ふと、目を開けた。
一切の光も差さないような暗闇の中、俺は身じろぎをする。
「……?」
体への違和感に何回か身をよじると、どうやら拘束されているようだった。
こんな事は、今までに敵方に囚われた一回くらいしかなく、俺は自分を拘束する物に触れる。
「縄、ではないな…」
どうやら、魔力を束ねたものを俺の拘束に使っているらしい。
惜しい。
縄なら、隠していたナイフで切って解いたものを。
しかし、ここはどこだ?
それに、俺は今まで眠っていたようだが…。
ぼんやりと先程までの記憶を思い出し、俺は目を見開く。
そうだ。
シャルとロゼと共に、霊峰の調査に来ていた。
雛桔梗が見つけた洞穴に入り、奥へ進んで城を見つけ、シャルに攻撃を仕掛けてきた女と戦闘に入り…。
「っ! シャル!!」
そう、シャル。
俺が拘束された後、駆け寄ろうとした彼女はあの女に吹き飛ばされた。
起き上がり、彼女は無事だろうかと辺りを見渡すが、俺以外誰もいないようだ。
「っ、くそっ!」
どうやら足も縛られているようで、両足で地面を蹴り上げる。
反動で体勢を崩し、俺はまた倒れ込んだ。
「ふふ、何してるの? 遊んでいるの?」
暗闇の中から浮かび上がるように、女が現れる。
妖艶に微笑むが、俺には響かない。
「貴様、何者だ」
「何者でもいいじゃない。ねぇ、私といい事しない?」
俺を起こし、しなだれかかってくる女に、侮蔑の視線を向ける。
何度も見た事がある、俺が嫌いな種類の女の顔だ。
俺の顔か、地位目当てで近付く、くだらない女達。
価値観が変わったのは、シャルに出会ってからだ。
彼女は、俺を王族と知りながら萎縮する事もなく、むしろ対等だと接してくれた。
笑い顔も、怒り顔も、泣き顔も。
全てが愛おしいと、そう思ってしまった。
だから俺は、シャル以外の女はいらない。
俺以外の男がシャルを奪うというのなら、戦ってでも奪い返してやる。
シャルは俺の
誰にも渡すものか。
もしもシャルが俺を破滅させる女だとしても、俺はそれを喜んで受け入れよう。
「
耐魔力の魔法を唱える。
縄でないのなら、解く手間などない。
俺は自分の両手足を拘束していた魔法を解除し、しなだれかかっていた女を殴りつけた。
「きゃっ!!」
俺に殴られた女は、そのままの勢いで吹っ飛んでいく。
身体強化も施したのだから、無事では済むまい。
「ちっ…殺してはいないか」
感触からして、あれは半分幻影だ。
本体がどこかにいるだろうが、それに攻撃を加えない限りは、あの女は何度でも蘇るだろう。
立ち上がり、伸びをする。
随分あの体勢だったようで、身体のあちこちが鳴った。
「シルフィード。飛んでシャルを連れてこい」
俺は使い魔を呼び出し、飛び立たせる。
しかし、シルフィードはどこにもいけないようで上空を旋回し始めた。
「無駄よぉ。ここは閉ざされた空間なのだから。それにしても、貴方酷いわね。見目がいいから、良い思いをさせてから食べてあげようと思ったのに」
吹き飛ばされて倒れている女の横から、同じ姿の女が現れる。
俺の予測は、正しかったらしい。
「良い思い? それはお前だけだろう。それに、貴様の様な女はシャルの足元にも及ばない。お前より、シャルの方が何十倍、いや、何百倍もいい女だ」
女はそう、と呟いて俺を見る。
途端、体が動かなくなった。
これは…魔眼か。
石になっている所は見受けられんから、ただ身体の拘束をするだけに留めているのか。
くっ、と俺は笑い、亡くなった兄上を思い出す。
兄上も魔眼持ちだったが、その魔眼が暴走して亡くなったと、親族であり、兄上を静養させる名目で連れ出したテレジアの当主。
レフ・スフェーン・テレジアが訃報を伝えてきた。
俺は未だに、魔眼の暴走で兄上が亡くなった、など信じてはいない。
亡くなったのは事実だろうが、テレジアにはいい噂がないからな。
「何を笑っているの? 貴方、自分の状況わかっている?」
「少し現実逃避をしていた。こんな状況を、俺の女が見たら怒り狂うだろうとな。後で俺もどんな叱責を受けるかわからん」
肩を竦めた女が俺に近付き、頬に手を添えながら口を開ける。
途端、眠気が俺を襲った。
こいつ、魔力を吸い出しているな…。
まずいな…意識を保たなければ。
口の端を噛み、血が滲むまで食いしばる。
「私、男の人の精気や魔力が好きなの。貴方が死んだ後は剥製にして飾ってあげるから、安心してね」
妖艶に微笑む女に、俺は嘲笑を返した。
「それは…全く安心出来ない提案だな。お前の手元で可愛がられるなど、反吐が出る」
「お喋りで可愛くないお口は塞いでしまおうかしら」
口付けを女が落とそうとしてきた瞬間、空間が揺らぐ。
続いて体に響くような衝撃が来た。
「な、何?!」
女が動揺を露わにするが、俺は安堵する。
そして、女をせせら笑った。
「お前の誤算は、シャルを殺しておかなかった事だな。俺の妃は、怒らせると何をするかわからんぞ」
一呼吸置いて、俺は宣言する。
「俺をシャルの目の前で攫った時点で、お前の死は確定している」
ナズナ視点でした。