今まで不満を口にしていたメイド達が、黙って聞き入ってくれた。
この曲は、敵の王に囚われた女性が敵の王からの求愛に対し、愛する人への貞節を守るために過酷な運命に涙を流しましょう、と歌っている曲だ。
本来なら旋律はバイオリンなんだけど、ここにはピアノしかないから仕方ないわね。
歌い終わると、ダンスホールに木霊する程の拍手喝采が響き渡った。
「素晴らしいです、お嬢様!」
「なんて綺麗な歌声、涙が止まりません…!」
「私、感動で、倒れてしまいそうです…っ!!」
そんな大袈裟な。
メイド達からの称賛の声に、若干苦笑いを浮かべてしまう。
あたしは、ディスプレイの方を見た。
「どうだった…?」
『………』
カヅキから一切の返答がない。
や、やっぱり下手だったのかしら…?
金切り声過ぎて、耳障りだったかな…。
落ち込んでいると、カヅキが唐突に息を吐き
『…すまん、聴き入ってた…』
と返答が返ってくる。
「どうだったかな?」
『これ聞いて馬鹿にしてくる奴がいたら、私がぶっ飛ばす』
あれ、一人称が私になってる。
ついに女性としての自覚が出てきたのね。
あたしは嬉しい。
「その通りです、お嬢様。もっと自信を持ってくださいませ。お嬢様は文武両道、才色兼備なのですから」
「そんなに褒めても何も出ないから」
これだけ全肯定されてるのに、自分に自信が持てないのは、やっぱり親の愛情がなかったせいかな、なんて心の片隅で考えてしまう。
あの人達は、あたしの事を部品の一部としてしか見てなかったものね。
だからこそ、長谷川があたしを甘やかしてくれていたのだけれど。
「本当の事ですが?」
『本当の事過ぎて、辺りが草原になるぞナツキ』
「何を言ってるかわからないわ…」
この練習は、夜半を過ぎるくらいまで続けられたのだけど。
授業がないからって、明日寝坊しそうだわこれ。
◆◆◆
案の定、次に起きたのはお昼過ぎだった。
しかも練習し過ぎて少しばかり喉が痛い。
「
少ししゃがれた声で、喉に向けて回復魔法を使う。
これで多少は痛みも引くだろう。
横を向けばナズナはもう居らず、リビングから物音がする事から何かしているのがわかる。
「何してんだろ」
扉を開け様子を伺うと、テーブルの上に載せ切れない程の食べ物の山が出来ており、その前にはナズナとルティ、レヴィがおり、一個一個吟味しているようだった。
「何やってるの、三人とも」
「起きたか、我が主!」
レヴィがあたしに抱きつこうとしたのを、ルティが腕を掴んで止める。
「何をする、我が夫」
「せめて手を拭いてからにしろ、我が妻」
ふきんでレヴィの手を拭いてあげるルティ。
拭いてもらった後、レヴィはあたしに抱きついてきた。
「我が主が好きそうな物を、皆で買ってきたのだ。朝食もまだであろう? たんと食べると良い!」
「いや、量多くない? 四人で食べ切れる量じゃないよね? 残ったらどうするの? てか、ナズナ。何で止めなかったのよ。というか、これいくらかけた?」
ナズナに話を振ると、彼は苦笑を返してくる。
どうやら、レヴィの暴走を見てるのが楽しかったようだ。
何考えてんの、こいつ。
馬鹿王子。
まぁ、買ってしまったのは仕方ない。
食べられるだけ食べて、保存魔法でも創り出して保存しておくか、と考えていたが、ナズナの反対側。
テーブルの向こう側に、アイスグリーンの髪色をした少女が座っているのが見える。
服も、シースルーの上着に、白いワンピースを着て虚げにこちらを見ていた。
「ねぇ、レヴィ。あの子は?」
「ん? あぁ、我が主が一口食べていらないと判断すれば彼奴にやれば良い。喜んで食うぞ」
いや、誰か聞いてるんだけど。
ルティの方を見れば、苦笑いを浮かべている。
「いや、どちら様?」
「レヴィの同僚で、ベルゼビュートというらしい。暴食の悪魔だという話だが」
そう紹介されたベルゼビュートは、あたしを見て薄く微笑む。
儚い少女という印象を抱かせる微笑みだった。
「ねぇ、お腹すいた」
彼女はレヴィを見て、そう一言言う。
「まだ待て、ステイだ。我が主、何を食す?」
確かに、昨日は屋台を見て回っただけで、何も買わずに帰ってきてしまった。
それもこれも、ライオット先輩が煽ってきたせいではあるのだが。
「んー…じゃあ、これ」
長いお肉の塊? が串に刺さっているものを選んで手に取る。
一体何なんだ、これは。
「これなんてお料理?」
「フランクフルトというらしい。羊の腸に肉を詰めたものだそうだ」
これがフランクフルト。
カヅキからの話にあったやつね。
確かそのまま齧り付くのがマナーだった気がする。
はしたないからと、カヅキが買ってきてくれたのは、一口で食べられるいちご飴とか、綿あめとか、焼きそばとかだった。
あたしは意を決して、フランクフルトに齧り付く。
「! 美味しい…!」
口周りが汚れてしまうのが難点だけど、それが気にならないくらい美味しい。
「ナズナは食べないの?」
口元をナプキンで拭いながら尋ねる。
彼は首を横に張った。