上下逆さまになっている場所もあり、そこはゆっくり上がり、落ちる際またスピードが出て、恐怖感を煽る。
横目でナズナを見るが、彼は腕を組み口を一文字に引き結んで、耐えているようだった。
これ、何か食べてたら吐くレベルだわ…。
そう思うのは仕方ないのだが、恐怖感がすごい。
これでトラウマを付与される生徒も少なからずいるのではないか、と思うぐらいに。
やっと元の発着場所に戻ってきて、乗っていた生徒達はヨロヨロになりながら降りていく。
あたしも降りるが、ナズナが中々降りようとしない。
「ナズナ? 大丈夫?」
「…すまん、少し酔った…」
吐くほどではないが、顔が青ざめている。
あんなスピード、経験した事はないだろうからそれは当たり前なのだが、待っている生徒達がいるのだ。
早く退かないと。
「手を貸すから。立てる?」
「すまん」
ナズナを引っ張って、席から立ち上がらせる。
操作席の横を通り過ぎる際、ターニャが苦笑していた。
むしろナズナの立ち位置になるのは、あたしだったはずなのに、とでも言いたげに。
◆◆◆
校内にあるベンチに座り、ナズナに膝枕をしてあげる。
ハンカチを水魔法で濡らし、その状態を維持しながら彼の額に乗せてあげた。
「すまん…みっともない姿を…」
「別に気にしてないわ。むしろ、あたしの我儘に付き合ってくれてありがとう、ナズナ。今度は、もっと大人しい乗り物に乗りましょうね」
彼の頭をゆっくり撫でて、微笑む。
弱い姿を見せたくないと思っているのだろうが、そんな姿ももっと見せて欲しい。
そんな事を彼に言ったら、拗ねてしまうのだろうけど。
惚れた人には格好良い所を見せたいのが、男の人のプライドだと、どこかで聞いた事があったから。
ゆっくりしていると、雪色の髪、青色の瞳をした男子生徒が近付いてきた。
「こんにちは、ナズナ殿下。シャルロットさん」
「こんにちは、生徒会長。あたし達に何か御用ですか?」
確か彼は、ライオット・アズール。
この学校の生徒会長をしている、3年生。
アズール家の嫡男で、彼の家は貿易で国を支えている家の一つだったはずだ。
そんな人が何の用だろうか。
「いえ。お姿が見えたもので、ご挨拶にと」
「随分律儀だな、ライオット。お前がそんな殊勝な奴だったとは知らなかったぞ」
やっと本調子に戻ったのか、ナズナがハンカチを取って起き上がった。
「おや、ナズナ殿下。僕はそんな不誠実に見えますか?」
「金勘定しか頭にないだろうが、貴様は。誰がどんな利益を生み出すか、どうやって動けばそれが自分に転がり込んでくるか。お前の良い所は、利益を生み出すとしても犯罪に手を染めない所だけだ」
おやおや、手厳しい。
ライオット先輩は、そんな事を言い、ナズナを見て苦笑しているようだった。
目は全く笑ってはいなかったが。
「で? 俺達に何の用だ」
「いえ、今年僕が企画した催し物があるんですが、それにシャルロットさんもいかがかと思いましてね」
チラシらしき物を、ライオット先輩はあたしに差し出してくる。
それを読むと、どうやら歌唱大会というものらしい。
誰がこの学校で一番の美声か、というものを競うようだ。
「くだらんな。シャルの声は誰よりも素晴らしいものだろう」
「いえいえ、彼女よりも美声を持っている方がいらっしゃるかもしれませんよ?」
二人の間で火花が散っているように見える。
「あの、殿下の護衛をしなければならないので、お断りを…」
「良いではないか、我が主」
声のした方を見ると、ルティを引き連れてレヴィが何かを食べながら歩いてきていた。
寮で大人しくしているかと思えば、祭りだというので出てきたのだろう。
ルティに怒られたからか、この間から彼女は白いコートを着用し始めたのだが、それは腕の辺りまで下げられて着られている。
それに若干、肌の露出が増えたような気がするのは気のせいだろうか。
「貴女は?」
「我が主の使い魔よ、小童。我が主、其奴の護衛は我々がしようぞ。この場所で、妾の主が一番でないとはいただけぬ。周りを圧倒するが良い」
はっはっは、と笑っているレヴィの後ろで、ルティが申し訳なさそうに笑っていた。
彼の表情から察するに、我が妻の暴走を止められずすまない、だろうか。
いつもの動物型ではなく、人型で来ていて不審者として捕まえられていないのも、多分彼が守衛を説得したからだろうなと推察出来た。
でなければ、入り口辺りで騒ぎになっていてもおかしくない。
「ルティ、止めるならちゃんと止めてちょうだい」
「すまない、我が主。言っても聞かないのだ」
まぁ、レヴィの性格を考えたらそうでしょうね。
今が幸せそうならまぁいいか、と思ってしまうほど、あたしもレヴィに甘いのだけど。
「ナズナ、どうしよう」
一応雇い主であるナズナの判断を仰ぐ。
彼が駄目だと言えば、この件は無かった事になるのだが。
レヴィの格好は、FGOの上杉謙信イメージです。
あの格好、どういう表現したらいいんだ…。