ロゼか居た堪れなさを感じたのか、ぽつりとそんな事を呟き、補足としてレヴィが余計な事を言う。
「我が妻。主の睦言を他に言うのは、少々頂けんぞ」
「ルティ、レヴィ。ごめん。ちょっと黙っててくれる? 気が抜けるから…」
深呼吸した後、氷の城の扉に触れる。
勿論、何か罠が仕掛けられてないか、雛桔梗に探ってもらった後に、だが。
押し戸らしく、押すとゆっくり扉が開いていった。
開けたからといって何があるわけでもなく、あたしは中に入る。
まるでガラスで出来ているかのようなホールに、美しささえ感じるが、それでもこの状況は異様極まりない。
洞穴の奥に、城ですって?
吹雪と関係があるのでしょうけど、その原因の主は何処に潜んでいるの?
建物の壁を触ると、全て氷で出来ているようだった。
触れれば冷たく、だが溶ける様子がない。
吐く息は白く、通常ならば長時間の活動は無理だろうな、と感じる。
「雛桔梗、この城全体をサーチして。敵性存在がいたら報告を…」
【警告。頭上に敵性存在有り。3秒後に接敵。3、2、1…】
雛桔梗のカウントダウンが始まり、あたしは後方へ飛び退く。
ナズナ達の所まで後退すると、氷の塊があたしがいた場所に降り注いだ。
その後、その場所へ女性が降り立つ。
セレストブルーの髪と目の色、所々に雪モチーフのアクセサリーをつけ、薄い色の長袖のワンピースを着ていた。
「残念。殺せるかと思ったのに」
楽しそうに笑っているのに、薄寒さを感じる。
クスクスと笑っているはずなのに、目の前の彼女から聞こえていないように思える。
「何、これ…」
「シャル! 変質した魔力に当てられてる! 正気を保って!!」
ロゼがあたしを支えてくれた。
あたしは一度目を閉じ、変質した魔力というものを調べてみる。
こちらを狂わせ、惑わせるような魔力の波形。
それがここら一帯に、放たれていた。
「ロゼ、なんで貴方平気なの?」
「うーん…? わかんない」
この状況で動けたロゼに聞くが、彼もよくわかっていないようで首を傾げていた。
まぁ、魔力耐性が高いせいだろうな。
あたしの感知も弾いてしまったぐらいだし。
魔力波を中和するため、あたしは逆波形の魔力を放出し、彼女に対抗する。
「貴女が、この吹雪の原因ね?」
「さて、それはどうかしら?」
クスクスと楽しそうに笑う彼女に、不愉快感を覚えた。
これは、あれだ。
最高神に会った時みたいな感覚だ。
異質な存在と相見えた時の。
「調査員はどうしたの」
「んー…? あぁ、あの人間達ね。食べちゃった」
頬に手を当て、彼女は笑う。
ここが普通の街中なら、とても絵になるような笑顔で。
彼女は、人を食ったと言った。
「貴女何者なの」
「私はここの城の主よ、食べがいのないお嬢さん」
あたしのどこが食べがいがないというのか。
結構肉付きはいいと思うのだが。
って、そんな事を考えている場合じゃない。
あたしは創造魔法で、必ず心臓を穿つ槍というものを生成し、投げる。
槍は一直線に女性の心臓を穿った。
だが。
「痛いわねぇ。もう、服に穴が空いちゃったじゃない」
女性は意に介さず、槍を引き抜いた。
しげしげと自分を穿った槍を見た後、それを破壊する。
「な…」
あたしは唖然と、それを眺めてしまった。
レヴィとルティが、あたしの代わりに追撃に入る。
しかしそれも、女性は腕を動かしただけで二人を吹き飛ばした。
「がっ…!」
「ぐぅ…っ!」
洞穴の壁にめり込み、二人は苦痛の声を上げる。
「レヴィ! ルティ!」
「みんな、いって!」
二人の状態に、あたしは思わず叫んでしまう。
ロゼが召喚した召喚獣達が、女性に襲いかかった。
女性は息を召喚獣達に吹きかける様子を見せる。
瞬間、召喚獣が凍った。
「えっ、えっ」
ロゼもその様子に動揺を隠せないようで、狼狽えている。
「もう…鬱陶しいわね…。まぁ、いいわ。貴女と貴方。あんまり美味しくなさそうだから見逃してあげる。でも、そこの貴方。貴方は美味しそうだし、美しいから鑑賞してから食べてあげるわ」
そう言うと、女性は片手を上げた。
後ろの方でナズナの呻き声が上がる。
振り返ると、彼が魔法で拘束されていた。
「ナズナっ!!」
「私の獲物なのだから、触らないでちょうだい」
彼に駆け寄ろうとして、横から衝撃波が来る。
多分、女性が何かしたのだろう。
「ぐ…っ!!」
雛桔梗が防護シールドを張ってくれたが、衝撃が殺せずあたしは地面に転がった。
気を失ってしまったのか、ナズナは抵抗せずグッタリした状態で、女性の元へと浮かんでいく。
「っ…ナズナぁっ!!」
あたしが悲痛な声で彼の名前を呼んでも、彼は目を開けてくれない。
ロゼの方を見れば、女性に昏倒させられたようで、倒れたまま身動き一つしていなかった。
「それじゃあね、侵入者さん達。別にここの事を他の人に教えてもいいわよ。この人間みたいに、美味しい人達がたくさん来るでしょうからね。ふふふ」
そう言い、女性とナズナはその場から消える。
「…っ! あぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」
あたしの慟哭は、洞穴の中に響いていった。
なっちゃんがナズナの名前叫ぶもんだから、ナズナの文字がゲシュタルト崩壊起こしかけとる…タスケテタスケテ…