上空にいるバハムートが、レヴィの言葉に反応して降りてきた。
そのまま降りてくるのかと思いきや、途中人型になったようで軽やかに着地する。
青髪のレヴィとは違い、黒髪のロングウェーブが印象的な男性だった。
服はレヴィと一緒で黒かったが、スタイリッシュな服装で、ロングコートを羽織っている。
瞳は紅く、そこはレヴィと一緒だった。
「我が夫、人型も素晴らしいな」
「我が妻よ、せめて羽織るものを着よ。なんだその格好は」
そう言い、バハムートは自分が羽織っていたロングコートをレヴィに頭から被せる。
「な、何をする!」
「肌を出すな。お前は嫉妬の名を冠してはいるが、色欲ではないだろう。お前を見て、寄って来る男共がいたらどうする」
…バハムートは、愛妻家だったらしい。
あと、ナズナと気が合いそうだと思った。
こう、愛する人を心配するところとか。
「そんな者どもがいたら、妾が全て喰らい尽くしてやろうぞ」
「お前はベルゼビュートか」
誇らしげに胸を張るレヴィに、ペチン、と彼は額へデコピンをする。
痛くて蹲るレヴィを尻目に、バハムートはこちらへ頭を垂れてきた。
「お初にお目にかかる。今代の我が妻の主。バハムートと申す。我が妻が面倒をかけてすまない」
「誰が面倒なものか! 妾だって、我が主の役に…もがが!」
挨拶している途中だろう、とバハムートはレヴィの口を閉じる。
仲が良いなぁ。
…これ、召喚時間って大丈夫なのかしら。
チラ、とロゼの方を見る。
少し息が上がってきているところを見ると、召喚時間はそう長くは保たなそうだった。
「ご挨拶ありがとうございます。あたしは、シャルロット・テスタロッサと申します。いつもレヴィには助けられていますよ」
「そうですか。それを聞いて安心いたしました。召喚者よ。そろそろ顕現を保つのも苦しいだろう。送還するが良い」
バハムートがそう言うと、レヴィがムッとした。
再会してからまだ1時間も経っていないのだから、気持ちはわかる。
わかるのだけど…。
「なんだ、我が夫。妾ともう少し居たいとは思わぬのか? 数千年ぶりの逢瀬だぞ。薄情ではないか」
「我が妻よ。
なんか見ていられなくて、ナズナの方を見る。
彼も難しい顔をして、二人を見つめていた。
「あ、あの、僕なら大丈夫、だから」
「…真っ青になっておるではないか、小童。仕方ない。また逢える日も来よう」
はぁ、とため息をついて、レヴィはロングコートをバハムートに返している。
あたしはナズナに聞いた。
「ねぇ、ナズナ。使い魔ってもう一人増やしたりできないのかしら」
「前例がない。使い魔は自分の魔力量と同等か下方辺りで留めている者が多い。仮に、ロゼに使い魔がいなかったとしても、バハムートと契約した瞬間ロゼは死ぬだろうな。バハムートの方が魔力量が上だ」
あたしが言おうとしてた事へ、ナズナは先回りして答えを出してくる。
ロゼにバハムートを使い魔にしてもらえないだろうか、という提案だったのだが、ロゼが死ぬと彼が断言した以上、その通りになるだろう。
「雛桔梗。あたしの魔力量なら、どれくらい耐えられるか計算して」
「シャル!」
無謀な事はやめろ、とナズナが止めてくる。
あたしは首を横へ振った。
「レヴィは、家族なの。使い魔であり、友達であり、家族。だから、家族の幸せを願いたいの。それに、あたしがレヴィの立ち位置なら、貴方と離れるのは悲しいわ、ナズナ」
「シャル……雛桔梗が無理だと言ったら、諦めるんだ、良いな?」
彼のその言葉に、頷く。
続いて、雛桔梗から解答が返ってきた。
【計算終了。我が主の魔力量ですと、あと三体は余裕です】
「…あの神、今回ばかりは感謝してやるわ。ロゼ! 手を出して!!」
バハムートが消えかけている。
一刻の猶予もない。
レヴィは、バハムートの手を握って少し泣きそうになっていた。
「は、はい!」
「あたしに続いて詠唱して。良い?」
走り寄ったあたしの真剣な声に、ロゼは力強く頷いてくれる。
彼の手を握りしめて、詠唱する。
「彼方より此方、此方より彼方へ。辿りし道標より、彼の者を現世へ」
「か、彼方より此方、此方より、彼方へ。辿りし道標より、彼の者を、現世へ」
あたし達を中心に、魔法陣が展開されていく。
それは、使い魔召喚の魔法陣。
少し違うのは、別の方法で召還された者を、召喚した者からあたしへ譲渡する、というもの。
頭で思い描くだけでも、魔法って発動するんだ知らなかった。
「現世に降り立ち幻獣よ、我が膝下に降りたまえ」
「現世に降り立ち、幻獣よ、我が膝下に、降りたまえ」
ロゼが詠唱を続けてくれる。
ここから変えるけど、そのまま続けないでよ、ロゼ。
ウィンクして合図する。
ロゼはキョトンとしていた。
「我が名は、シャルロット・テスタロッサ。ローゼヴィッヒ・ロードナイト・ヴァリエールから其方を譲り受ける者なり」