「あぁ、こっちだ。あと殿下、あんまりデリカシーがない発言をするとこうなるぞ。覚えておけ」
足元で呻いているクロエを軽く蹴り飛ばし、彼女はナズナに忠告してくれる。
まぁ、あんまりわかっていないような顔をしていたから、デリカシーとはなんぞやと思っていそうではあったが。
アルテミシアさんの私室に入らせてもらい、更にはその奥にあるドレスルームに通される。
煌びやかなドレスもあれば、軍服らしきものもあった。
そのどれもがスレンダーな人が着るような物ばかりで、あたしが着られそうな服ってあるのだろうかと考えてしまう。
むしろ胸の分がなければ着られていた洋服ばかりで、久々ばかりにあの神が無能だと痛感した。
「あの、アルテミシアさん…」
「クロエも言っていたが、私の胸がないから着られないとか言わんよな?」
言いたくないけどその通りではないのか、とあたしは苦笑いする。
彼女は軽くため息をついて、両手を叩いて鳴らした。
何処にいたのか、数人のメイドさん達が現れる。
「うちがただのギルドだと思っていたか? 討伐専門やら荒事専門だと? 違うな。うちのバンツァーは全てのギルドの頂点だ。服飾ギルド、商業ギルドは管轄下だ。だから、私の服をお前用にリメイクすることも容易い」
アルテミシアさんは高笑いをしながら、そう説明してくれたが、あたしは採寸やらをされていて、それどころではない。
「だから光姫、好きな服を選ぶと良い。勿論、代金はお前のカードから引いておくからな」
「別にそれは良いんですけど。良いんですか? サイズ変えたら、アルテミシアさん着られなくなりません? 返せなくなるんですけど」
あたしがそう言うと、彼女は構わんと言った。
腐るほど有るから好きにしろ、だって。
あたしはありがたく、お言葉に甘える事にした。
アルテミシアさんのドレスルームにある服は、どれも魅力的で決めかねてしまう。
似たデザインで服を作って、とターニャに言えばすぐにテイラーの人達を呼んで作ってくれるが、流石にこのままの状態で帰ったら彼女は卒倒してしまうかもしれない。
あたしはある服の前で止まる。
黒い軍服のようだが、スカート部分がフリルたっぷりで格好良さの中に可愛さがあるような、そんなデザインの服だった。
アルテミシアさんの趣味では無いような気がして、あたしは彼女に聞く。
「あの、アルテミシアさん。この服って…」
「あぁ…私が少女時代に使っていた服だな。なんだ気に入ったのか?」
少女時代って、今彼女は何歳なんだ。
ふとした疑問があたしの頭を駆け巡ったが、そんな質問は相手に失礼なので黙っておいた。
だいたい、そんなに仲が良いのかと言われたら答えはノーだ。
アルテミシアさんはギルドマスターで、あたしは称号持ちだとしても、マスターの部下。
格差には天と地の差がある。
「まぁ…可愛いと思います」
「格好良いだろ」
確かにそっちの方が先には来るが、可愛らしさもあるデザインだと思う。
あたしは、これにしますとアルテミシアさんに伝えた。
そのままでは服が汚れるから、リメイクしている間風呂に入ってこいと、アルテミシアさんの部屋に付随してあるシャワールームに連れて行かれる。
下着類は流石に辞退して、創造魔法で作ってからシャワールームに足を踏み入れた。
温かいお湯が頭上から降り注ぎ、あたしは一息つく。
疲れた。
その一言に尽きる。
なんだあの女。
ナズナにしなだれかかって。
ムカつく。
いろんな感情がごちゃ混ぜで浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、あたしは大きいため息をついた。
「なんでそんな盛大なため息なんかつくんだ。ある一説によると、ため息をつくと幸せが逃げていくとか言うらしいぞ」
「……なんで、扉一枚越しに貴方がいるのよナズナ」
あたしは声がした方、磨りガラス越しのナズナに問いかける。
「服をリメイクしている間暇だろうから、シャワールームにいるシャルと話してきたらどうだと、アルテミシアがな」
「確かに護衛対象の貴方を放って置いたのはマズイとは思ってたわよ。でもだからって、お風呂に入ってる恋人の近くまで来る? ま、まだ、その…肌だって見せた事ないのに…」
言ってて恥ずかしくなってきた。
ナズナは王太子だから、そんな教育も受けてきただろう。
だがしかし、あたしは前世でも今世でも、そんな経験した事ないし、見た事もない。
お風呂に入る時だって、家族と一緒に入った事もない。
全部メイドがしてくれていた。
男の人と一緒に閨に入った事もない。
もしかしたら、将来はカヅキと閨を共にしていたのかもしれないが、それは前世の話だ。
つまりあたしは、男の人に自分の裸を見せた事がない。
「肌? ドレスとか着ている時に、よく肩を出しているだろう?」
「貴方、それ天然で言ってる? それともわざと?」
たまに、ナズナは思った事を口にするらしい。
何の考えもなしに言葉を発してしまうから、相手の神経を逆撫でしている。