俺の相棒は美人で無敵の即死持ち妖刀憑喪神   作:歌舞伎役者

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俺たちの家から最も近いバス停はおおよそ10分程度歩いた先にある。バスは1時間に1本程度しか来ることはないため、少しでも乗り遅れれば1限には間に合わない。

他の生徒たちと比べて早起きをしなければいけないし、遠いと何かと不便だし……と文句ばかりが出てくるが、良いところがないわけでもない。

そのひとつとして、必ず席に座ることができるということがある。

 

こんな朝早くに田舎中の田舎でバスに乗る人間はほとんどいないか、いても1人か2人。長い道のりも座ることができれば苦ではないが、仮に席が埋まっていたとしても疲れ果てた俺たちは老人に譲ってもらってでも座りたい気持ちだ。

 

希と委員長と同時に席に座り、ふうと息を吐く。

命をかけた戦いの翌日であっても学校はある。今日は文化祭の後片付けのため半日程度で帰れるだろうが、それでもしんどいものはしんどい。

いつも背筋が真っ直ぐな委員長も今日ばかりは疲労が溜まっているのか目の間を指で押しているし、希に至ってはもろに大欠伸をしている。

 

「……くぁ」

 

感染った。

 

「ところで、あの子はどうしているんだ?リオ、だったか」

「今日は桜さんが見てくれてるよ」

 

昨日、ひと段落した後に懐中時計の憑喪神となった女の子から聞き出せたのは『リオ』という言葉だけだった。

かなりの引っ込み思案で、縮こまるように俺と希の背中に隠れていた子はそっと耳打ちで「Leo……っていうのだけ覚えてる」と囁いた。

 

果たしてその言葉が獅子を示しているのか、あるいは懐中時計に名付けられた名であるのか、それ以外の何かなのか……それは分からなかったが、ひとまずは仮の名として彼女はリオと呼ばれることとなった。

 

「そうだ、草薙希。今日使うジャージを持たせてしまったな……今預かろう」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと待ってね……」

 

希がカバンの中をゴソゴソ漁っていると、俺のポケットの中のケータイの振動に気付いた。

 

「もしもし?桜さんですか?どうかしましたか?」

「ああよかった、裕翔さんですね?ちょっと確かめてもらいたいことがあって……」

 

「確かこっちが佳奈ちゃんの……ん、ちょっと待ってね?引っかかっちゃって……」

「手伝おう。なに、1枚ずつ引っ張り出せば……」

 

「どうしたんですか?そんなに慌てて……」

「実は、その……リオちゃんが見つからなくて……家中調べても見つからないので、ついていってしまったんじゃないかと……」

「はは、まさか。人見知りっぽいんで隠れてるだけですよ。一応確認してみますが……」

 

「んーよいしょっ!」

「うおっ」

 

勢いよくジャージを引っ張り出した希。その弾みで筆箱やらノートやらの鞄の中身が飛んでいくが、その中には鈍く光る懐中時計が含まれていた。

 

「えっ、わっ、わっ、ほっ」

 

わちゃわちゃと手を動かしてなんとか懐中時計だけはキャッチ。そのまま希は固まって……数秒経ってから油の切れたロボットのように首を回してこちらを見た。

 

「…………えと、なんでだろ……」

「もしもし?裕翔さん?どうかしましたか?」

「あー……えっと……解決しました」

 

 

 

 

 

文化祭当日もそうだったが、後片付けの日はいろんな人がいろんな場所へ絶えず移動を繰り返す。

そのため俺たちは片付けをサボったことに気付かれることなく、人気のない体育館の校舎裏に集まることができた。

 

「あのだな……私たちがどんな状況にあることは昨日だって説明したはずだし、いくら子供とはいえ……」

「まあまあ委員長……」

 

校舎裏で憑喪神の姿になったリオはすぐに俺たちの背中にそそくさと隠れた。制服の袖や裾をぎゅっと掴んで離さず、委員長の顔を見ようとはしない。

 

「生まれたばっかりだもん、離れるのが怖かったんだよねー、よーしよし、おいでおいで……」

 

希がリオを抱き上げて頭を撫でる。とはいえ顔は少し困り気味だ。

 

「……にしても、随分と懐かれたな」

「憑喪神になる直前の声って結構印象に残るから……。その時にリオちゃんを触ってたのは私とユウくんだから、多分、そういうこと」

 

2歳くらいの男の子が母親のお腹の中で聞いた声を覚えてるとか、それに近いものだろうか。

 

「それにしたって、少し臆病が過ぎないか?好かれることはなくとも、私だって……」

 

委員長が希に抱かれたリオに手を伸ばすと、リオはさらに頑なに希に抱きついた。

 

「……そんなに私は怖いか?」

「いや、俺に聞かれても……」

 

しかし、リオの反応も無理はないとは思う。

人間とは違って、憑喪神はいきなりこの世界に放り出される。特にリオの場合は鎌倉緑や教会の犠牲者の呪いの声を聞いていただろうし、不安なのは当たり前だ。

憑喪神の精神は生まれた時点である程度成長しているとはいえ、リオは体以上に心は子供なんだろう。感情を抑えろというのは酷な話だ。

 

とはいえ、このままで良いというわけでもない。

ふぅ、と息を吐いてから、リオと学校では人の姿にならないという約束を交わす。

 

 

 

 

その後もリオの人見知りは改善されることなく、ご飯の時でさえ晴太郎さんと桜さんから隠れるように俺たちの背後に隠れる始末。

せめて机に向き合うように何度か希も呼びかけてはみるのだが、頑として動こうとはしないし、無理に動かそうとしても乞うような目で見られては強くは言えない。

そのまま布団の中までくっつき続けて眠り、朝になるといつの間にか鞄の中に入って学校にまでついてきている。

 

数日リオと暮らしてみてわかったが、リオは人見知りかつ臆病な性格ではあるものの、同時に頑固だ。そして行動力もある。その頑固さや行動力は子供特有の意地のようなものかもしれないが、そうであるなら抑えることは非常に難しい。

 

そして熟練の戦士である2人を欺き、さらに気付かれずに俺たちの鞄の中に入ってくるという人外じみた所業もこなしているあたり、彼女の憑喪神としての力は非常に強力だ。

それについて聞いてみたが、リオは答えられなかった。まだ自分の力を感覚で理解しても言語化するのは難しいのだろう。

 

結局俺はリオに対してどうしてあげれば良いのか、掴めないまま1週間を無為に過ごした。

 

 

 

 

 

私は武器の姿になってユウくんと混ざり合わなければ気持ちを完全に知ることはできないが、だからといってユウくんの気持ちを慮ることができないわけじゃない。

 

ユウくんは明らかにリオちゃんに対してどう接すれば良いのか悩んでいるようだったし、私もそれは同じだった。子供だから、まだ分別がわかっていないからと強く言うことを恐れて本心から話し合えていない。

 

今日までタイミングを待ち続けていたが、それも今日で終わりにしよう。まだユウくんに気持ちを言葉で伝えられない私が言えたことではないけれど、リオちゃんに本心を打ち明けることができないでどうしてユウくんに気持ちを伝えられよう。

 

「じゃあ私たち先お風呂入るねー。洗い物よろしく」

「ん?ああ……うん。………なんか、妙だったな」

 

洗面所で私が服を脱ぎ終わる頃にはもうリオちゃんは服を脱ぎ捨てて湯船に浸かっている。どうやらお風呂は好きなようで、心地良さそうな顔をしている。でも体洗ってから入った方がいいんじゃないかな……。

 

「はあ……あったまる……」

 

かくいう私もお風呂は好きだが、今日は話が長くなる。ゆっくり浸かっていてはのぼせてしまうだろう。

一度深呼吸をしてからリオちゃんの手をとって目を合わす。

 

「リオちゃんはさ……私とか、ユウくんのこと、好き?」

 

リオちゃんは何故そんなことを聞かれたのかわかっていないようで、きょとんとした顔で頷いた。

 

「ありがと。じゃあさ……晴太郎さんや、桜さんは?……嫌い?」

 

その問いに即答はできないようだった。

少し視線を彷徨わせたあとに俯いてしまった。

 

「わからない、かな。じゃあ2人のこと、怖い?」

 

この問いにも即答はしなかったものの、数秒後には後ろめたそうな顔で頷いた。

 

「……うん。ごめんなさい……」

「あっ、ううん。怒ってるわけじゃないの。むしろ……安心した」

 

リオちゃんにとって、2人……というか私たち以外はきっと、わからない存在なんだ。好きも嫌いも、どんな人なのかもわからなくて、ただ怖い。

 

「……私ね、最初はユウくんのこと、嫌いだったんだ」

 

リオちゃんは不思議なものを見るような目でこちらを見ている。

……仲睦まじいのはいいことだと思うけど、生後数日の子におかしいって思われるほど私たちって仲良く見えるのかな……なんか、恥ずかしい。

 

「……今は?」

「今は……その、好き、だけど。あっ、その、これ内緒にしてね!」

「どうして?」

「えっ、んっと……ちゃんと自分で言う、から」

 

なんだか顔が熱いのは風呂のせいだけではあるまい。咳払いをして話を仕切り直す。

 

「そ、それでね?私、昔はユウくんだけじゃなくてみんな嫌いだったんだ。晴太郎さんも、桜さんも、他のみんなも。リオちゃんみたいにみんなを怖がってたりもしたなあ……」

 

私にとって私以外の何かは私を呪うものでしかなかった。私の持ち主は、最初は嬉々として私を使うくせして数ヶ月もすればあまりの代償の重さに嘆くばかり。

だから私は仄暗い喜びや狂った笑顔しか知らなかった。でも、そんな私に真っ当な愛を教えてくれたのはユウくんだった。

 

「だからね、リオちゃんが私と同じだったら、いろんなこと教えてあげなくちゃって思ってたんだ。でも、怖いだけなら大丈夫。勝手に勇気が出る時が、そのうち来るから。ね?」

 

私の気持ちが全て伝わったとは思わないけれど、リオちゃんは頷いてくれた。多分、今全部わかれっていうのは無理だけど……きっといずれわかる時がくると思う。

 

「それにね……見て、リオちゃんの髪……綺麗な銀色でしょ?」

 

浴槽に溶けている髪を束ねて見せる。桜さんや晴太郎さんに勝るとも劣らない、本当の貴金属のように煌めく銀色だ。

 

「私たち憑喪神の髪の色はね、私たちが受け取った気持ちの性質で決まるの。呪いが強ければ黒く、祈りが強ければ白に近くなる」

 

つまり銀色は呪いよりも遥かに多い祈りを受け取った証。それだけ誰かに愛されてきたという証。

 

「リオちゃんを愛してくれる人が多かったってことだよ。私も、ユウくんも、晴太郎さんも桜さんも佳奈ちゃんも……リオちゃんのことが好きだよ。それは忘れないでいてね」

 

もしこの騒動が終結したならば、リオちゃんは元の持ち主に帰ることになるだろう。持ち主が見つからなければ見つかるまではユウくんの実家で過ごすことになるだろうが、どちらにせよリオちゃんが私たちと一緒に暮らしていられる時間は短い。

だから今のうち、この短い時間のうちに全てを伝えられたら……私たちのように気持ちが全て伝えられたら、そう思って笑う。

少しもどかしさがあるけれど、でもこれが誰かに伝えるってこと。ユウくんにもいつかは言葉だけでも、言葉がなくても、全部伝わればいいなと、そう思っていた。




図鑑の憑喪神ーー波戸晴太郎
能力ーー図鑑の中に書き込まれた物体を取り出すことができる。しかしこの世に実在しないものしか図鑑には書き込むことができず、強力であればあるほどスペースを必要とする。憑物の状態では該当ページを開くことで書き込まれた物体を取り出すことができる。
性質ーー祈6呪4
代償ーー本当のことを話せなくなり、喋る内容全てが嘘になる。次第に支離滅裂な意味のない文章しか話せなくなる。
成り立ちーーとある作家が描いた実在しないものを描いた図鑑。作家自身の空想や夢を書き込んだ図鑑は子供たちに豊かな想像力を与えたが、同時に騙されたと感じる者も少なくはなかった。

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