「調査ですか?」
もうそろそろ期末試験だという時期に、ギルドマスターであるアルテミシアさんが、あたし達を訪ねてきた。
校長に応接室を借りて、あたしとナズナ、ロゼで話を聞く。
「あぁ。ベルベット山という所があってな。リューネ国では霊峰と言われている山だ。そこは季節問わず紅葉が素晴らしいところでな。観光地にもなっているんだが、ここ数ヶ月吹雪で閉ざされてしまっている。その原因を調査してきて欲しい」
「他の方には頼めなかったのですか? 一応、あたしや殿下、ロゼは学生です。これから期末試験に向けて、勉強もしなければなりませんし…」
今回期末試験の範囲は広い。
流石のあたしも、一から見直さなければ点数を落としてしまうだろう。
ナズナやロゼも然りだ。
だから、マスターの依頼は受ける事が出来ないだろう。
そう言ったのだが。
「期末試験は免除すると、校長から言質は取った。だから、何も心配する事はない」
横でロゼは喜んでいるのだが、あたしはそれ良いのか? とナズナの方を見る。
彼は腕を組んで難しい顔をしていた。
「…アルテミシア。俺達に話を振ってくるという事は、称号持ちでないと解決出来ない事態だと予測するが、どうだ?」
「その通りだ。殿下は察しが良くて助かる」
その言葉に、危険な場所だと気付いたロゼの顔が、途端に青くなる。
あたしは苦笑しながら、彼の頭を撫でた。
「調査員を派遣したが、誰一人戻って来なくてな。一般のギルド員を行かせたら、拙いと判断した。他の称号持ちも、別の仕事で遠方にいるものが多数だ」
「だから、近場の俺達に声がかかったわけか…」
彼が少し考え始めるが、あたしは声を上げる。
「あの、あたし一人で行きます」
「「シャル?!」」
ナズナとロゼの声が同時に、両方から聞こえた。
両隣に座って、あたしが真ん中に座っているのだから当たり前なのだが。
そして両方から肩を掴まれた。
「何を言っている、お前が行くなら俺も行くからな!」
「危険な場所だって言ってたじゃん! 何でそう猪突猛進なの、シャル!」
「あー! 五月蝿い!!」
両隣で喋らないで欲しい。
ただ喧しいだけだから。
思わず耳を塞いでしまったあたしに、アルテミシアさんはケラケラと笑っていた。
「で、受けてくれるのか?」
「シャルが行くと言った。なら、断る義理はない」
「ぼ、僕も怖いですけど、シャルが行くなら行きます」
あたしを理由にしないでもらいたい。
大体、あたし一人で行くと言ったのに、どうして二人も行くという話になっているのか。
あたしはため息をついてしまう。
「よろしく頼む、光姫」
「…はぁ」
引率になるんだろうな、このメンバーだと。
行く前から、少し憂鬱になってしまった。
◆◆◆
アルテミシアさんの事前情報通り、ベルベット山は吹雪いて雪に閉ざされてしまっていた。
麓はそうでもなかったのだが、一歩山に踏み入れるともう別世界。
ホワイトアウトしてしまっている。
「寒い寒い寒い!!」
いくら制服が冬服仕様だからって、この寒さは想定外だろう。
ロゼが寒いを連呼し始めたので、あたしは創造魔法でスキーウェアを出し、ロゼに着せた。
登山の時もだが、雪山に行く際は出来るだけカラフルな物を着て行くよう、教えられた。
真っ白の雪山の中、遭難してもすぐわかるように、だったか。
ロゼにはピンク、ナズナには黄色を着せる。
あたしは青を着込んだ。
「うーん…信号機の色」
「あ、シャルも思った? 僕も」
二人でクスクス笑っていたが、ナズナだけわからないので、彼は首を傾げている。
「シンゴウキ…?」
「3色の色がついた、機械って言ったらいいのかな」
「それちゃんとした説明になってないよ、ロゼ…」
ナズナに詳しく説明すると、便利だから今度ベルファに作ってもらおう、と言い出した。
「いや、馬車にそれは必要ないと思うわ。むしろ、誘導員を増やした方が、交通の便は良くなりそうではあるけど」
そうか? という彼に、そうよと返す。
というか、この異常気象の原因を探さなければならないのに、こんなにまったりしてて良いのだろうか?
「真っ白で何もなさそうなんだけど」
「視界も悪いな。もし崖があってもわからんぞ、これは」
ホワイトアウトしているから尚更だろう。
あたしは雛桔梗に問いかけた。
「雛桔梗、この周囲で何か気になるものはない?」
【はい、我が主。右側前方、洞穴があるようです】
洞穴?
ここ、登山道のまだ入り口のはずなのに?
「その場所、撃ってくれる?」
【了解致しました】
雛桔梗を展開させ、魔力を集めて彼女に操作を渡して撃って貰う。
確かに彼女が言った通り、右側前方に洞穴が姿を現した。
「洞穴?」
「あそこで休もう! シャル早く!」
ナズナが怪訝な顔をする中、ロゼが真っ先に洞穴に向かって走って行ってしまう。
「ちょっと、ロゼ! 危ないでしょ! ちょっと待ちなさいって!!」
あたしもロゼの後を追って走る。
ナズナも追走してくれたらしく、洞穴に着く頃には三人が雪の難から逃れていた。