お義父様に言えば、帳簿とかうちが運営している事業とか、提携している所とか確認出来るのだろうけど。
あぁ、この事を事前に知っていたら、夏休みの間調べられたというのに!
「冬休みに帰った時、ターニャに洗いざらい吐いてもらうわ…」
「で、だ。我が主。ギルドマスターから、主と他の者のカードを預かってきた。今日はそのまま帰って良いそうだ」
あたしとナズナ、ロゼにそれぞれカードが渡される。
なんか、カードがキラキラしている気がするのだけど。
「光姫、って、なんなのこれ」
「俺は雷皇と書いてあるな」
「僕は炎舞ですね…」
これが、ギルドの称号持ちって事なんだろう。
責任者の人が、そのカードに金を振り込んでおくと言ってくれたので、三分割にしてナズナとロゼのカードにも入れてもらうようにお願いしておく。
さて帰ろうかという時に、あたしはナズナに提案した。
「ナズナ、あたし洗礼を受けてみたいのだけど」
「今からか?」
外を見るともう夕方で、本来なら寮に戻らなければならない時間ではある。
だけど、あたしは気になってしまったのだ。
「あたしが、洗礼を受けて名前を付けてもらえるかどうか、気になるんだよね」
「あ、僕は先に帰ります。お疲れ様でした」
ロゼがペコリと頭を下げ、ギルドの転位門の方に歩いて行く。
どうやら空気を読んでくれたらしい。
「ナズナ、駄目?」
「我が主の願いくらい叶えなくて、何が番…もがが!」
「少し黙っていろ、我が妻」
ルティが、レヴィの口を塞ぐ。
ナズナは少し考えた後、行くか、と一言だけ言った。
◆◆◆
王都内にある大きめの教会。
サンテブルク教会。
このサンクロードという世界で、唯一神と崇められてるヴェスタ神を奉っている総本山。
管理はジルベルト家で、代々教会の司教をしているらしい。
ちなみに、レヴィとルティは、教会の外でお留守番だ。
悪魔だのなんだので、レヴィが入りたくないと駄々を捏ねたから。
「あら、ナズナ殿下。お久しぶりです」
水色の髪と水色の目をした、シスター服を着た女の子が、ナズナに挨拶する。
「エレオノール。息災か」
「はい、殿下。そちらの方は…」
エレオノールと呼ばれた女の子があたしを視認した。
あたしはカーテシーで、エレオノールさんに挨拶する。
「シャルロット・テスタロッサと申します。殿下の専属護衛をしておりまして…」
「貴女がヴェスタ神の仰っていた、ナツキさんですね。初めまして、ハリトン・アゲート・ジルベルトの娘、エレオノール・アクアマリン・ジルベルトと申します。ヴェスタ神から、貴女様の事は伺っておりますよ。大変な思いをなさってきたとか」
カーテシーをしたまま、あたしは固まってしまう。
何でこの人、そんな事知ってるの?
ヴェスタから聞いた?
嘘でしょ?
「シャル、エレオノールはこのサンテブルク教会の聖女だ。唯一、ヴェスタ神の声を聞けるとして、父親より立場が上になっている」
「嫌ですね、ナズナ殿下。地位など、神の前では等しく瑣末な事です。神はいつでも私達を見てくださっていますとも」
いや、見てない時の方が多いんじゃない?
あれは、筋肉の事しか頭に無さそうな程鍛えまくった体をしていたけれど。
「ナツキさん、いえ、今はシャルロットさんですね。本日はどのようなご用件で…あぁ、洗礼にいらっしゃったんですね。こちらにどうぞ」
エレオノールさんは、姿勢を正したあたしの手を引いて、ヴェスタの像の前まで連れて行く。
何も言ってないんだけど、何でわかったのこの人。
「それでは、目を閉じて下さい。ヴェスタ神に祈りを捧げて、浮かんだ名前を仰ってください」
「………」
胡散臭さを感じつつ、その場に跪いて目を閉じる。
あれに祈りを捧げるなんて、真平ごめんなんだけど。
でも、ミドルネームがあるなら欲しいかな、なんて思っただけでこんな事になるとは。
ヴェスタ、今度会ったらただじゃおかない。
『そんな事言われても困るよー』
一度たりとも忘れたことが無い、あの高い声が脳内に響く。
あたしは目を開け、辺りを見渡した。
「どうかなさいましたか?」
「いや、あの。なんか、高い声が聞こえまして…」
後ろを見ても、教会に設置されている長椅子に、ナズナが足を組んで座っている姿しかなく。
他の礼拝者は、時間が時間だけにほとんど姿が見えない。
今のは、一体…。
「シャルロットさん、集中ですよ。はい、目を閉じてください」
言われた通りに目を閉じる。
フッと意識が飛ぶような感覚がし、目を開けるとそこは白い世界だった。
「………はぁ?」
ちょっと待って。
なんでまたここに来てるの?
あたし死んだ?
「そんな、馬鹿な…」
「あ、ナツキちゃんいらっしゃーい」
真後ろから、高い声が聞こえた瞬間、あたしはその方向に蹴りを入れた。
あたしの蹴りは、ヴェスタの太ももにクリーンヒットしていたが、痛がる様子もなく、あいつは腕を上げ、筋肉を見せびらかしてくる。
「痛いじゃないかー」