俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

6 / 9
6

謎の少女の襲撃から数週間が過ぎた。奇妙なほどに新たな戦いの気配は無く、何の異常もなしに私たちは文化祭の日を迎えた。

 

学校は田舎に位置するとはいえ、この地域の高校はそう多く無く、消去法で袴田学園を受験する生徒も少なくはない。

中学生にとっては受験校としての見極めに、それ以下の子供にとっては田舎では珍しい遊び場として、袴田学園の文化祭はそれなりの盛況だった。

 

そんな文化祭の最中、クラス委員長である私にはそれなりの量の仕事が課されていた。主な仕事は見回りと、クラスと文化祭実行委員との橋渡し。

 

単なる見回りと言えども、階層の往復はそれなりに疲労が溜まる。気付けばシフト開始から1時間が経過していたため中庭のベンチに腰掛けて小休憩をとることにした。

 

黒崎裕翔からの話によれば教会の戦力は大きく削ることができているものの、未だ本拠地は見つけ出せず交渉にも応じる気配はないという。

もう少しの辛抱とはわかっているものの、このまま終わってくれるほど甘い事件だとは思ってはいなかった。

必ずまた攻撃を仕掛けてくる。不思議とそういう確信があった。

 

とはいえこちらからできることは何もない。自販機で買った炭酸水を飲み干してゴミ箱に捨てて立ち上がる。

 

その時、背後に気配を感じた。

振り向くと自分が今まで座っていたベンチに少女が腰掛けている。間違いなく、数週間前に襲撃を仕掛けてきた女だ。

 

「貴ッ、様……!」

 

すぐに身構える。体が急激に緊張し、少女の一挙一動を集中して捉える。

 

しかし少女に殺気はなく、武器の代わりにゆっくりと懐から携帯を取り出した。まもなく携帯から着信音が鳴り出す。

 

「………」

 

電話に出ろ、ということなら対話する必要は一切ない。それよりも早く2人に危機を知らせ応援を頼むべきだが、動きが察知されれば目の前の少女がどんな行動に出るかわからない。

 

今は文化祭の真っ只中だ。学校中の生徒やその他の人々を私たちは守り抜かなければならないが、敵もそれを理解して動くはずだ。

 

私の答えは沈黙だった。

少なくとも今は打開策を見出せない。今の中庭でさえある程度の人通りはあるし、おおっぴらに憑物を使うことはできない。下手な行動をすれば人々がどんな目に合うかも想像はできていた。

 

数秒の硬直の後、私が反応しないと見越したのか少女が携帯を操作して通話を開始する。

 

『はじめまして。数日前はごめんなさいね、目障りだったから、つい』

「……いや、許すよ。子供のやることだ。とはいえ躾がなってないな、親の顔が見たい」

 

携帯から聞こえてきたのは変声機を使っているのか、不自然な不協和音。私は専門家ではないから、口調から敵の姿を推測することはできない。こういう時は会話をすることで情報を多く聞き出す……と、刑事ドラマで言っていた。

 

「それにしても、ウチの文化祭に来るとはな。お子様にはまだ早いんじゃないか?迷子なら職員室で預かっているぞ」

『……どうしたの、早口よ?そんなに怯えなくても良いのだけど』

 

気取られないように短く息を吸い、数瞬だけ思考に全リソースを注ぐ。

慣れない挑発をしてみるものの、あまり効いている様子はない。相手の方が優位なのだから当然といえば当然だが。

 

「君こそ、恐怖で声が震えていないか?前回はあれだけコテンパンにされたからな、怖がるのも無理はないが」

『……ふふっ、貴方と話すのはとても楽しいのだけれど、このままではすぐ夜になってしまうわ』

 

少女がこちらに歩み寄ってくる。

前回とは違って体中に傷口や縫い目はなく、刃物を射出してくることはなさそうだ。服も年齢相応の可愛らしいものになっていて、足や腕も露出している。改めて見れば少女ながら整った顔立ちをしているが、その顔には感情が見えない。

 

『本題に入りましょう?よろしいでしょう?』

 

元より話をしている時点で真っ向から戦う気はないのは分かっていた。自分が果たして化かし合いで勝つことができるか……その不安を飲み込み、あくまで平然と返事をする。

 

「場所を変える。ついてこい」

 

相手の返事を待たずに歩き出す。できるだけ時間をかけてできるだけ人気のないところへ誘導しなければならない。

 

行き着いた先は校舎から離れた体育館の裏だった。この時間は体育館での出し物は行われておらず、その裏ともあれば周りを巻き込む心配もない。

しかし、それは2人が危機に気付き救援に来てくれるまで時間がかかるということでもある。

 

「……要求はなんだ?とはいえ、悪党のことだ、おおよその察しはつく」

『小賢しいのね。とはいえ間違ってはいません。草薙をこちらに引き渡してもらいたいわ』

「……まどろっこしい話は苦手だ。その要求を通せるだけの手札があるんだろ?」

 

彼我の距離は約10m。この距離ならば一瞬で詰め切ることができる。しかしそれも相手は織り込み済みのはずだ。

 

いつでも変身して攻撃に出られるよう身構えていると、少女は携帯を地面に置き服を脱ぎ始めた。

今までは服に隠れて見えなかったが、腹部には縦に大きく走る無残な縫い目がある。

 

『お腹の中には爆弾が入っています』

 

その言葉を聞いた瞬間、思考がフリーズする。そしてフリーズから脳が立ち直るのと同時に全身から冷や汗が溢れた。

 

「なんっ、だと……!」

『既に校舎にも小規模ながらいくつか仕掛けさせてもらいました。全滅とはいかずともそれなりの被害は出るはずです』

 

脳がうまく機能してくれない。どうする、どうすればいい、どうなっている?グルグルと思考がオーバーヒートするほど巡り、そのくせ生み出すものは何もない。

 

『スイッチはここ。一押しすれば、全ての爆弾が一斉に起動します』

 

少女はポケットからノック式のスイッチを取り出した。

あのスイッチを奪えば当面の危機は防げるだろうか。いや、本体は何処かで予備のスイッチを持っているに違いない。そもそも爆弾の存在が本当なのかもわからない。

 

『今すぐに草薙を持ってきなさい。貴方の憑物ならば、容易いことでしょう?』

「………わかった。呼び出す。だからそのスイッチは捨てろ……」

『貴方が草薙を持ち出せば、捨てて差し上げます』

「お前が先だ。生徒たちの安全が保証されなければ私も要求を飲むことはできない」

 

現時点での最悪は草薙希が連れ去られ、さらに生徒たちに被害が及んでしまうことだ。ひとまずは生徒たちの安全を確保し、それから草薙希を全力で守る。

 

駆け引きは苦手だが、譲れないものはある。毅然とした態度で少女を見据えるが、携帯から聞こえたのは微かに怒気を孕んだ溜息だった。

 

『貴方……少し勘違いをしているのかもしれないわ。どちらの立場が上か、言葉にしなければ伝わりませんか?』

「なに……?」

『私は別に、今すぐにスイッチを押しても構いませんのよ』

 

少女の指がスイッチにかけられた。

 

「貴様ッ」

『動くなッ!』

 

思わず踏み出してしまった足がそこで止まる。

 

『人質は掃いて捨てるほどいますでしょう?ここで数人死のうが、困ることはありません。また日を改めてお伺いするだけのこと……』

「やめろ!無関係な人を巻き込むなど、お前たちにとっても望ましいことではないはずだ!」

『貴方が草薙を渡せば良いだけのことです。渡さなければ私は赤子であろうと躊躇いなく首を切るでしょう』

「こ、の……ッ!お前たちは……!」

 

予想以上に……いや、予想以下の下劣さを敵は持っていた。こんな奴の要求を飲めば最後、全てを奪い尽くすまで暴虐は止まらないだろう。

 

『渡せませんの?』

「元より外道と取引をするつもりはない!お前たちがどんな手を使おうと、私が打ち砕いてやる……!」

『なら、離れた方がよろしくてよ?火傷してしまいます』

 

スイッチを押す前にケリをつける。

襲撃の日からずっと着用しているカチューシャに念を込めて兎の脚力を借りる。溢れる脚力にものを言わせて自らの体を弾丸の如く打ち出し、足を振りかぶる。

その瞬間のことだった。

 

 

「『止まりなさい』」

 

 

時が止まった、と感じた。

 

少女も、私も、体の一切が動きを止めていた。

 

「………⁉︎な、んだ……⁉︎」

 

時が止まったと感じたのは、飛び跳ねた私の体が宙に浮いたままだからだ。少女もスイッチを押す指一本でさえ動かすことができないでいるようだ。

 

すると、後ろからの足音が聞こえた。その足音は段々と自分に近づいてくるが、身動きひとつ取ることはできない。

 

「何者、だ……!」

「……皇佳奈さん、ですね」

 

女の声だった。その手が頬に触れる。

 

「『動いて構いませんよ』、佳奈さん」

「っ」

 

そう言われると自分の体が落下し、尻餅をつく。手を握り開き、自分の体の所有権が自分にあることを確かめる。

 

『……何者ですか、貴方は』

「貴方のような人には語りたくないほど、私は自分の名前に誇りを持っています。ですが……」

 

見上げた女は美しい桜の柄の着物を羽織っていて、その髪は貴金属と同等の価値はありそうな銀色で腰まで伸びている。

女がチラリとこちらを見たことで、目が合う。

美女。その他の言葉が見当たらない。この美しさを伝えようと稚拙な表現を付け足してしまえば、逆に価値を貶めてしまうのではないか。そう感じた。

 

「敢えて名乗ります。私の名は鳳凰院桜……私がいる限り、裕翔くんや希ちゃんには指一本でさえも触れられないと思ってもらいます」

『……そうですか。ですけど、まさかスイッチがひとつだけだとお思いで?』

「もちろん、思っておりません。ですから、もう手は打ってあります」

 

 

 

「なに……?」

 

携帯から聞こえた女の声に疑問符を浮かべた少女の本体。少女がその意味を反芻する前に、スイッチを握っていた左手に風穴が空いた。

 

「グッ、あッ!」

 

痛みと衝撃で登っていた木から転げ落ちる。受け身も取れずに這いつくばった少女の目の前にいたのは、白シャツにネクタイを緩めた銀髪の男性だった。

 

『ご紹介しますね。私の最高の相棒、波戸晴太郎さんです』

「よう、お嬢ちゃん。お仕置きの時間だぜ」

 

少女の頭に拳銃が突きつけられた。




三面鏡の憑物

能力ーー自分の分身を作り出すことができる。分身は本体から命令を受けなければ動くことはなく、その性質上精密な動作をするためには分身の近くに本体がいなければならない。
性質ーー祈6呪4
代償ーー能力発動の際に自分の体の部位を捧げなければならない。しかし捧げた部位の量や価値に応じて生み出される分身の数は変わる。
成り立ちーーとある貴族が何代にもわたって大切に使い続けたもの(そのため比較的祈の性質が強い)であるが、何代にも渡って良縁に恵まれなかった娘たちが自分を美しく映さない鏡を逆恨みし続け、憑物となった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。