「おっと…シャルを口説いているつもりだったんだが、その姿だと勘違いさせてしまうな。だが、愛らしいお前が悪いぞ、シャル」
だから、口説くなって言ってるのに。
ナズナはそれすらも分かっているかのようで、くっくっと笑っている。
あたしはため息をついて、幻惑魔法を解いた。
「ナツキの姿でも、俺は構わないのだがな」
「あたしが構います、全く…昔のあたしに嫉妬しちゃうじゃない…」
この喧騒で聞こえていないだろうと、呟いた声は彼には届いていたようで、頬にキスを落とされる。
「なっ…」
「どちらのお前も愛しているぞ」
この王太子は。
だから周りの目も考えろって何回言わせるんだ。
「はいはい、行きますよ」
「くっ…顔真っ赤だぞ、シャル」
誰のせいだと思ってんだ、馬鹿!
◆◆◆
校内の至る所に屋台があり、あたしはそれを一個一個、ナズナと共に見て回る。
「シャルは、こういう催しに来た事はないんだったよな」
あたしと手を繋ぎ、ナズナが問いかけてきた。
「そうね。篠原財閥の次期総帥として育てられていたから、危険が及びそうな場所には近寄らせてもらえなかったな。たまに、カヅキが近くの神社とかでやってたお祭りに行って、お土産としてあたしが好きそうな物を買ってきてくれたくらい」
「む、またカヅキか」
ナズナを見ると、少し眉が寄っている。
夏休みに友達になった彼らだが、それとこれとは別物らしい。
昔のカヅキに嫉妬したところで無駄でしょうに。
「当たり前でしょう? カヅキはあたしの護衛役だったのだから。大体は一緒にいたわよ」
「俺も、昔のお前と一緒にいたかった」
握りしめる手の力が強くなる。
そんな叶わない事を言われても、仕方ないと思うんだけど、そんな事を言う彼が可愛いと思ってしまう。
ふふふ、と笑うあたしに、彼は顔を近づけて来た。
その顔は少し不満そうだ。
「何を笑っている」
「可愛いなぁ、って思って。そんな貴方も好きよ、ナズナ」
そう言うと、ナズナはすぐさま姿勢を戻したかと思えば、そのまま顔を背ける。
どうやら照れているらしい。
本当に可愛い人。
寝起きも悪いし、あたしに甘えるように抱きついてくるところも可愛いと思ってしまう。
そんな彼が愛おしいと思ってしまう。
「あ、ナズナ。ジェットコースターに着いたわ」
生徒達の興味を引いたのか、結構な人がいる。
当たり前だが、すでに稼働していて乗っている生徒達の悲鳴が聞こえた。
屋外でしか稼働が出来ないのはわかるのだが、規模が大きすぎて若干引いてしまう。
向こうでこれを建設するとなると、何年単位もかかるが、こちらでは一日しかかかっていないだろう。
組み立てとか魔法を使ってやっているだろうし。
安全性とか大丈夫なのかしら。
「お嬢様ー!」
声のした方を見ると、テスタロッサのメイドであるチェルシーが手を振っていた。
「チェルシー、貴女なんでいるの?」
「メイド長のお手伝いです。メイド長が機械の操作をしている間、私達は乗客の誘導とか、乗り物の点検とかしてるんです」
私達、という事は他にも後何人か来ているのだろう。
「ターニャは、あれの操作に集中しているわけね?」
「そうです。多分、お嬢様が興味を持ってこちらに来るはずだし、旦那様からこれをお預かりしているのだから、責任を持って自分がやるって仰ってました」
ターニャ…なんで貴女は、あたしの行動がわかるの?
有能なメイド長に、あたしは引き攣り笑いしか出なかった。
「お嬢様も乗りますよね?」
「まぁ、その為に来たんだけど。ナズナ? 大丈夫そう?」
小規模を想像していたのか、ナズナは唖然とジェットコースターを眺めている。
「…あぁ。俺の使い魔は、飛行系だからな。飛ぶ事には慣れているが…」
飛ぶわけではないが、あの速さではないし、あんな挙動はしない。
彼の表情がそう物語っている。
「やめとく?」
「いや、何事も経験しておいた方がいいだろう」
表情が固まっているのだけど、本当に大丈夫なのかしらこの人。
あたし達の番になって、ジェットコースターに乗り込む。
何故か、一番前の席に案内された。
操作席にいるターニャが、あたしに向けて親指を立てて、グッドラックと言っているように向けてくる。
「一体なんだっていうのよ…」
上から、Uの字型をしたバーが降りてきて、席の横にある固定装置にしっかりと固定された。
『では皆様、いってらっしゃいませ』
ターニャの声がアナウンスで響き、ジェットコースターが動き出す。
結構な高さまで登るらしく、後ろの生徒の騒めきが凄い。
隣にいるナズナも、何かを耐えるように歯を食いしばっているようで、そんなに怖がるような事なのかしら、なんて思った瞬間。
下方に落下するような浮遊感が、あたしを襲った。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
ちょ、速い速い速い!!!
やだ、死ぬ!!
怖い怖い怖い!!!
右へ左へ、物凄いスピードで駆け抜けていく。
その際かかる重力もとんでもない。
二千文字超えるとこもまだあって、本当になろうで書いてる人達すごいな…