レーザー銃の傭兵とダボールスナイパーな人形 作:ジャック・アヴェンダドール
砲撃によって周囲が巻き込まれたが果たして……?
ジャガーの置き土産の砲撃による爆発が起きた瞬間、ジョセフは近くにいた89式を巻き込んで地面に飛び込む。他の姿は見えて居ない、恐らくは反対側に逃げたのだろうか。
「収まったか……」
「んぅ…ジョセフさんは、大丈夫ですか?」
「なんとかな、それよりピリア達が無事かどうかだ」
爆風が収まった後、ジョセフ達立ち上がるとそこは穴だった。それが威力の証明として示され、巻き込まれた者の末路を簡易的に想像出来る物だった。
ジョセフと89式が急いで近くに寄る。64式自、M1911、ピリアの姿がまだ確認出来ない。
「クソッ!」
「そんな……」
2人は最悪の結末を想像した。もしあの爆発を受けていたとしたらと考えると、気が気で無くなる。
「嘘でしょ……?」
「まだ希望は捨てるな」
「じゃあなんで直ぐに現れないんですか⁉︎」
89式が取り乱しながらジョセフの胸ぐらを掴んで揺らす。64式自とは特に一緒に暮らした時間が長かったのだろう、それだけに動揺も酷い状態だった。
「おせーよ……」
ヘリのローター音が聞こえる。ジョセフは探そうとした手を止めて、着陸を促す。だが穴のせいで建物に近い所への着陸が出来ないので少し離れた場所に駐機してもらう事になった。
「救助対象は何処に」
「あの建物の中だ」
「分かりました」
ジョセフは彼らについて行く事はせず、捜索を続ける。だが見えるのは瓦礫と焼けた地面だけで他の3人の姿は見えない。次は何処を探すべきかを考える。
「うわあああ!」
突然男の悲鳴が建物の中から聞こえて来た。ジョセフも急いで向かうと、ある意味で異様な光景が広がっていた。まず救助部隊の男が腰を抜かしている。先程の悲鳴はこの男だろう。その周りの人間達は一点に銃口を向けている。その先には自身の半身であるTAR-21Sを構えたピリアの姿があった。
「どういう状況だぁ?こいつは」
「あー……あはははははは……痛っ」
笑って誤魔化すピリアを軽く脳天チョップするジョセフ。どうやら敵と勘違いしたピリアが1発撃ったようだ。腰が抜けている男の周りを良く見ると、銃弾による穴が出来ていた。他の男がピリアに対して詰め寄る。
「なんで人間に対して撃てた⁉︎答えろ!」
「ペルシカがリミッターを付けなかっただけだよ」
「ふざけるな!IOPの人形は人間を撃てないようにしてある筈だ!それにペルシカだと?戯言も大概にしろ!あの技術者と直接の繋がりがあるのはAR小隊だけだろ!つまりこいつは鉄血の……」
1発、レーザーを撃ち込むジョセフ。余りに煩かったようでウンザリとして男を睨む。強面なのもあり、男はそれで怯んだ。
「ごちゃごちゃ煩い。こっちにも事情があんだよさっさ上に行け」
一言言うと外に出る。ピリアは彼について行く。残された男達は呆然と立ち尽くすのみであった。
外に出たジョセフ達はM1911と64式自を探す89式を見る。
「バディ!2人は見つかった?」
「全然見つかりません!」
どうやら痕跡すらまだ見つかっていないようで、ピリアの問いに対しても焦るようにして答えていた。3人は何とか無事ではあったが、爆発した時の破片に当たっていたら五体満足とはいかないだろう。
「遠い所は任せた。俺は近い所を探す」
「りょーかい」
ジョセフ達も捜索に加わる。ピリアは自身の銃のスコープで遠くを、ジョセフは自身の近くから探しだす。森の方を見渡しても足跡は見つからず、かと言って建物の中にも居ない。ジョセフと89式が何も見つけられない中、ピリアは何か不審な物を見つける。
「あれは……え?……嘘……」
彼女はそれを見た瞬間、恐怖で顔を引き攣った。その光景はまだ2人には見えていない。声を出そうにも上手く出せない。その様子に最初に気づいたのはジョセフだ。
「どうしたピリア」
「あ、あれ……」
ピリアが指差す方を見てもジョセフには分からない程遠く小さい物なのだと判断した彼はその何かに向かおうとする。だが腕を引っ張られて阻止される。
「待って……行かないで……」
「大丈夫だ。何処にも行きやしねぇ」
「違うの…あれは、多分…っ!バディ!駄目!」
彼女は恐怖で動けなくなっていたが、89式がそこへ向かおうとしたら突然叫びだす。彼女にとって不味い物なのか確認したいがピリアがそれを止めるが一足遅く、見つけてしまう。それを見た瞬間、彼女は尻餅をついて後退りして行く。
「俺たちも行くぞ」
「う、うん」
流石に2人共に異常が見られたのは看過出来ず、ジョセフはピリアを連れて89式の元に行く。
近づいた時に真っ先に目についたのは赤い液体だった。それもジョセフが何度も見てきた血の色、それが飛び散っていた。そしてその傍にあったのは、女性の左腕だった。
「!」
周囲を見渡すと、先程いた場所からは瓦礫に隠れて見えてなかった場所に本来の持ち主である筈の64式自が居た。
左腕と左脚が無くなっており、身体は動かせそうに無い。更に表情が何かに怯えているような、もしくは恐怖に染まりきったかのようで話す事も出来なさそうであった。まだ意識はあるのか、呻き声とも似つかない何かを発している。
「64式自!良かったぁ!本当に……本当に……!」
89式が64式自に抱きつく。若干抱きつく時の違和感があったようだが一応は生きてはいた。それが非常に喜ばしいのかギュッと抱きしめて行く。
安堵と嬉しさの混じった表情の89式とは反対に未だに焦点の合ってない様子の64式自。
「何か、あったの?」
89式の問いに静かに右手の指を指す。3人がその方向へ視線を向けると驚愕と恐怖に包まれた。
そこにあったのは人間の形すら失った、機械の塊だ。だが所々にある人工皮膚と服がそれをただの機械では無いと知らされる。内部の配線が剥き出しになっていたり機械的な関節が曝け出されていたり、もしこれが人間であるならば惨い死体であると答えただろう。残った皮膚の一部分に3人が知っている特徴があった。大きな乳房、クリーム色の布、青いジャケットだった物、それらがこの塊をM1911だった物だと予測するには十分過ぎた。
「……」
「ぇ……」
「ぁぁ……」
ジョセフはそれ以上は見てられないと目を背け、ピリアは目を見開いて崩れ、89式は最早そこから動けなくなった。
2人を置いてジョセフは回収ヘリの男たちと接触する。
「遺体袋は無いか?」
「あるにはあるが、だれか死んだやつが居るのか?」
「人形だが、あのままは流石に不味い」
「放っておけ、同じ戦場に居た仲間意識からだろうが人形は壊されても復活出来る。ここで拾ったって意味が無い」
「……あいつらはそうもいかないだろ」
「チッ。ならアンタが勝手にやれ」
「あぁ悪いな」
回収ヘリの男から貰った遺体袋を持って89式達の元へ向かい、M1911だった物を引きながら袋に入れていく。その最中、89式にある事を頼む。
「こいつを司令部に持って行って欲しい。M9に頼んでも構わない」
「な、どうしてそんなに冷静なんですか⁉︎」
彼女はジョセフの冷静で淡々とした行動がよく分からなかったのか、ジョセフに質問を投げかける。一時的とは言え仲間だった筈なのに、動かぬ物になった途端に袋に詰めて基地に送れと言う事に少なくとも理解が追いつけない。
「仕事柄だ。こうやって死んでいく奴は今までに何人も居た。それだけだ」
ジョセフの手に纏わりつく感触が人間のそれと遜色無く、思わず顔を顰める。かつての記憶が呼び起こされそうな、そんな感覚に襲われるが、意識を保ち袋のチャックを閉める。
「それで……仲間だった人をそうやって!」
上手く言葉が出ないのか、中途半端に詰まる89式。目の前で行われている行為は彼女にとっては到底理解しえないようで、ついには掴み掛かってきた。その手を退かさずにそのまま掴ませる。
「仲間を失う事に慣れてしまっている。慣れたくは無かったけどな」
「⁉︎」
「それにM1911はまだ先がある。それがどれだけ幸せな事か」
「え?」
「俺が失ってきた仲間には、もう先が無いんだ。あの場所で……全てが終わった」
「……」
力強く掴まれた手から自然と力が抜けて行くのを感じた。手は汚れていて使えないので、後ろに下がって掴まれた手を解く。そして袋を持ち上げようとした。
「ぬぅ……っ!っはぁ…1人じゃやっぱ無理か、誰か持ち上げるの手伝ってくれねぇか?」
呆然と立ち尽くす2人だったが、ピリアはすぐにハッとしてジョセフの元に駆け寄って、片側を持ち上げる。ジョセフは反対側を持って歩きだす。
その後も立ち尽くす89式は崩れ落ちた。その目には涙が溜まり、顔は感情が入り混じりすぎて分からないと言った形相でただ地面を見る事しか出来なかった。
「あれで良いの?」
「何がだ」
袋を運ぶ最中、ピリアがジョセフに質問を投げかけた。
「バディの事、いきなりあんな事突き付けられて平気なのって話」
「さぁな、俺はただ人間として話しただけだ。人形からしたらどう見えるかはさておいてな」
「人形から見ると、死……というよりも無、なのかな。そういうのは1番遠い概念なんだよね。実際私もそうだし。それがいきなり先の無い人とか言っちゃったら大体の人形なら混乱すると思うよ」
「そういうピリアは平気そうだな」
「アーキテクトの話を聞いちゃったらねぇ……」
「お前聞いてたのかよ」
「ちろっとだけ聞こえただけだけどね〜。でも正直想像もつかないよ。やっぱり。稼働を止めた先は何にも感じないんだもん。それで次は何処で目を覚そうとも前回の続き、ただそれだけだしね。そしてバックアップもあるから、身体がやられても多少記憶が消えても次があるし」
「次がある……か」
「ん?どしたのジョセフ」
「いや何でもない。それよりもさっさと載せるぞ」
「りょーかい」
2人掛でヘリに袋を運ぶと、男達に引き渡す。その時に雑に傍に投げられた。ピリアが前に出て抗議しようとしたが、ジョセフはそれを止める。
「どうして止めるの⁉︎」
「言った所で変わりやしない」
「どうして⁉︎」
「あいつらにとって人形は所詮、機械という認識だ」
「……」
彼の一言で引き下がるピリア。だがジョセフも今の行動には来るものがあったらしく、その光景を睨みつけていた。建物の方からも人が現れてヘリに乗り込む。人間達に続いて、傷だらけで目を開かないUziをM9が運んでヘリに乗せる。
「さて、アイツらも乗せて貰うか」
「そうだね」
ジョセフ達は急いで89式達の元に移動する。64式自は既に意識を失っており、89式は力なく2人を見つめる。
「お前達もあのヘリに乗って離脱しろ」
「どうしてですか?」
「64式自をそんな状態でほっとけるかっての」
「いえ……でもいいんですか?」
「何がだ?」
「私達は野良も同然ですよ?」
「今はどこも人手不足だろ、簡単に入れるさ。そら、さっさと乗っちまえ」
渋々、89式は64式自を抱えて立ち上がって、ゆっくりと歩きだす。右側の手足が吹き飛んでおり、バランスを掴むのが難しいようで、フラついてはいるものの確実にヘリに向かう。
その間にジョセフは通信機のチャンネルを司令部に切り替える。現状ではマトモに戦えるのがジョセフとピリアのみと殲滅作戦は不可能だと判断した。
「今のうちに司令部と交信と撤退許可貰って来る」
「許可は出そう?」
「……ダメで元々だ」
通信機に手を当てて通話を始める。
「こちらアルファ1、HQ聞こえるか?」
《こちらHQ、アルファ1どうぞ》
「救助ヘリが来るまでに、ブラボーのUziとM1911がやられた。それと現地協力者1名も負傷を負った」
《現地協力者?その話は聞いてない》
「今報告した。そいつもヘリで連れて行って貰う。詳細は本人に聞け」
《そいつは人間か?》
「いや、人形だ」
《了解した。修理費等に関しては作戦後に通達する》
「分かった。それとさっきの報告の通り、殲滅作戦は不可能だ。撤退許可を求める」
《現在の戦力を正確に報告せよ》
「現状、作戦続行可能なメンバーは俺とアルファ2のみ。M9は救助隊の護衛及び負傷した人形のカバーを行う為離脱する。他は全員やられた」
《少し待て》
通信が一旦途切れる。ジョセフは溜息をつく。この様子では許可は出なさそうだと考えていると再度通信が繋がった。
《撤退を許可する》
「お、マジか」
《ただし報酬は本来の7割だ》
「おいおい、救出まではやっただろ。それで減額ってのは無いんじゃねぇのか?」
《逆に聞こう、お前達を雇ったのはSB07市街地への被害を抑える為だ。それが逆に被害を拡大しかねん事態に陥ったとなれば減額も致し方ないと思うが?》
「ハイエンドクラスの撃破した分は入ってるか?」
《それ込みで7割だ》
「はぁ……しゃーない。それで譲歩する」
《分かればいい。お前達もヘリに乗って帰還せよ》
「了解。アルファアウト」
撤退許可は出たものの、報酬は減る。だがこのまま作戦を続行したとしても殲滅は不可能で選択肢は無いも同然だった。向こうはどういう判断をしたのかは分からないが、ともかくこれで街に帰れるようだ。
「ピリア、撤退許可が出た。ここから離脱するぞ」
「本当に?」
「あぁ、報酬は減るがな。俺たちもヘリに乗って撤退するぞ」
《あぁっと!ちょっと待ってジョセフ!》
「どうしたアーキテクト」
ピリアに話し掛けて、撤退しようとした時にアーキテクトから通信が入る。
《一応何個か下級人形のパーツを持って来て欲しいんだけど》
「何に使うつもりだ?」
《ジョセフのレーザー銃の開発に使いたいから、出来ればリッパーよりもヴェスピドのパーツをお願い!》
「あんまり期待はするな」
ジョセフはヘリに乗る前に軽く倒れている鉄血の人形からエネルギーユニットや千切れた武器ユニットなどを回収して、小さなバックパックに詰めて行く。このバックは建物の中で見つかった物だ。
「これぐらいでいいだろ」
「早く行こう?置いてかれそうだよ」
「そうだな。さっさと撤退しますか」
足取りが最初の時よりも若干重くなりながらヘリに乗り込み、その場から離れて行った。後に残ったのは人形の残骸と崩れ掛けた建物のみだ。
結構強引でしたが、Stage2はここで終了です。
戦力的に厳しい為にここで撤退する事に……
ジョセフ達の最初の仕事は完遂は出来なかったようです
次回はデブリーフィングと後処理となります