何も知らないロゼが、登校してきてあたしに尋ねてくる。
「さぁ、何だろうね…」
あたしは今それどころではないので、ロゼへの返答も適当になってしまった。
「文化祭? ねぇ、シャル! 出し物何にする?」
「いや、あたしも今知ったんだけど、あたし達は何もしないっていうか…」
さっきナズナがしてくれた説明をすると、ロゼもあたしと同じ顔になってしまう。
「それ、楽しいの?」
「…楽しいんじゃないかな。一部の人には」
貴族の娯楽だよね、それ。
とは思わないでもないけど。
「シャル、これの中身見た?」
「いや、まだ」
ロゼがパンフレットを指差す。
それへあたしは首を振る事で否定した。
ナズナがパラパラ見ていたのは見ているけれど。
「テスタロッサの名前があるよ」
「はい?!」
ほら、と差し出されたパンフレットの1ページには確かにお義父様の名前が載っていた。
なんでも、ジェットコースターなる物を発明して、文化祭の日にお披露目するのだとか。
「これ、安全性とか大丈夫なのかな…」
「多分大丈夫…だと思うけど。ターニャが監修してるだろうし、うちもそういう事業には携わってきたから、構造は把握してるだろうし…多分」
確か一緒に設計図も見てたはず。
でも、下手したらジェットコースターって死傷者出すくらい危ないものなんだけど、ターニャ何考えているのかしら。
「そういえば、シャルの名前聞いてなかったよね。前世、なんて名前だったの?」
「あたし? 篠原夏月だけど。篠原財閥の娘でね」
そこまで言ったところで、ロゼが大きい声を出した。
「篠原?! あの篠原財閥の?!」
「ちょ、声大きい!!」
慌ててロゼの口を塞ぐ。
周りは何だ何だ、と顔をこちらに向けている。
ナズナも顔を上げて、ムッとし始めた。
「はーい、ホームルーム始めますよー」
カーン先生が入ってきて、あたしは慌ててロゼに言い聞かす。
「この話は昼休みね!」
あたしの言葉に、ロゼは頷いて返してくれた。
◆◆◆
「シャルが、あの篠原財閥のお嬢様だったなんて! 僕驚いちゃったよ」
「そんなに驚くような事かしら」
ルティが作ってくれたサンドイッチを、三人で食べている。
あたしの前世が篠原夏月だという事を、ロゼに話したら大層驚かれている最中なんだけど。
なんでなのかしら?
「え、だって篠原夏月の死因って、番組で特集組まれる程謎めいていて、出演者があーでもないこーでもないって、憶測で話してて。僕そんな番組、結構見てた方だったから」
「それ、結構悪趣味だと思うわ」
人の死因で番組作成するなんて、お父様達は何してたのかしら。
ちょっとムッとなって、サンドイッチを大きく頬張る。
「霊能者だっていう人が一回、篠原夏月の霊を呼び出したって言って、なんか死因語ってたけど。何だっけ、不治の病にかかってたとか何とか」
「それ、全くの出鱈目ね。というかお父様達何やってたのかしら。故人とはいえ、実の娘がこんなにゴシップに晒されていたというのに」
まぁ大方、真子の教育に手を焼いていたのだろうが。
あたしが亡くなって、総帥を継げる器がいなくなってしまったのだから、真子に白羽の矢が立つのは当然。
今まで何の教育も受けて来なかった者が、いきなり総帥になる為の勉強を受けさせられ始めたのだから、個人のゴシップなんて気にかける暇もなかったのでしょうね。
お父様も気の毒ね。
あの子、カヅキの事を想い続けてたって話だし。
勉強に身が入ってたかどうかも怪しいわ。
今カヅキが女になってるって知ったら、卒倒しそうだわあの子。
それはそれで見てみたい気もする、と思ってしまうのは、あたしも性格悪くなったなと感じなくもない。
「そういえば、記者会見もしてたっけな。次期総帥は、姉の遺志を継ぎ妹がー、とか。難しい話ばかりで、そこら辺しか覚えていないけど」
「ふぅん。憶測だけれど、妹は結構嫌がったと思うわよ。あたしの後を継ぐなんて。あたしは妹を嫌いではなかったけれど、あっちはあたしの事嫌いだったしね」
姉妹仲は悪くなかったと思う。
昔は仲良く話せていたくらいなのだ。
カヅキの事が絡まなければ、だけど。
「シャルも苦労してきたんだな」
「まぁね。あの子、カヅキにご執心だったから。それを侍らせてるあたしが気に食わなかったんでしょう。まぁ、あたしには何にも響かなかったけどね。努力もしないで、利益を貪ろうなんて…ど三流も良いとこだわ。ご馳走様でした!」
手を合わせて言う。
そして、誰にも聞こえない声で呟いた。
「カヅキを本気で奪いたかったのなら、それ相応の努力をすれば良かったのよ…」
そうすれば、お父様達も少しは考えてくれたかもしれないのに。
「美味しかった、ご馳走様」
「ルティ、良かったね。みんな美味しかったって」
小さくなったルティに話しかける。
彼はあたしの肩から少し顔を出し、応、と一声だけ声を出し、引っ込んでしまった。
褒められて、恥ずかしいんだろうなぁ。
「無論、我が夫が作りし物は全て美味に決まっておろう!」