転生お嬢様、2度目の人生も頑張ります!   作:桜舞

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94.無事でよかったです

「あ…あれは、総帥になるために身に付けさせられた顔というか…。上に立つ者、常に冷静で冷酷であるべし、って父からの教えで…」

「それでも違いすぎて、俺は驚いた。やはり俺は、こちらのお前の方がいい」

 

抱きしめる力が強くなった。

絶対に離さないという意志を感じる。

 

「ナズナ…」

「お前がどんな姿になろうと、それこそ人で無くなったとしても。お前を愛さないなんて事はない。だから安心しろ、シャル」

 

優しげに微笑む彼の姿が滲んでいく。

胸の奥が苦しくてたまらない。

 

涙が一筋、あたしの頬を流れ落ちていった。

 

「泣かないでくれ、シャル。お前に泣かれると、俺は弱いんだ。お前には、常に笑顔でいて欲しい。笑っていてくれ、シャルロット。大丈夫。俺はお前から離れたりなどしない。愛してるよ」

「ナズナ…っ!!」

 

あたしは彼の胸の中で泣いた。

喉が枯れる程、泣き叫んだ。

 

彼が無事でよかった事。

あたしが人を辞めてしまった事。

それでも、あたしを愛すると言ってくれた事。

 

全ての感情が混じり合って、あたしは涙が枯れるまで泣いたのだった。

 

◆◆◆

 

泣き止んだあたしの背中を、彼が撫でてくれる。

その手が心地良くて、あたしは彼の胸に頬を擦り寄せた。

 

「制服がボロボロだな。買い直さなくてはならないだろう」

「ちゃんと自分のお金で買うから、俺が買うなんて言い始めないでよ?」

 

言わんさ、なんてナズナは言うけれど、あたしが言わなければ、絶対無断で制服を持ってきていたはずだ。

 

「しかし、ここからどうやって出る? 階下はもう、瓦礫の山だぞ」

 

あたしが開けた穴、そこから覗く下方は既にレヴィに破壊され尽くしていて、通ってきた道も塞がってしまっているようだった。

 

「うーん…せめて、道は確保しておけって言っておくべきだった…」

 

パリパリ、音がし始める。

頭上を見ると、結界が壊れかけてきているのが見て取れた。

 

あ、マズイ。

 

あたしは雛桔梗を全展開させ、ナズナを抱え上げる。

 

「何をするんだ、シャル」

「見ればわかるでしょう?」

 

この結界が完全に壊れれば、あたしはともかくナズナは落下してしまう。

せっかく助けられたのに、そんな別れは勘弁願いたい。

 

あたしに抱えられ、ナズナは不満そうにこちらを見て来る。

そんな目で見られても困るんだけど。

 

「シャル、離せ。俺だって飛べる」

「多分ここ、山の頂上付近の高さなんだけれど、貴方その高度維持できるの?」

 

そう問いかければ、彼は押し黙ってしまった。

少しは飛べるがこの高度まで来たことがない、と認めたようだ。

 

「はい、降りるよー」

 

雛桔梗のスラスターを使い、ゆっくりと高度を下げる。

地上に降り立つと、レヴィとルティが頭を下げた状態で現れた。

 

「二人とも、ご苦労様。ごめんね、八つ当たりしてしまって」

「いや、我が主の怒りは正しい。我らが不甲斐ないせいだ。主が謝る事ではない」

 

ルティはそう言うが、レヴィはあたしに抱きついてくる。

 

「主、すまぬ!!」

「レヴィ、怖かったよね。ごめんね」

 

彼女はあたしから離れ、頭を思い切り横に振りまくった。

結構長く生きているはずなのに、動作が子供っぽい。

 

思わず笑ってしまった。

 

「主?」

「ごめんごめん、ありがとうレヴィ。貴女やルティ、雛桔梗がいてくれて良かった」

 

そう言うと、後ろから抱きしめられてしまう。

少し横に視線を向けると、金色の髪が見えた。

 

「ナズナ、拗ねないでよ。貴方がいてくれるから、あたしは戦うのが怖くないのだから」

「…拗ねてない」

 

声が拗ねているんだけれど。

 

「我が主、レヴィが開けた穴から出られそうだが。如何する」

「そうね。ルティ、あたしに撃ち損なったドラゴンブレス、もう一度撃てる?」

 

ニコリと微笑みながら、若干の嫌味を込めて言うと、ナズナがあたしを抱きしめる力が強くなり、レヴィがルティに掴み掛かった。

 

「我が夫! 我が主に何をしたのだ?!」

「いや、すまぬ…お前が倒されたのを見て少し…」

 

いつもと形勢逆転して、レヴィがルティを説教し始める。

やれ、我が主は自分を倒した勇者だの、やれ、お前が送還されそうな時に助けたのは誰だ、だの。

そんなに責めないであげてと言いたいくらいに、ルティがしょんぼりし始めてしまった。

 

「まぁまぁ…レヴィ。ルティも、奥さん乱暴にされて怒っただけだから。むしろ、あたしは怒られて当然なんだから、そんなに言わなくても…」

「いいや、言わせてもらう。大体我が夫は昔からだな…!」

 

お説教が長引きそうなので、あたしはナズナを見る。

 

「ナズナ? いい加減離して欲しいのだけど」

「………」

 

あたしの肩に自分の頭を擦り付けている彼へ、離すよう言うが、それでも離そうとしない。

 

「あの女にベタベタ触られて不愉快だったんだ。シャルで上書きしたい」

「なっ…!」

 

あの女がナズナへ触った事に怒りを覚えるが、今はそれ以上に、彼があたしの首筋へ口付けを落としている事の方が重要だ。

 

「や、やめ…っ」

「二人ともこちらには気付いていない。大丈夫だ」

 

何が大丈夫だというのか。

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