ロゼの近くに行き、彼を抱きしめる。
驚いた彼は、あたしとナズナを交互に見て固まっていた。
「大丈夫。何かあったらあたしが助けるから。ロゼは、気を楽にして戦えばいい」
「…うん。ありがとう、シャルロットさん…でも、あの、殿下が凄い睨んでるから、離れた方がいいと思う…」
ナズナが睨むのは百も承知だ。
だから嫉妬するなと言っていたのに。
「シャルで良いわ、ロゼ。あたし達、友達でしょう?」
「う、うん。シャル。あの、殿下が怖いから離れてぇ…」
若干泣きべそをかき始めた彼から離れる。
後ろを振り返れば、腕を組み、眼光が鋭くなったナズナと目が合った。
王太子なのに、表情を繕えなくなっている。
貴方、そんなに嫉妬深かったのね。
知らなかったわ。
まぁ、そんな眼光で睨まれてもあたしにはどこ吹く風なのだが。
「ナズナ、顔が怖くなってるわよ。ロゼが怯えてしまうわ」
「誰のせいだと思っている」
舌打ちでもしそうな雰囲気だが、今はワイバーン討伐に集中しないと。
「ギュオアアアアアアァアア!!!」
森を進んでいると、岩肌が露出している場所に辿り着く。
その上から咆哮が聞こえ見上げると、緑の鱗に覆われた翼を持つトカゲがいた。
「あれが、ワイバーン?」
「そうだな」
まだナズナがムッとしている。
これ、機嫌取らないと危ない事になりそうな予感がした。
勿論、命の危険に直結する類のだ。
「ロゼ、ワイバーンに対抗できる召喚獣って出せる? 高火力でも構わないのだけど」
「や、やってみる…シャル、何処行くの?」
ナズナの腕を引っ張り、ロゼから離れようとする。
そんなあたしに、彼は尋ねてきた。
「ちょっと、ね。サポートであたしの使い魔も出しておくから、少し一人で頑張ってくれる?」
「わ、わかった。早く、戻ってきてね…?」
レヴィを呼び出し、事情を話してロゼのサポートをお願いする。
彼女は多少呆れた目でナズナを見ていたが、溜息を一つ吐いて、行ってこいと背中を押してくれた。
「ナズナ、こっち」
ロゼから見えない位置にナズナを引っ張り込み、抱きつく。
「怒ってる?」
「別に」
声が凄く不機嫌なのに、別にという返事はおかしいだろう。
うーん…嫌われたかなぁ。
あしらわれてないからまだ大丈夫だなんて、そう思えないんだよなぁ。
ナズナの元婚約者の事もある。
彼は、体面を取り繕える人だ。
今すごく不機嫌だけど、今後他人に見せるような顔を向けられたら。
あ、泣きそう。
「ナズナ、あたしの事、嫌いなっちゃった、よね…」
涙声を必死に抑え、彼から離れた。
俯いているのは、せめて泣き顔を見られないためだ。
「ごめん。ロゼの事、励まそうと思って、あんな行動したけど…所構わず抱きつくのは、はしたない行動だったよね。本当にごめん」
謝ってはみるが、ナズナからの返答がない。
これ、完璧嫌われたな。
「ごめん。婚約の事は、無しにしてもらっていいから。貴方の喪が明ける前で良かった。貴方に傷が付かなくて…」
「…あぁ、くそ! 何でそういう思考になる!」
顔を無理やり上げられ、強引にキスをされる。
息継ぎが上手くいかなくて、彼の服を握り締めた。
「…違う。シャルが悪いんじゃない。狭量な俺が悪いんだ。お前が男と触れ合うだけで、相手を殺してやりたくなる。ダメなんだ、お前を誰にも取られたくない。シャル…愛しているんだ。誰よりも、何者よりも」
「ナズナ…」
唇を離され、彼はそう独白する。
後頭部に手を添えられ、キツく抱きしめられた。
あたしは彼の背中に手を回し、抱きしめ返す。
「あたしの事、嫌いにならない…?」
「なるものか。お前の行動は、私欲に走ったものではない。常に相手を気にかけ、相手を想った行動をする。その行動は尊敬に値するが、少し、俺の事も頭の片隅に置いて欲しい」
妬けたのだぞ、と彼は耳元でそう言ってきた。
ナズナの低音な声に、少し身震いする。
「シャル?」
「貴方の声、好き…。だから、耳元で囁かれると、その…」
自分の頬が少し赤らんでいる気がした。
シャル、と彼はあたしの名前を呼んで首元に顔を埋めてくる。
ツキンとした痛みがあり、噛まれているのだろうかと錯覚してしまう。
数分そうしていた彼は、あたしから離れた。
「薄くなるたび、付け直すからそのつもりでな」
「…? 何、したの?」
トン、とナズナの指が、先程まで痛みを感じていた場所へ指を置く。
「キスマーク。鏡で見るたび、俺を思い出せ」
「…貴方、女慣れしすぎてないかしら。他に愛人でもいるの?」
そんなものいるわけないだろ、と彼が呆れたように言った。
男性向けの知識をつけさせる本に、そんな事が書いてあったらしい。
このキスマークも、消そうと思えば消せる。
だけど、ナズナが常に傍へ居てくれるような気がして、消そうと思えなかった。
◆◆◆
「ロゼ、お待たせ。戦況はどう?」
「シャル、お帰り。取り敢えず、レヴィさんに言われたようにバハムート召喚してみたんだけど、どうかな」