転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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87.自分が嫌になります

年上からもそう呼ばれるのは、少々キツイものを感じる。

 

あたしは取り敢えず、観客席に向かって軽く手を振った。

さらに黄色い悲鳴が上がる。

 

悪循環な気がして、すぐ振るのをやめた。

 

ターニャがバイオリンを出して、軽く音を出す。

多分調律しているのだろう。

それが終わったのか、彼女が目で合図をしてきた。

あたしはそれに頷きを返す。

 

大きく息を吸い、歌い始める。

それを邪魔しないよう、ターニャがバイオリンで旋律を奏で始めた。

 

エレンの歌第3番。

一般的にはアヴェ・マリアの名前が有名だろうか。

聖母マリアに助けを求めて祈る、というのがこの曲の本来の姿なのだが、マリアの名前が入っているせいで宗教曲だと勘違いされた、と家庭教師で来ていたオペラ歌手が呟いていたのを覚えている。

 

歌っている最中、観客席にいるナズナを見つけた。

彼はあたしと目が合うと微笑みかけてくれる。

 

ヴェスタ、今日はあなたに感謝します。

あたしを、この世界に送り込んでくれてありがとう。

ナズナと出会わせてくれてありがとう。

今日ばかりは、あなたを崇めます。

 

歌い終わると、観客席から割れんばかりの拍手が上がった。

 

少し驚いていると、ライオット先輩が壇上に上がってくる。

 

「これだけの拍手です。今年の歌姫は、シャルロットさんですね。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます?」

 

他の係の人が、優勝トロフィーなるものを持ってきて、あたしに持たせた。

身動きが取れないあたしの手を取り、ライオット先輩は口付けを落としてくる。

 

「っ?!」

「ただの社交辞令ですよ。王妃になったら、こんな事日常茶飯事ですからね。今の内慣れておいた方がよろしいかと」

 

年上の人達には前世でもされた事はあるが、同年代では無いので少々驚いてしまう。

 

「…ご忠告、ありがとうございます先輩。先輩の事業も軌道に乗れるよう、お祈り申し上げますわ」

「えぇ、その際にはスポンサーになっていただけると有り難いですね」

 

トロフィーは、その後傍に寄ってきてくれたターニャに渡し、そそくさと寮へと帰路についた。

あのままあの場にいたら、囲まれる事必死だったからだ。

 

◆◆◆

 

「あの、ナズナさん? 着替えたいんですけど」

 

動きにくいドレスで必死に寮に帰ってきたのだが、その直後、同じく帰ってきたナズナに所謂壁ドンをされてしまっていた。

 

何があったかなんて、彼の表情を見れば理解出来る。

ライオット先輩に、手へ口付けされたのが気に食わなかったのだろう。

 

「あれ、社交辞令だって言ってたんだけど」

「…わかってる」

 

わかってるならそこ退いてほしいんだけど。

あたしのそんな視線に、ナズナは口を引き結んでしまう。

嫉妬してくれてるのは嬉しいのだけど、あたしが王妃になってこんな事があるたびに、こんな状態になるのは正直いただけない。

 

「ねぇ、ナズナ。そんなにあたしが信用出来ない?」

 

そう問うと、彼は首を横に振る。

しかし、腕の拘束は解けないようだ。

 

「あたしが貴方を愛しているのは、変わらない事実なの。他の人に靡くわけがない、分かるでしょう?」

「…わかってる」

 

そんなにあたしが誰かのものになるかもしれない、なんて不安があるのだろうか。

そんな未来、訪れるわけがないのに。

 

「愛しい人。不安にならないで? …はしたないかもしれないけど、そんなに不安なら婚前交渉でもしましょうか?」

 

頬に触れ、妖艶に笑む。

今日のあたしは、ターニャがお化粧してくれたおかげで、年相応に見えないくらい綺麗になっている。

彼は驚いて腕の拘束を解き、反対方向の壁に激突した。

顔は真っ赤になって、ハクハクと口が動いている。

 

「…ふふ、冗談よ。貴方の意志の固さに感謝を。では、私はこれで。今日は、私が傍にいても眠れないでしょう? また明日、あなた」

 

カーテシーをして、あたしはテスタロッサ邸に飛ぶ。

メイド達にお風呂に入れてもらいながら、あたしは自分の心臓がドクドクと鳴っているのを感じた。

 

ナズナの意志が固くて良かった。

もしあのまま流されてしまっていたら、あたしもどうなっていたかわからない。

 

少し、期待してしまった自分がいた。

いずれは夫婦になって、そういう事もするだろう。

世継ぎを作らなければならないのだから当然なのだが、今、そうなっても良かったと思ってしまった自分を恥じる。

 

あたし、馬鹿だなぁ…。

 

目を閉じてそう思う。

そうなってしまったら、子供が出来てしまったら、傷付くのはあたしではなく、ナズナだ。

あたしに負担を強いてしまったと、一生後悔するだろう。

 

彼は、優しい人だから。

 

お風呂から上がり、バスローブを着させてもらったあたしは、寝室のベッドにダイブする。

 

好き、大好き、愛してるのナズナ。

 

心がそう叫んでいる。

だからこそ、自分の欲は封じなければ。

彼を傷つけないためにも。

 

次の日、寮に帰ったらナズナに全力で謝られた。

いや、あたしも悪かったって言ったのだけど、土下座する勢いだったものだから形だけだけど、許す事にしたのだった。

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