笑む。
彼女の案内で、ギルドマスターが使っている応接室に到着したのがつい先程。
それから今に至るまで、ギルドマスターが来るのを待っている。
ナズナは足を組み、ソファーに身を預けているし、ロゼは緊張でガチガチに固まっていた。
あたしはといえば、姿勢よく座っている。
なんだ、この三者三様の座り方。
「すまんな、仕事が立て込んでしまっていた」
緑色の髪に、目付きが鋭い女の人が応接室に入ってきた。
後ろには茶髪の猫目の男性が付き従っている。
二人の姿に、ナズナが目を細めた。
「アルテミシア、ちゃんと向こうには話を通してあるんだろうな?」
「勿論だ。だが、ナズナ殿下は皆勤賞でも目指しておられるのか? それは知らなかった、詫びよう」
ギルドマスターというから、てっきり屈強な男の人かと思っていたのだけど、とてもスタイルのいいお姉さんだった。
緑の髪に映える、赤いカッターシャツ、黒のタイトズボンがよく似合っている。
真紅のコートを肩にかけており、黒いタイをつけていて、とても仕事が出来そうだ。
「改めて、アルテミシア・ブリジットだ。このギルド、バンツァーを取り仕切っている。こっちの黒フードはクロエ・キアラ。クロエ、挨拶しろ」
「クロエでーす。よろしくー」
対してクロエと紹介された男性は、いい加減な人という印象を受ける。
「シャルロット・テスタロッサです」
「ローゼヴィッヒ・ロードナイト・ヴァリエールです」
アルテミシアさんは、あたしの方を見て、おや? と顔をした。
「シャルロット嬢は、洗礼を受けていないのか?」
「洗礼?」
首を傾げると、ナズナが説明してくれる。
「シャルは、つい最近テスタロッサ家に迎え入れられたばかりだ。洗礼はその内する予定だったさ」
「そうか」
「いや、あの、説明して欲しいのだけれど」
ナズナの袖を引っ張り、そう要求した。
彼は少し目を泳がせ、
「リューネの21貴族と王族は、生まれた時に教会で洗礼を受ける。ミドルネームがそれだ。中流から下流は、洗礼を受けてもミドルネームを授けられる事はない。だから…」
だから、あたしにそれが出てくるかはわからない、とナズナは言外に言っているのか。
それであたしが傷つくとでも思っているらしい。
「まぁ、出なかったらそれはそれで良いんじゃない? 貴方は気になるの?」
「別に。大体、王族に嫁いだ女性は、ミドルネームがその家の名前になる。あってもなくても問題ないだろう」
アルテミシアさんが咳払いをする。
余計な事を話しすぎたようだ。
「お前達には、ギルドの頂点である称号持ちになってもらう」
「いきなりではないか? それに、称号持ちになるとギルドに束縛される事になる。ローゼヴィッヒはともかく、シャルは俺の専属護衛だ。容認出来ん」
ナズナがキッパリ断る。
だが、アルテミシアさんは肩を竦めるだけだった。
「Zランクは国の保護対象であると同時に、ギルドにとっても貴重な戦力だ。それを殿下だけの一存で決められるとでも思っているのか?」
それに、と彼女は続ける。
「専属護衛など、代わりがいくらでもいるだろう」
「嫌です」
あたしは、アルテミシアさんの言葉に重なるように、拒絶の言葉を口に出す。
「ナズナの専属護衛は、あたしだけです。あたしが彼と婚姻を交わすまで、その座は誰にも譲るつもりはありません」
「別に、ギルドへ絶対に所属しなくてはならないという決まりはないだろう。シャル、ローゼヴィッヒ帰るぞ」
ナズナも機嫌が悪くなったらしく、あたしとロゼの名前を呼んで立ち上がった。
「まぁ、待て。何も二人というわけではない。三人。年齢的に活動を続けられないと、称号持ちを辞した者が三人いる。殿下の護衛をしながら、ギルドの仕事もしてくれればいい。その分報酬も出そう」
「却下だ」
アルテミシアさんを睨み、尚も機嫌がよろしくないナズナに、彼女はニヤリと笑う。
「殿下を一人で行かせるわけには行かないから、シャルロット嬢とペアで行ってもらおうじゃないか。依頼によっては、人気のない場所もあるかもなぁ?」