「さっき食べたばかりなんだ。シャルには悪いがな」
「また毒で慣らしたとか言わないわよね?」
あたしが護衛についた時、それは禁止すると言ったはずなんだけど。
ジト目で見ると、彼は笑った。
「言わない言わない。それに、毒が入っているかどうかは、毒見としてルティがしてくれた」
「人間が致死に至る毒は、吾には効かぬ故な。我が主、そんな目で見ないで頂きたい」
ルティにもその目を向けると、彼は目を逸らしてしまう。
何で自分を大事にしない人が多いのかな、ここは。
まったく!
色々と食してみたけど、まぁまぁ、全て美味しかった。
食べ切れないのは、ベルゼビュートに食べてもらう。
「ん、ありがとう。また何かあったら呼んで」
彼女はレヴィに向けて、感謝の意を伝えた。
そして、ベルゼビュートはこちらを見る。
「レヴィアタン、こんな性格だから、扱い難しいだろうけど。頑張って」
「お主を使い魔に呼ばなくて正解だと妾は思うがな。お主を呼んだら最後、何もかも食い尽くすであろうに」
何でもかんでも、レヴィは喧嘩を売る癖があるのだろうか。
嫉妬の悪魔だからなのかしらね。
「ぼくだって、悪食ってわけじゃない。美味しいものにしか反応しないだけ。だから、そうだな。もしも、君の主の元に生まれる可能性があるなら…人間の魔力は食べないでおいてあげる。ぼくだって、見境がないわけじゃないからね」
ニコリ、とベルゼビュートは笑う。
彼女はそのまま消えたが、あたしは何か予感めいたものを感じる。
彼女とはまた何処かで逢うのだろうと。
◆◆◆
文化祭三日目。
最終日の今日、あたしはステージの脇で深呼吸を繰り返していた。
時刻は午後7時、辺りはすっかり暗くなって、ステージ上だけが煌々とライトで明るくなっている。
ライオット先輩が主催の歌唱大会で、誰が今年の歌姫になるか、という趣旨の催し物だ。
あたしを含め、参加者は二十名ほど。
歌姫というからには、参加者は女性ばかり。
「うわ、緊張する…」
次はあたしの番だからここで待っているのだが、緊張で体が固まってしまう。
「大丈夫です、お嬢様。私がついております」
「ターニャ…」
今回、伴奏者を連れてきてもいいという事だったので、あたしはターニャを連れてきた。
あたしを一番に理解している彼女が傍に居てくれれば、何とか乗り切れるのではないかと淡い思いを抱いて。
「バイオリンの大会でも、ピアノの大会でも、金賞を取られたお嬢様です。努力なさってきた姿も知っています。大丈夫です。それに、今日のお召し物もよくお似合いですよ」
テスタロッサのメイド達が選んでくれたドレスは白いドレスなのだが、青色の生地が所々にあり、それを際立たせるために金色の刺繍が豪勢に入っている、とても煌びやかと言っていいほどの立派なドレスだった。
髪も緩く巻いて、金色のバレッタでハーフアップに纏められている。
お姫様かな?
と見間違うほど、鏡で見たあたしは別人のようだった。
「ほ、本当?」
「嘘は言いませんとも。私では、お嬢様の緊張をほぐして差し上げられないのは理解しておりましたので、助っ人を呼んでおります」
そう言うと、ターニャは暗がりに向かって手招きする。
そこから出てきたのはナズナだった。
「え?」
「お嬢様の次の出番まで、あと数分ございます。殿下、あまりお召し物を汚すような事はなさいませんよう」
「誰がするか」
そう言って、ナズナはあたしを暗がりに連れ込んだ。
そのまま、あたしを抱きしめてくれる。
「ナズナ…」
「綺麗だ、シャル。お前の出番の少し前まで聞いていたが、他の者ではお前の足元にも及ばないな」
少し体を離して、ナズナはあたしに向けて微笑んでくれた。
「そ、そんな事…」
「謙遜するな。俺の妃はお前だけだ、それは覚えているな?」
彼の言葉に頷く。
あたしだけを愛していると、言ってくれた事も。
「お前のような素晴らしい女性とは、二度と巡り会えないと、俺は本気で思っている。愛しているよ、シャルロット」
「こんな面倒な女、好むのは貴方くらいよ。ナズナ…あたしも、愛してる」
どちらからともなく、キスを交わす。
キスをしている場所から、緊張がほぐれていくのがわかる。
やっぱり、あたしはナズナがいないともうダメらしい。
カヅキに抱いていた感情よりも、もっとナズナが愛おしかった。
出番が来るまでしばらくキスをしていたあたし達だったが、声をかけられ名残惜しげに離れる。
「シャル、いってこい」
「うん。ありがとうナズナ。大好き!」
ステージに向かうあたしに、ナズナが激励をしてくれたので、あたしも笑顔を返した。
ターニャを伴い、ステージに上がる。
『エントリーNo.20。最後の大トリを飾るのは、シャルロット・マリアライト・テスタロッサさんです!』
そういえば、出番最後だったっけな。
なんて事をふと思い出す。
「きゃー! お姉様ーっ!!」
観客席の方から声援が上がるが、何故お姉様呼びなんだ。
多分、アンが作ったファンクラブの人なんだろうけど。