「ナズナ…っ! いい加減、怒るわよ…っ!!」
「これだけ」
キツく吸われる。
キスマークをつけられているのだ。
それくらいなら許そうと、あたしは強張っていた体の力を抜く。
「お前、自分で人を辞めたとか思っているんだろうが、まさかどれくらい耐えられるか、実験しようとは思っていないな?」
「…雛桔梗に調べてもらって、わからなかったらそうしようかなー、とは、考えていたんだけど…」
ナズナが急に手を離した。
そしてあたしの真正面に来ると、額に向けてデコピンをしてくる。
「あ痛っ!!」
「そんな事、俺は絶対許さないからな。俺にだって、お前を守らせてくれ」
あたしを緩く抱きしめ、額を合わせてきた彼に苦笑した。
「貴方、自分が護衛対象だってご存知?」
「お前だって、俺の
二人して笑い合う。
何年後も、何十年後もこうして笑い合えたらいいと思った。
◆◆◆
レヴィが開けた穴を、さらにルティが広げてくれた。
その傍で、ナズナが何かを拾い上げる。
「それ何?」
「先程の球の欠片だろう。もう顕現する力も残ってはいないから、無害ではあるだろうけどな」
そんな危ないもの、ナズナに持たせてはいたくなくて、取り上げようとしたけれど。
察知したのか、持った腕を上に挙げられてしまった。
「ちょ…ナズナ、渡しなさいよ!」
「シャルに渡したら、どこかに捨てそうだ」
誰がそんな事するかっ!!
ムッとしてナズナを睨むと、くっくっと彼は笑い出してしまう。
何がそんなに面白いのかと更に眼光が鋭くなったあたしに、彼はすまん、と謝ってきた。
「………」
「そんなに睨んでくれるな、シャル。あんな空間にいだんだ。1時間も離れていないはずなのに、お前と会うのは数ヶ月ぶりな感覚がしてしまってな。ついからかってしまった、許してくれ」
そう言って、ナズナはあたしに球の欠片を渡してくる。
最初から渡してくれればよかったのに、この人はまったく…。
「ルティ、ナズナを抱えて飛んで。あの穴まで結構な高さだから、きっとジェットコースターよりも浮遊感があるでしょうよ」
ついでにお姫様抱っこで飛んでしまえ。
「御意」
「おい、シャル…っ!!」
あたしの名前を呼んだナズナの言葉は、それ以上続かなかった。
あたしの意思を汲んだルティが、ナズナをお姫様抱っこで抱き抱えた後、穴まで飛んでいったのだ。
あー、男の人同士の絡み…あたしは苦手だなぁ。
「我が主、妾も抱き抱えようか?」
「お願い。雛桔梗に魔力の殆どを渡しちゃったのよね。ギルドまでお願いできる?」
任せよ、とレヴィがあたしを抱えて飛んでくれた。
ギルドに着いた後、二人には寮の部屋に戻ってもらったが、ナズナは終始無言であたしは恐る恐る聞く。
「ナズナ、酔った?」
「………」
無言が怖い。
アルテミシアさんの応接室に通されても彼は無言で、やり過ぎたかと少し後悔した。
「帰ったか。どうだった?」
相変わらず仕事が出来る女な感じのアルテミシアさんが、クロエを伴って現れる。
あたしは球の欠片を彼女に提示した。
「これが、おそらくですがあの現象を引き起こしていた原因、かと思われます。これの分体? に襲われましたので」
「ふむ…」
アルテミシアさんは、欠片を手に取り繁々と眺めている。
疑わしいとは思うが事実なので仕方がない。
「状況をご覧になりたいのなら、あたしの魔武器である雛桔梗に映像記録が残っていると思いますが」
もちろん音声は無しだ。
ナズナが怖いと言ったあの口調、アルテミシアさんに聞かせるわけにはいくまい。
「いや、光姫の言い分を信じよう。その状態なんだ、激戦だったのだろう」
言われてあたしは目線を下に下げ、自分の姿を見た。
前面は心臓から流れ出た血で真っ赤になり、今は酸化して茶色くなっている。
後ろは硬化した肌を針状に飛ばしたせいで、素肌がところどころ見えてしまっている状態だ。
レヴィかルティから、コート借りてくればよかった…。
こんな姿ターニャに見つかったらなんて言われることやら…。
あたしが顔を覆い俯いていたら、ナズナが頭上から制服の上着をかけてくれる。
「すまん、そういえばそうだった。レヴィに、お前の着替えを持ってくるよう言っておくべきだったな」
後悔先に立たずなんだけど。
貸してくれてありがたいけれどね。
「私の服でよければ貸そう。返してくれなくて構わんがな」
「アルテミシアの服? 胸が違いすぎてシャルロットさんには入らな…ぐふぉっ!!」
余計な事を言ったであろうクロエが、アルテミシアさんに殴られ吹き飛んでいく。
ナズナも眉を寄せている辺り、失言なのは間違いない。
「シャルの胸を見るな。俺のだぞ」
「貴方も何言ってるの?!」
気にしてたのはそこなの?!
あたしもナズナを軽く叩いて、アルテミシアさんに頭を下げた。
「本当にすみません、うちの殿下が…。良ければお洋服貸してください…」