俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

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この俺、黒崎裕翔の半分は人間だが、半分は人間ではない。

父親である黒崎匠は人間だが、母親である黒崎鶴は憑喪神なのだ。希を使おうとすると体の半分が黒く染まってしまうのも恐らくはそのため。

もうひとつ、俺が獲得している不思議な能力がある。それは憑物や憑喪神の気持ちが色となって見えるというものだ。

 

「っ……!」

 

その能力を駆使して敵を注視するが、色が見えない。敵は人間のようだ。

この少女は間違いなく教会の刺客だろうが、注意すべきは委員長をボールか何かのように吹き飛ばしたあの馬鹿力。キャサリンもそうだが、10mの鉄塊を振り回した馬鹿力は人間には出せない。その謎は未だ解けてはいないのだ。

 

少女がこちらに掌を向ける。もう一つ、注意すべきは委員長を磔にした刃物の攻撃。

 

「はっ!」

 

飛んできた何かを弾き飛ばす。床に突き刺さったのは裁ち鋏だった。これが刺さっても死にはしないだろうが、骨まで届く威力であることは間違いない。

 

「こいつ……まさか……」

 

少女の掌から血が垂れている。

裁ち鋏は掌から発射された。つまり、体内に鋏を仕込んでいたということだ。

今度は両手の指をこちらに向けてくる。

 

「まさかっ」

 

弾丸のように飛んできたそれはマチ針だった。

 

「うぐああっ!」

 

避ければ後ろの委員長にあたってしまう。撃ち落としきれないと判断して両手を組んで受け止める。腕に深々と針が突き刺さるが、この程度の傷では怯めない。

 

(希の射程距離まで近付くんだ……!5mの距離まで!)

 

既に追い風は吹いているが、この風は敵にとっては射出される武器の速度を早めてくれる追い風でもある。

ハサミや包丁などの致命傷になりうる攻撃は防ぎ、それ以外は受け止めてやる。やるかやられるか、肉を切らせて骨を断つ戦法でいく。

 

彼我の距離はおおよそ15m。3歩で射程に入る。

姿勢を低くしながらひとつ踏み込み、飛んできたナイフを跳ね返す。

飛び上がりながらふたつ踏み込み、狙いを逸らす。

最後にみっつ踏み込み、右腕に突き刺さる針の痛みに耐え、射程内に入る。

 

「ここだッ!」

 

鋭く真っ直ぐな突き。少女の額に希が突き刺さる。柔らかい皮膚とその奥の骨の感覚を希越しに感じる。

 

……ありえない。『皮膚』と『骨』を感じている?この世に切れないものはない希をもってして?

 

少女の仮面が消失して消えていく。その奥にある顔に思わず裕翔はたじろいだ。

1つ足りない瞳と、削ぎ落とされた鼻。開いた口には歯の代わりに針が埋め込まれ、顔全体に痛々しい縫合の跡がある。

 

「んなっ……!」

 

その隙にがしりと希を掴まれた。凄まじい怪力で持っていかれそうになるが、それよりも解決すべき問題はやはり消失が始まっていない少女の手のことだ。

身につけている手袋は消えても皮膚を消すことができない。こんなことは初めてだった。

 

(バリアを張る憑物か⁉︎いや、仮にそうだとしても、希ならバリアごと消し去ることができる!)

 

思考を巡らせている間に少女は次の手を打っている。

希を掴んでいない左腕の袖が生き物でも仕込んでいるかの如く蠢き始めた。やがて布を突き破って出てきたのは無数の刃物。まるで釘バットのような形相をしているが、刃が外に向いている分殺傷性は高い。

 

(ヤバいっ!)

 

敵に希の能力が通じない謎を解くより、先に手を開かせる方法を考えるべきだった。希を手放すことはできないが、このままでは諸に怪力のラリアットを食らう。そうすれば俺の顔面はざくろのように弾け飛んでしまうだろう。

 

「伏せろ、黒崎裕翔!」

「言われなくても!……なにっ?」

 

頭を下げて腕をかわす。

その俺を頭上から飛び越えてきたのは重傷を負ったはずの委員長だった。

 

……スカートの中見えた。

 

(黒か……)

 

直後響いた轟音。象が全力で体当たりすればあのような音が響くのかもしれない。

首元に叩き込む飛び蹴り、レッグラリアート。凄まじい威力に少女は蹴飛ばされるばかりか床を何度かバウンドしてしまっている。

 

「い、委員長……」

 

何故、と聞く間もなく委員長は追撃にかかる。

ゆっくりと立ち上がる少女の首元に再び蹴りを打ち込み、そのまま片足で少女の首を吊るようにして持ち上げた。

 

「追い詰められたネズミはネコを噛む……というが……」

 

ここに来てようやく委員長が珍妙な格好をしていることに気付く。お尻に見える白い毛のボールに頭頂部から生える長い耳。極め付けは足が別の生き物のような形状をしている。人間というよりも、耳や尻の毛玉から察するにアレはウサギだ。

 

戦いの最中ではあったが、俺は後方からの足音を『伏せろ』と命じられた時の1度しか聞いていない。

ならば委員長はただの1度のジャンプで15mの距離を易々と詰め、その上少女を蹴飛ばすほどの勢いを持っていたということ。つまり単純計算でも委員長のウサギの足は人間の3倍以上の脚力を誇るはず。

 

「覚えておけ。追い詰められたウサギはオオカミをも蹴殺す!」

 

人間の3倍以上はある脚力で何度も蹴られればどうなるか。それを少女は今から身をもって教えてくれる。

 

「ダァァァァァァァァァッ‼︎‼︎」

 

少女を地にはつけず、連続で右足での蹴りを叩き込む。頭のてっぺんから爪先まで委員長のウサギの足が触れていない箇所はない。

全身の骨が砕けてしまってもおかしくない威力の乱打だが、やはり特殊な術を使っているのか少女の体は原型を留めている。

 

「委員長!ヤツの体は謎だ!皮膚や骨を傷つけることはできない!」

「ならば、内側を傷つけるのみだ!このまま!」

 

委員長のラッシュは休む間もなく続けられる。

敵は筋肉の収縮で刃物を打ち出していた。ならば皮膚の内側、内臓や筋肉はダメージを受けるはず。

ウサギの聴力はどんな小さな音であっても感知する。骨は軋むばかりで折れる音は一向に聞こえないが、肉が破裂する音は何度も聞いている。表面にはアザが増え始め、その剛力も衰え始めていた。

 

そして何発目かもしれない蹴りが少女の腹を貫く。

 

「……やった?」

「……やった、が。この手応えは……異常だぞ」

 

少女の体が徐々に液体になってとろけていく。委員長の蹴りも少女が液体になったから腹を貫いたに過ぎない。

そしてスライムのようにドロドロになって地面に落ちた後、服と体内に埋め込まれた刃物を残して蒸発するかのように消えてしまった。

 

「死んだ、その手応えはあった。コレが人間であれば、だが」

 

息をひとつ吐いてようやく足を下ろす。

委員長は全身の骨が折れ、切り傷も無数にあったはず。しかし今はその傷は跡形もなく消えていて、傷ついているのは制服のみだ。

 

「……怖いか?なんか、これ……化け物みたいだろう?」

「いや、化け物というか、その……そういうコスプレにしか……」

 

つい心の中で思ったことを正直に言ってしまった。こういうセクハラは委員長の嫌いな類の冗談であり、拳骨が飛んできてもおかしくない。

恐る恐る顔色を疑ったが、委員長は呆けた顔をしている。怒りに我を忘れているのだろうかと思ったが、急に吹き出して笑い始めた。

 

「はははは、いやすまない。相当肝が座っているな、黒崎裕翔。正直逃げ出されてもしょうがないと思っていたんだがな、この姿は」

「いや、それを言ったら俺もおかしいだろ。体の半分が真っ黒だ」

「確かに、それもそうだな。私がコスプレなら、お前はインドネシアだな。色を2つしかないという意味でな」

 

インドネシアの国旗は赤と白で上下に分けられている。委員長らしい若干教養が必要な冗談だが、さすがに国旗呼ばわりはカッコよくない。

表情で不満を表明すると委員長は少し考えてから人差し指をピンと立てた。

 

「ならば、半月だな。他には思い付かん。お前も私のこの状態のネーミングを考えておいてくれ」

「んな無茶な……」

 

コスプレでなけれはバニーガールぐらいしか出てこない。俺がうんうんと唸っていると、委員長は耳をピンと立てて周りを見渡していた。

 

「ところで、草薙希はどこだ?遠くに逃げたのか?」

「え?あ、いや……希はここにいるぞ」

 

怪訝な顔でこちらを見る委員長の目の前で希は刀から人へと形を変えた。委員長は驚愕のあまりビクンと耳を跳ねさせた。

 

「お、おお……凄いなこれは……私のカチューシャも大概だが、こんなことがこの世にあるとは……」

「希は憑喪神なんだ。憑喪神を見るのが初めてなら無理はないと思うけど」

「付喪神?それはあの……長く使った物に現れるというアレか?」

「え?いや、そういう意味じゃ……」

 

何か会話が噛み合わない。

もしかして、委員長は憑物や憑喪神の存在を知らなかったのか?憑物を使用しておいて?

 

「あ、あの〜佳奈ちゃん……」

 

いくつか質問を投げかけようかと口を開くが、希が小さく手をあげて前に出たことで会話が中断された。俺と委員長は怪訝な目で希を見る。

 

「服、着替えよう……?」

 

……そういえば、委員長の服は穴だらけだった。

意識してしまうと穴から肌やそれ以外の色が覗いているのがわかり、一拍遅れて委員長の顔が茹で蛸のように真っ赤になる。

 

「見ちゃダメっ!」

「いったッ⁉︎」

 

希から飛んできたのはビンタではなく、まさかの鉄拳であった。





佐川キャサリン

年齢ー25
性別ー女
来歴ーハーフではあるが、生まれも育ちも生粋の日本人。学生時代はレスリングで成績を残し、卒業後は自衛隊に入隊。男顔負けの身体能力で将来を期待されていたが、とある時期を境に失踪。その後は想いの光教会の刺客として暗躍することとなる。

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