俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

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「ごちそうさまでした」

 

手を合わせて礼をすると草薙希が皿を持っていってくれる。非常に手慣れた様子であり、2人がこの屋敷で過ごしていた時の長さを感じられる。

 

結局あれから話も長くなるだろうということで、私は黒崎裕翔と草薙希の家にお邪魔していた。2人の距離の近さはよく知っていたが、同棲していると聞けばそれも納得である。

通常であれば未成年の男女が2人で暮らすなど言語道断、すぐにでも考えを改めてやりたいところだったが、2人の事情を聞いてしまうと簡単に非難はできない。

 

この世には憑物や憑喪神という存在があり、黒崎裕翔と草薙希は所持する者と所持される者として強い信頼で結ばれている。その関係は2人が出会った10年前から続いており、中学生までは実家で過ごしていたらしい。

 

なので草薙希の言う通り、カップルというよりかはパートナーの方が2人の関係を示す言葉としては的確かもしれない。

 

(……とはいえ)

 

2人の関係を理解はしたものの、染み付いた常識は即座に変えられるものではないし、どうしても年頃の男女の間に入るというのは落ち着かない。

 

私は特に洗濯するものはなかったが、当然のように草薙希と黒崎裕翔は同じ洗濯機を使って同じタイミングで洗濯を行っていた。

私は途中で購入した物を使ったが、風呂場に入れば体を洗うタオルは1枚しかなかった。

洗濯物は2人の分を黒崎裕翔が干していたし、2人の分を草薙希が畳んでいた。そのまま当然のように部屋に入ってタンスに服を仕舞い込んでいるのも見た。

そして2人は同時にキッチンに立って阿吽の呼吸で晩ご飯を作り、食べ、今に至る。

 

はっきり言って、落ち着かない。見てはいけないものを見てしまったような気分になる。

 

洗い物を終えた草薙希が帰ってきて、脇に畳んでおいた私の制服を手にする。ところどころ穴が空いてしまったそれは新しいものが届くまで時間がかかる。よって2人は家事の合間合間に制服の穴を塞ぐ作業をしてくれていた。

 

「じゃあ委員長、その憑物のこと教えてくれないか?」

「あ、う、うむ。了解した」

 

机の上に置いたのは真っ黒なカチューシャ。一見なんの変哲もなく、飾り気もない安物のカチューシャに見える。

 

「それが?」

「ああ。私がこれをつけることで……動物の力を貸してもらえる」

 

私がカチューシャを身につけ念じれば、カチューシャからウサギの耳がひょこんと生えてくる。外せばすぐに耳は消えてしまった。

 

「それはどこで手に入れたんだ?」

「妹の置き土産だ。少々事情があって今妹とは連絡が取れないが、去る前に渡された」

 

目で『妹のことには踏み込まないでほしい』と訴えると2人はその意思を汲んでそれ以上踏み込まないでくれる。

そして次なる質問を投げかけてきた。

 

「なら……それを所持したり使用したりする時に何かのデメリットはなかったか?」

「……?いや、特にはないが……何故だ?」

「あのね、憑物や憑喪神を所持したり使用する時にはほとんどの場合大きな代償を払わなくちゃいけないんだ」

 

この世にある思念は大きく2つに分けることができる。即ち、祈りと呪い。

祈りや呪いは特別な力を物にもたらすが、その力の向かう方向に区別はない。作用反作用の法則のように力を使えば使うほど反動も大きい。

例外として、蓄積された祈りと呪いがほぼ同じ量である場合にはお互いが打ち消し合うことで力と引き換えに反動も失われるが、そんな憑物や憑喪神はほとんど自然発生しない。

 

「そういうことならば……代償と呼べるかは怪しいが、強力な動物に変身はできない……とか……」

「強力な動物って……象とか、ライオンとか?」

「うむ。制御しきれなくなって全身どころか頭の中まで動物に成り果ててしまう。実を言えばウサギ程度の動物ですら、完璧に制御はできていないのだ」

 

そういえば、と黒崎裕翔が先程の光景を思い出す。ウサギから借りるのはあくまで脚力と聴力だけで良かったはずなのに、尻尾まで生えてきていた。

 

「……どう思う、希?」

「どうって言われても……うーん……『らしく』ないよね」

 

カチューシャをしげしげと眺めている。軽く手に取って感触を確かめるように撫でていた。

 

「条件付きの代償だなんて聞いたことない。多分これ、誰かが祈りと呪いのバランスを取るようにして作ったものだと思う」

「そういうものなのか……?いまいち実感はないが……」

「それに、憑物にしては新しすぎるよ、このカチューシャ。どう見たって10年使われたか怪しいくらい」

 

2人の弁ではどんなに早くても憑物ができるまでには100年前後の時間が必要らしい。しかしこのカチューシャに経年劣化の形跡はなく、100年の重みを感じることはない。

 

「妹さん……探した方がいいかもね」

「今度父さんに話を通しておこう。委員長もそれでいいか?」

 

妹を探す手助けをしてくれるのはありがたい。しかし私はすぐには頷くことはできなかった。

もし妹が憑物を利用した何かの悪事に加担しているとすれば、彼女は罰を受けなければならない。しかしそれを他人に任せるのは私の中に残された姉妹の絆が拒んだ。

 

「……構わない、が……妹の処遇に関しての判断は私に任せてもらいたい」

「……わかった。そういうふうに話は通しておく」

「すまない……」

 

2人は問題ないというふうに微笑んでくれる。

話はこれから教会についての話に移り、様々な情報交換を繰り返していると日付を超えようかという時間にまでなっていた。

翌日も学校はある。疲れも癒さなければならず、私は草薙希の寝室まで案内された。

 

「すまないな……借りをひとつ作った」

「ううん、いいんだよ。私にだって話したくなかったり譲れなかったりするところあるし」

 

そう言った希の表情にはほんの少しのかげりが見えた。

 

「……草薙希」

「なに?」

 

お前が黒崎裕翔にもたらしている代償とはなんなんだ?

その言葉が喉まで出かかって、それから飲み込んだ。

 

「……いや、なんでもない。早く寝よう」

 

それを聞くことは2人の禁忌に踏み込んでいるような気がして、問い質すことはできなかった。

 

 

 

 

 

想いの光教会の本部は都会にあり、そちらでは主に表向きの業務が行われている。

しかし裏側の本部は定期的に場所を変えており、その居場所を特定するのは難しい。今回の本部は裕翔たちの家から1時間程度、森の外れにある寂れた建物だった。

 

元々は森を管理、整理する業者のための前線基地として建てられたものであったが、既に中身は教会に乗っ取られている。

 

「どうだった?キャサリンを葬った者たちの力は」

「思わぬ伏兵に邪魔をされて……次は必ず」

 

集会を行うために設けられたホールは改装が施され、窓ガラスは全てステンドグラスへと変えられた。

正面に掲げられた巨大な十字架の周りには無数の十字架がまるで剣山のように床に突き刺さっている。

そして巨大な十字架の真下、剣山の中心に座る人物こそが想いの光教会の神父であった。

 

「君には2つの憑物を預けた。三面鏡の憑物と、懐中時計の憑物だ。その力ならば、妖刀草薙の能力からも身を守れるはずだったな?」

「はい。ですが、あの新手の憑物使いの攻撃は懐中時計の天敵とも呼べるものです」

「ほう……どのように?」

 

神父の話を聞いていたのは皇佳奈にやられてドロドロになって消えたはずの少女であった。

少女の整った顔や小さな体からは美しさよりも幼さが目立つ。裕翔たちを襲った少女と違い、全身に傷跡もなかった。

 

「私の懐中時計の憑物は物体の状態変化の速度を操ることができますから、草薙の斬撃は皮膚で止められます。しかし、その内側まで響く攻撃は防ぎようがありません」

「なるほど。筋肉や血まで速度を遅らせてしまえば、動けなくなってしまうからね」

「はい。おそらく私の分身は全身の内出血と臓器の破裂によって耐えきれないダメージを負って……」

 

神父はしばらく少女の説明に頷いた後、温かい微笑みのまま顎を撫でる。

 

「では、他の者を探した方が良いようだね。君に預けた憑物ではその新手に太刀打ちできない」

「いいえ、策はございます」

「ふむ?では……信じても良いのかな?」

「私は神父様の信頼を裏切ることは決して……」

 

少女はどんな見方をしても中学生にすら見えないような幼い容姿をしているが、使命に燃える顔は年齢に見合わず大人びて見える。

その顔を神父はしばらく値踏みでもするかのように見つめた後、おもむろに地面に突き刺さった十字架のひとつを手に取った。

 

「キャサリンは……強い女だった」

「はい」

「彼女には戦いの才能があり、元軍人の格闘家に圧勝したこともある。この教会に戦士は多くいるが、真正面から戦ってキャサリンに勝てる者はいないと私は思っている」

「その通りでございます」

「では何故……キャサリンは負けたと思うね?」

 

少女は少し考えた後答える。

 

「信仰心が足りなかったかと」

「……君は敬虔な信徒だが、今私が求めているのは別の答えだ。……彼女には思慮が足りなかった、と私は考えている」

「はい」

「くれぐれも驕ってはならないよ、飛鳥。思慮深い行動を心がけなさい。以上だ」

 

少女は立ち上がって教会を後にする。

すると、扉が閉まると同時に神父の後ろから修道女がするりと現れる。女は全身を黒い布で包んでいるにもかかわらず、修道女とは思えないほどの色気をその所作や僅かに見える皮膚から発していた。

女は肘おきに腰を下ろして蛇のように神父に絡みつく。女の唇が神父の耳に触れると同時に神父も女の腰に手を回す。

 

「どう思う?あの子……うまくできるかしら?」

「できると信じたいがね。何人かの目付けを送りたいところだ」

「そのことだけれど……キャサリンに加えて2人の憑物所持者が行方不明になったわ」

「黒崎家の刺客か……あまり落ち着いてはいられないな」

 

これだから他人は信用に値しない。

それが本能的にわかっているからこそ人は神を生み出し、信仰を捧げたのだろうが、生憎私たちは信仰を捧げられる側の存在だ。

だから自分の信仰は神にも他人にも捧げず、ただ共に生まれた憑喪神へと注ぐ。

 

「私が行こう。特に、三面鏡の憑物を失うわけにはいかない」

「ええ、任せるわ。私は杯の憑物所持者に話を通しておくから」

 

神父は手に持った十字架を握り潰す。

 

神父の名はナージャ。油絵具の憑喪神であり、ロザリオの憑物所持者。

修道女の名はマリア。ロザリオの憑喪神であり、油絵具の憑物所持者。




カチューシャの憑物

能力ーー動物の力を各部位を変化させる形で使うことができる。今のところ同時に変身できる動物は1種類のみらしい。装着するだけでも身体能力、特に回復力は異常なほどに向上し、皇佳奈は全身の複雑骨折と切り傷を数秒で完治させてみせた。
性質ーー祈5呪5
代償ーー強力な動物に変身しようとすると野生の本能が理性を上回り、身も心も怪物に成り果ててしまう。
成り立ちーー皇真奈が関わっているらしいが不明。
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