俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

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想いが世界を変えた例を俺はまだ知らないが、想いが『物』を変えた例は無数に知っている。

想い、気持ち、感情というものは蓄積する。その量が物の許容量を超えた時、物は『憑物』に変質し、不思議な力を持つようになる。

さらに憑物が人からの想いを受け、再び許容量を超えた時。憑物は『憑喪神』となり、人の形をとる。

 

希は、長きにわたって多くの人間の感情を受け変質した、刀の憑喪神だ。

 

 

 

キャサリンは棍棒を捨てて背後に手を回す。

鋼鉄の塊を真っ二つに切断した刀の切れ味は危険だ。注意しなければならない。

彼我の距離は5mまで近づいた。あと数歩詰められれば刀の間合いだ。注意しなければならない。

 

しかし何よりも注意しなければならないのはあの刀の能力。既にキャサリンが捨てた棍棒は切断面から塵となって消えていた。

 

「お前の憑物の能力……もうだいたいわかった」

「なんですって……?いや」

 

もともと憑物や憑喪神は人知を超えた能力を持つ。その力を持ってすれば鉄の塊すら消失させることも可能だろう。

 

だが、黒田裕翔は人間のはずだ。

 

「何者ですの、あなたはっ」

 

裕翔の左手が、底知れぬ谷底のような暗闇に覆われている。暗闇はそのまま蛇のように左腕を登り、裕翔の左半身を覆い尽くして止まる。

ただの人間が、いくら憑喪神を所持したとてこんな現象を引き起こせるはずがない。

 

 

早急に仕留めなければならない。

本能でそれを察したキャサリンが再び背後から銃を取り出す。しかし裕翔も同時に飛び出している。

 

(はやいっ)

 

飛び退いて5mの距離を保つ。しかし銃は既に切断され、消え去っていた。

 

(この距離でも、射程距離内……)

 

自分の体は切断されてはいないが、もし数センチでも前にいたら塵になっていたのは自分だった。

冷や汗を流しながら再び背中に手を回す。

 

「この屋敷……この土地も憑物だ。この土地は俺が許可しない限り武器も攻撃も受け付けることはない」

 

しかし、キャサリンは無数の武器を使用して戦っている。憑物の能力を破ることができる可能性を持つのは、同じく憑物だけ。

 

「なにか、質量や体積を無視して物体を持ち込める憑物だな」

 

キャサリンは舌打ちをした後、背後から円筒を持ち出した。軽く振るとカラカラと音がする。

 

「……バレてしまってはしょうがありませんわね。この通り、私の憑物は万華鏡。結構便利ですのよ?」

 

万華鏡を覗き込むところから無数の武器が地面に落ちていく。まるで四次元ポケットだ。

 

「ですが、私もその憑喪神様の能力は見破りましたわ」

「………」

「妖刀『草薙』……なんとしてもいただきますわ。教会のために、私のために!」

 

裕翔が歩を進めて間合いを縮めるが、それを易々と許すわけにはいかない。

足止めをするべく万華鏡を一振りすると爆弾が中から飛び出してくるが、全て草薙に切り落とされ、爆発前に消える。

 

「この程度で!」

「これでは、いかがです?」

 

さらにもう一振りすると、中から飛び出してきたのは巨大なトラックだった。

地面をゴロゴロと転がってくるトラックから逃れることはできない。裕翔は刀の切っ先を前に向け、真っ直ぐ突っ込んでいった。

 

「希!パワー全開だッ!」

 

刀が触れたところから塵化が始まり、トラックは裕翔の体に触れることはない。一瞬で全てを消失させることはかなわなかったが、トラックは真っ二つに裂けて後方に飛んでいく。

 

しかしトラックで一瞬でも視界からキャサリンは消えた。その間に彼女はタンクのようなものを背負っていた。

 

「切ったものをなんであれ消失させる……その恐ろしさはわかりました」

 

そして水鉄砲のようなものをこちらに向けている。

 

「では切れないものならば!」

 

吹き出したのは炎だった。

 

「う、おおおっ!」

「火炎放射器ですわ。炎も、燃料である油も!『切断』は不可能!黒焦げに……ッ!」

 

キャサリンの目からは間違いなく炎が裕翔に直撃しているようにみえる。

 

「黒、焦げに……」

 

しかし、裕翔は倒れない。

それどころか、炎が燃え移っている様子もない。注意深く見れば、炎は全て刀に吸い込まれるようにして消えている。

 

その時、キャサリンは炎の軌道を注意深く見ることで、ようやく身の回りに起こっていた異常に気付く。

 

「か、風が……っ、この風は⁉︎」

 

『追い風』が吹いている。

風の勢いは時間が経つごとに強くなり、庭の砂塵を巻き上げる。しかし、その砂塵は裕翔の背後からも巻き上がっている。

あまりに不自然。しかし規則的ではあった。

 

「か、風じゃない……憑喪神に空気が引き寄せられている……⁉︎」

「希を、甘く見たな……!希は切断したものを消すんじゃない。希の刃に触れたものは、なんであれ!個体も液体も気体も、この世から消えてなくなる!」

 

そしてほんの少しでも触れれば消失はモノ全体を消すまで続き、何者も止めることはできない。

よって火炎放射器の炎は刃に触れれば燃料ごと消え去り、空気は絶えず消え続けて真空状態の刃に向かって流れる風となる。

 

(この風……っ!さっき一瞬で距離を詰められたのも、風が私にとって向かい風になり、ヤツにとっては追い風になったから……!)

 

裕翔が一歩踏み出せば、キャサリンは一歩後退する。歩き出せば、歩いて後退する。

しかし裕翔が走り出せば、キャサリンにもう接近を拒む術はなかった。

 

「おおおおっ!」

「か、風がっ!に、逃げられなく……!」

 

『風向き』が変わった。

キャサリンの前から風が吹き抜けてくる。それは裕翔と希が自分の後ろにいることを意味していた。

火炎放射器が真っ二つに裂けて地面に落ちると同時に、キャサリンの脇腹からも血が吹き出した。

 

 

「ぐ、ふっ……」

 

膝を折って脇腹に手を当てる。しかし段々と出血の勢いが弱まっている。既に消失は始まっているのだ。

 

「こ、んな……こんなこと……!」

「…………」

 

吹き荒れていた風が収まった。キャサリンが後ろを振り向くと裕翔に身を寄せる希の姿があった。

 

「な、なぜですか……憑喪神様……!教会は貴方を保護いたします!欲しいものはなんでも、要らないものはなにも!もう虐げられることはありません……信者は皆、貴方を崇め奉ります!」

 

縋るように差し出された手をとることはない。

希は一歩前に出て深く頭を下げた。

 

「ごめんなさい。私は幸せ者なんです」

「嘘です……!今までどれだけの人間に呪われてきたか、数えることもできないはず!」

「昔はそうでした。今は……一緒に生きたい人がいます。私と生きてくれる人がいます」

「そ、そんな……」

「だから……一緒に生きるために、私と生きてくれる人を守るために、私は貴方を殺しました」

 

顔を上げた希は毅然とした表情でキャサリンを見る。

信じられないとばかりに首を振る彼女からは先程まであった優雅な印象は消え、哀れみすら感じる捨てられた老婆の目をしていた。

しばらくすると彼女は裕翔を見つめ、段々と表情に狂気を募らせていった。

 

「あ、貴方が……貴様が、いるから……!」

「………」

「この、貴様が誑かしてッ!何をしたクソったれ野郎!清らかなる憑喪神様を汚したなッ!」

 

這いずるようにして裕翔に近付こうとするが、もうキャサリンの体は真っ二つに裂けている。もう数秒で消失は心臓まで届き、彼女の息の根は止まる。

 

「永遠に呪われてしまえ、貴様は悪魔よりも罪深い!あらゆる責め苦を受け、苦しみ続けろ……!」

 

もう彼女の体は前に進まなかった。伸ばした手は地面へと落ち、目は虚ろだった。

 

「あ、あ……神父、さ……ま……」

 

それだけを言い残してキャサリンは事切れた。すぐに肉体も服も塵と化し、彼女の存在を示すものは消え去ってしまった。

 

裕翔も希も何も言わず、ただ黙祷を捧げた。




万華鏡の憑物

能力ーー覗き穴からどんな体積、質量の物体であろうと出し入れすることができ、万華鏡自体の質量は一切増減しない。
性質ーー祈2呪8
代償ーー視力を徐々に失っていく。キャサリンは万華鏡を所持して数ヶ月しか経っていないが、既にほとんど色盲の状態だった。
成り立ちーー江戸時代に商人の娘が母親からの形見として受け取ったが、その後経営が傾き父親が娘と心中する。万華鏡は借金を返すために売られるが、買い取った家々で不幸な死が相次ぎ、万華鏡の呪いだと人々の間で噂されるようになり、多くの人間に呪われて憑物となる。
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