俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

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晴太郎と桜の手によってひとまずの危機は去り、文化祭もほとんどの人にとってはいつも通りの文化祭として過ぎ去っていた。

 

そのことに安心を覚える一方、私にとってはいつも通りの文化祭として終われなかったことも事実。

ユウくんは家を継ぐつもりらしいから受験は行わないだろうし、私もユウくんについていくならやっぱり受験は行わない。

しかし佳奈ちゃん含め、周りの3年生は受験をする人間も少なくない。となれば、3年生の文化祭は以前よりピリピリしているだろうし、割ける時間も少なくなってしまっているだろう。

そういう意味で、私の高校生として万全に迎えられる文化祭は最後だったのに、台無しだ。

 

それにタイミングを逃してしまった。

私とユウくんは以心伝心、言葉にしなくても強い絆で結ばれていることはわかっているけれど、それはそれとして大事なことは言葉で伝えなくちゃいけないっていう佳奈ちゃんのアドバイスも正しい。

 

鎌倉緑との戦いが終わるまでは、と思って我慢していたけれど、戦いが終わってみれば……。

 

「よお裕翔くん、久しぶり!」

「晴太郎さん!お久しぶりです!」

 

ユウくんは犬みたいに晴太郎さんに懐いている。ぴこぴこと揺れる尻尾が見えるようだ。

別に、私とユウくんにはかたい、かたーーーい絆があるから羨ましいとか、そういうことはない。ほんとに。

 

晴太郎さんはユウくんが生まれるより前に黒崎家にいた憑喪神で、特にユウくんとは親しい間柄。私も最初見た時には歳の離れた兄かとも思ったこともある。

 

そんな兄貴分との去年のお盆以来の再会、気持ちが盛り上がるのもわかるけれど、このままの状態では私とユウくんが2人きりになれない。

しかも晴太郎さんと桜さんは教会絡みの一件が収まるまで我が家に滞在するということだから、なおさら2人きりの時間はない。

 

(こうやってタイミングを伺ってるうちに、ずるずる言えなくなるんだろうし、今までもそうしてきたんだろうな……)

 

少し口を尖らせてしまう。

 

「ごめんなさいね、教会の一件が収まるまでですから……」

 

自分としては内心のもやもやがバレないようにしていたかったのだが、割と顔に出ていたらしい。隣に座った桜さんが困った顔で微笑んでいる。

 

「じゃあ、せめて桜さんが晴太郎さんを引きつけておいてください」

「えっ?でも、ほら、希ちゃんの警護もしなくちゃだから……」

 

少し意地悪をすると桜さんは慌てたように手を忙しなく動かす。

 

「いいじゃないですか、私はユウくんと2人でいれるし、桜さんだって……」

 

私はユウくんに気持ちを言葉で伝えられずに10年程経ってしまったが、2人のもどかしい関係はもっと長いらしい。

戦場では以心伝心、阿吽の呼吸。抜群のコンビネーションで戦う2人だが、桜さんは未だに肝心なところは伝えられずにいる。2人の付き合いは10年どころではないし、踏ん切りをつけなければこうなってしまうといういい例だ。

 

未だに困ったように手を動かしている桜さんは根が純粋だから、私の意地悪にもまともに取り合おうとしてくれている。でも、こういう純粋さが裏目に出て、いつまでも関係が進歩しないのかもしれない。

 

「そういえば、桜さんもここまで来るのに2人きりだったんですよね。何かなかったんですか?」

「何かって……教会の戦力を削ごうと思って」

「そういうことじゃなくて、晴太郎さんと、です。何もなかったんですか?」

「そ、そんな……何もありませんよ。あっ、でも……」

「でも?」

「ご飯は一緒に食べたりしました……」

 

私はきっと、ものすごくがっかりした顔をしていると思う。間違いなく顔に出てる。

 

すると、来客を告げるチャイムが鳴る。佳奈ちゃんのために2人との顔合わせ兼、親交を深めるお泊まり会である。

 

「おぉ、さっきぶり。改めて自己紹介させてもらうと、俺は波戸晴太郎。よろしくな」

「あ、よ、よろしくお願いします。皇佳奈です」

「おう、佳奈ちゃんって呼んで平気かな?俺のことは気軽に晴太郎って呼んでくれよな。あ、それと電話番号とか教えてもらえると助かるんだけどさ」

「え、は、はい、えっと……」

 

晴太郎さんは人当たりが良く、俗に言ってしまえばコミュニケーションの力に長けている。ともすれば軽く見えてしまうかもしれないが、誰とでも仲良くできるという晴太郎さんの立派な魅力だ。

 

「こんにちは、改めまして鳳凰院桜です。よろしくお願いいたします」

「はい、あの、先程はありがとうございました。桜さんがいなければ、今頃どうなっていたか……」

「いえいえ、佳奈ちゃんのお力があってこそ、私たちは敵の本体を見極めることができました。お礼を言うのはこちらの方です」

 

対して桜さんはいついかなる時でも丁寧な所作や言葉遣いを忘れない。そしてそれは自分を取り繕っているのではなく、相手を尊重する気持ちから来ている。

 

憑喪神は強大な力を持ち、数百年の寿命を持つ。そのため人間を見下したり、人間に対して嫌悪感を持っている憑喪神も少なくない。しかし2人はベクトルこそ違えど人間を尊重し、他人を敬っている。

だからこそ2人は多くの人間に好かれているのだろう。かくいう私も、やっぱり2人のことは好きなのである。

 

 

 

 

居間で全員が揃うと、晴太郎さんは懐から鎌倉緑から奪った2つの憑物を取り出す。

 

「どうやらこの懐中時計が皮膚を強固にし、三面鏡が分身を生み出していたようだな」

「うおっ」

 

三面鏡を開くと腐乱死体のような女が飛び出してきた。ユウくんが思わず反射的に仰け反っている。

 

「私の力が借りたいの……?」

「や、別にいらないけど……」

「あらそう……残念」

「あ、や、そうだな……煎餅食べる?」

「…………」

「え、無視かよ。いや、これは……」

「なんか気付いたことがあったのか?」

 

ユウくんがジロジロと三面鏡をいろんな方向から見渡している。

年代物であるのにヒビどころか曇り1つない美しさは憑物のもつ力故なのだろうか。さりげなく施された彫刻も見事である。

最後に女に対してデコピンをしてから三面鏡を閉じて机の上に戻した。

 

「いや、意思疎通ができるかなと思ったんですけど。単純なシステムみたいなものらしくて、ダメでした。むしろ……」

 

ユウくんが今度は懐中時計を手に取った。

 

「こっちの方が大変です。うっすら色が見えるんで、憑喪神になりかけだと思います」

 

懐中時計はとても簡素な作りであったが、それだけに洗練された美しさがある。私には鈍く金色に光る様子しか見えていないが、きっとユウくんにはその奥の感情の色が見えているのだろう。

 

「ならばなおさら教会の人たちには渡すわけにはいきませんね。彼らは憑喪神を求めていますから」

(でも……何故私を狙ったんだろう?)

 

憑喪神の多くは望む望まないに関わらずなんらかの組織に属している。しかし、私の属している黒崎家はその中でも特に大きい組織。

強力な力を持つ憑喪神を狙うのはわかる。けれど私というリターンに対してリスクが大きすぎはしないか?少なくとも私なら、もっと小さな、それこそ想いの光教会のような規模の組織を狙う。

 

(黒崎家を狙う意味があったのか……それとも、私そのものを狙う理由が……)

 

私の思考が沈みかけたその時、閉じたはずの三面鏡が勝手に開いて中から女の上半身が出てくる。

 

「私の力が借りたいの?」

「いや、だからいらないって……」

「なら、貴方は私に何をくれるの?」

「………!」

「おい、これはどういうことだ……?」

 

全員が立ち上がって臨戦態勢を取る。

 

「晴太郎さん、これは」

「わからねえ!だが『取引』が始まってる!俺が仕留め損ねたのか……⁉︎」

「ありがとう……貴方の『全て』をくれるのね」

「っ、分身が出るぞ!」

「『離脱します』!」

 

全員の体が桜さんの力によって宙に浮き、居間から庭を越え、上空から家を見下ろした。

 

「ありがとう……ありがとう……貴方をたくさんあげるわね。いっぱいいっぱい、あげるわぁぁ……!」

 

鏡から分身が飛び出してくる。

けれど、分身の数が多すぎる。10、20、30、それ以上は数え切れない。あまりに多い分身は屋敷の壁や屋根を突き破り、道路にまで溢れ出る。

 

「なんっ、だ、これ……」

「俺が見た時、目を捧げても生み出す分身6人が限界だった。アイツ、何を捧げやがった……!」

「みなさん、アレを見てください!」

 

鎌倉緑の海の中心に不自然に穴が空いている。居間の机の上に立ち、三面鏡と懐中時計を手に取ったのは神父のような男だった。

 

「憑物が……っ!」

「渡しません、『止まりなさい』!」

 

桜さんの一声がかかるが、神父は動きを止める様子がない。それどころかこちらを見上げて余裕の笑みを浮かべていた。

 

「な、何故……⁉︎掴めない……!」

「なるほど……私にまとわりつく、この糸……いや、髪か」

(見抜かれたっ、桜さんの能力!)

 

鳳凰院桜は日本人形の憑喪神であり、どちらの形態でも自分の髪を自在に操れる力を持っている。

一本一本が鋼鉄のワイヤー並の強度を持ち、大人であってもなんなく持ち上げるほどの力を持っているはずだが、神父の動きを止めることができていない。

 

「お初にお目にかかる。自己紹介しておこう……私の名はナージャ。君たちが血眼になって探している、想いの光教会の首領だよ」

(あいつがっ)

 

私を狙い、ユウくんの命を狙い、平穏な日常を壊した張本人。あいつのせいでユウくんは負わなくてもいい傷を負い、みんなも危険な目にあっている。

 

「これらは私のものだ。返してもらうよ」

 

神父の体がどろりと溶けていく。体が液体でできているらしく、桜さんの髪では縛れない。私との相性も悪い。

 

 

でも、あいつを殺せば終わる。ユウくんはこれ以上傷つかずにーーーーー!

 

 

「希!」

「うん!」

 

アイツは逃がさない。殺さなくちゃいけない。私の中で殺意と憎しみが膨れ上がっていく。

 

(希……?)

 

心の中に響くユウくんの声でハッと我に帰る。

自分の中で膨らむ感情を自覚できても、制御することができない。ナージャと名乗った神父を殺すことが1番大事であるように思える。

けれど、私は冷静ではない。それもわかっていた。

 

(ユウくん、どうすればいい?私、今は)

(ナージャは親父に任せればいい。俺は今、あの憑物を渡すわけにはいかないと思ってる)

 

ユウくんは懐中時計の憑喪神と私を重ねていた。

最初、人間の悪意に晒されて憑喪神になった私は人間を恐れ、怯えていた。それはとても不幸なことで、悲しいことなんだ。

私は今無性にナージャを殺したい。けれど、懐中時計の憑物にこれ以上悪意を浴びてほしくもない。そういう複雑な感情もユウくんは見透かしてくれる。

 

(希、俺のわがままを聞いてくれるか?)

(……わかった。私も、それは大切なことだと思うから……)

 

作戦は決まった。

 

ユウくんは佳奈ちゃんと桜さんに作戦を話すと、桜さんは少し驚いた顔、佳奈ちゃんはとてもげんなりした顔をした。

 

「私は構いませんが……」

「ほ、ホントにやるのか?」

「俺は本気だ。早く、逃げられる!」

 

佳奈ちゃんとユウくんのために髪で足場が作られ、2人がそこに立つ。

佳奈は兎の姿に変身して足場を蹴って加速、そしてそのままドロップキックを放つ。

ーーーーーユウくんの両足に向けて。

 

「どうなっても知らないぞ!」

「覚悟の上だ!」

「おおおおっ!」

 

ユウくんが蹴りの勢いを活かして砲弾のように飛び出していく。

 

「無謀な……」

 

さすがに神父も面食らったようで動きが止まる。しかし、私たちの前に鎌倉緑の津波のようなバリケードが立ちはだかろうとする。

 

「っ、邪魔だっ!」

「三面鏡に魂を生贄に捧げて生まれた分身は最後の命令を完遂し続けようとする。即ち君たちを全員殺し、全ての憑物が私の手に渡るまで」

「一瞬でも、『止まりなさい』!っ、く……!」

 

さすがの桜さんもこうまで多い分身の動きを止めることはできない。周りでブチブチと髪が切れる音が聞こえる。

そしてバリケードを乗り越えて分身のうちの1人がユウくんに飛びかかる。

 

「うっ、ぐえっ!」

「そのまま、引き裂かれるといい」

「の、希……っ!」

 

分身に捕まって勢いが削がれ、ミシミシとユウくんの骨が軋み始めるよりも先に意思疎通は済んでいる。

その意思に従ってユウくんは私をナージャに向かってぶん投げた。

 

「頼むぞっ!」

(任せて、ユウくん……!)

 

勢いに乗ったまま人間の姿に変身。着地したのは神父の鼻先だった。

 

「おお……」

「返せッ!」

 

憑喪神は人間の状態でも自らの能力を別の形で扱うことができる。私は手刀に死の力を込めて思い切り振り抜く。

 

殺意は、感情はナージャの首を刈り取れと叫んでいる。けれど、私はユウくんのためにある。だからユウくんが望んだことを成す。

 

振り抜いた手刀はナージャの左手を切り落とす。

 

「うっ、あっ、きゃっ……!」

 

しかし佳奈ちゃんに蹴り飛ばされた勢いとユウくんに投げ飛ばされた勢いを殺すことはできない。地面をゴロゴロと転がり、自分を止めてくれたのは鎌倉緑のバリケードだった。

 

「ほう、一泡吹かされたな」

「っ、つ……!確かに、返してもらった、から……」

 

全身が痛む中、私の手にはしっかりとナージャから奪い取った懐中時計が握られていた。

 

「鏡の方も、返してもらう……!」

「いや、それはさせられないな」

「っ、あっ……!」

 

私の上に鎌倉緑の分身が覆い被さってくる。逃げ出すよりも先に私の視界が完全に暗闇に包まれてしまう。

 

(懐中時計は私と相性が良くないからな……今は鏡さえあれば事足りる)

 

「は、離してっ……!やめてっ!」

 

分身は私の命は奪わないつもりなのか攻撃は行ってこないが、私の手を開いて懐中時計を奪おうとしてくる。

 

(させない……!絶対守り切る、から!)

「希ちゃん、そこを動くなよ!」

 

晴太郎さんの声が響くのと同時に肉が貫かれる音がいくつも響く。分身の干渉も消え、光が刺す。

立ち上がると周りには私を守るように何本もの刀が突き刺さり、分身はダメージを受けすぎたのか消え去っていた。

 

「希!」

 

新たな分身が襲いかかってくるが、私と同じように晴太郎さんに助けられていたユウくんがこちらに手を伸ばしている。

ユウくんの手を取ると同時に私は刀へと変わって分身を切り裂いている。懐中時計はユウくんの手へと渡った。

 

(大丈夫か、希⁉︎)

(ちょっと痛むけど平気だよ。でも、私三面鏡の方は……)

(そんなこと、大丈夫だ。謝るのはむしろ……)

 

振り返るとナージャの姿はもうない。三面鏡は持ち去られてしまった。

 

「おい、黒崎裕翔。これはさすがに……まずくないか?」

 

着地した佳奈ちゃんがユウくんの背中合わせで身構える。

確かに懐中時計は奪還できたものの、引き換えに分身の海の中央部に降り立ってしまった。このままでは多勢に無勢、押し切られることは間違い無いだろう。

 

でも、ここには晴太郎さんと桜さんがいる。2人の能力は数の不利をものともしない。

 

「桜ちゃん、いくつあればいい?」

「20あれば、十分です」

「了解だ」

 

晴太郎さんが軽く腕を振ると袖口から無数の武器がこぼれ落ちる。その種類は多岐に渡り、刀はもちろん剣、槌、槍、棍など、体積を無視して武器が袖口から出てくる様はキャサリンが身につけていた万華鏡を思い出させる。

 

晴太郎さんは図鑑の憑喪神だ。晴太郎さんは予め自分自身に書き込まれたものであれば自在に体から取り出すことができる。

ただし万華鏡の憑喪神とは違って物体をしまうことはできないし、取り出すことのできる武器はこの世に存在しないものに限られる。

 

「では、お借りしますね。もうわかっているとは思いますが、私の髪は伸縮自在かつ変幻自在……見切ることはできませんよ」

 

晴太郎さんが取り出した武器が次々と宙に浮いていく。桜さんの本領は髪ではなく、髪を使った武器捌きにある。

私の知る限り、桜さん以上に多くの武器を使いこなせる人間はいない。桜さんは何を持たせても達人級の扱いができる。

 

「俺は桜ちゃんと違って手が2本しかないけどよ、やりようはあるぜ」

 

最後に晴太郎さんが取り出したのはとてつもなく巨大な銃だった。後から知ったが、アレはチェーンガンや機銃と呼ばれる、本来なら戦闘機に取り付けるような武器だそうだ。

それを軽く支えることができているのも、晴太郎さんの能力に依る。機銃がとても重くて持てないのなら、軽い機銃を書き込んでしまえばいいのだ。

 

「良かったな委員長。俺たちの出番はなさそうだ」

「……そのようだな。相手には同情するが」

 

2人の蹂躙が始まった。

晴太郎の銃弾は詰め寄る分身たちを紙吹雪のように吹き飛ばし、桜さんの武器はまるで舞い踊るかのように分身たちを切り刻む。

 

僅か数分後に分身たちは1人残らず消滅させられてしまっていた。

 

「ふう、こんなもんかな」

 

晴太郎さんが武器を投げ捨てる頃にちょうど日が沈みきり、生暖かい風が人間に戻った私の頬を撫でる。

 

「……やべえ、家が穴だらけになっちまった……これ大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ。前に穴だらけにされた時も1時間くらいで直ったんで、それまでの辛抱です」

 

ユウくんが晴太郎さんに笑いかけている。

また犬みたいに……と思い始めた時、ユウくんの手に握られていた懐中時計に気がつく。

 

「その子、大丈夫かな?壊れたりしてない?」

「ん、パッと見……なんともなさそうだけど」

 

ユウくんが私に懐中時計を手渡してくる。

一通り見てみたが、少なくとも夜闇の中で目立つ傷はない。今更ながら、守りきれたことにホッとする。

 

「良かった……もう大丈夫だからね」

 

私は憑喪神になる瞬間、ユウくんが私に抱いた感情と言葉を覚えている。それは私の中でとても大きな支えになっているし、もし懐中時計の子が憑喪神になるとしたらその引き金はやはり祈りであって欲しい。

 

そう思って軽く撫でてあげた途端、懐中時計が一瞬だけチカっと明滅した。

 

「っ……なに?」

 

みんなもその明滅を見たのか、私の方を見てくる。いや、私は何もしてないんだけど……。

 

不思議に思ってユウくんの顔を見ると、ユウくんが面白い表情をしていた。口を空けて目を開いて……まるでくしゃみの直前のようだ。

 

「希、俺、その光り方見たことあるぞ……」

「えっ?」

「その光り方は……」

 

ユウくんが何かを言おうとした矢先、また懐中時計の明滅が始まった。今度は1回に留まらず、何度も何度も光っては消えてを繰り返す。しかも段々と明滅のペースが早まってきている。

 

「な、なに⁉︎何が起こってるの⁉︎眩し……!」

「う、生まれるぞ!憑喪神だ!」

 

最後に目が眩むほどの光が時計から溢れ出し、たまらず目を閉じた私のお腹に重い衝撃が浴びせられ、耐えきれずに倒れてしまった。

 

「いっ、たぁ〜………何が……えっ」

 

私のお腹の上に跨っていたのは美しい銀髪が腰まで伸びた10歳程度に見える女の子。つぶらな瞳でこちらを見つめ、何が起こったのかわかっていないようなあどけない顔をしている。

 

「………へぷちっ」

 

ついでに裸だった。




日本人形の憑喪神ーー鳳凰院桜

能力ーー自分の髪を自在に操ることができる。髪には繊細な感覚があり、切断されたりすると痛みを感じる一方で音を振動で感じるレーダーのような役割も果たすことができる。憑物の形態では所持者の意思によって髪が操作される。
性質ーー祈8呪2
代償ーー肉体が腐っていく。最初は皮膚が弱くなる程度だが、数年も経つと少し動くだけで肉が骨から削げ落ちていくほど腐敗が進行する。
成り立ちーーとある人形職人が最初に作り上げた完成品。職人は記念にこの人形を側に置き続け、大成した職人から代々の頭目へと受け継がれていった。彼らは頭目が受ける代償を理解した上でこの人形を受け継ぎ、常に敬愛の対象とし続けたために祈りの性質に偏っている。
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