彼には一体何があったのか。それを掘り下げていきたいと思います。
あれから数週間が経過し、各クラスメイトたちはそれぞれメキメキと成長していた。
皆が成長していくのはいいのだが、光輝の中で一番の誤算だったのは、生産部門に回った人数があまりにも少なかったことだ。
ハジメ、清水、戦闘訓練と掛け持ちで莢のたった3人しかいない。
原因としては訓練初日に檜山が騒いだことで「生産部門に行くやつは卑怯者である」という風潮が強まってしまったこと、異世界に来て自分が物語の主人公になり、無敵の存在になったように感じていることなどが挙げられる。つまりは感覚が麻痺しいるのだ。
このまま行けば、そう遠くないうちに何処かで行き詰まり、そのまま脱落、つまり死んでしまうものも出てきてしまうだろう。
しかし光輝にはどうする事もできない。もしここで自分が変に生産部門の勧誘を行えばまず間違いなく教会に目をつけられるだろう。そうすれば自由に行動できなくなってしまい、いつ来るかもわからないいざという事態に対応できなくなってしまう。
光輝は自分のステータスプレートを取り出す。そこにはいつ見ようと変わらずに「天職:勇者」と記されている。
不意にその文字が、自分を「お前にそんな資格はない」と嘲笑わらっているような気がした。
(解ってるさそんなこと。)
目を閉じれば今でも鮮明に思い出される出来事。それは、他の世界線では生まれることのなかったこの「天之
河光輝」の生まれる要因となった出来事だった。
あれは今から一年と半年ほど前の話だ。
それまで彼は、弁護士だった祖父に憧れ、何よりも「正義」を重んじて生きてきた。
今思えばなんと愚かな人生だっただろうか。自分は悪が許せなかったわけでも正義に目覚めたわけでもない。ただ、「正義を執行する自分」という革を被っていただけだったのだ。
最初はただ子供っぽく、自分をかっこよく見せたかっただけだった。皆にちやほやされ、いい気分には浸りたかっただけ。
しかし、時が立つにつれその革は分厚く成長し、いつの間にか本当の自分が見えないほどまでになっていた。
しかし光輝はその革を被り続けた。
怖かったのだ。
もしかしたらこの革を外すと皆自分から離れていってしまうのではないか。もしかしたら自分のやっていることは間違っているのではないか。
そんなはずはない。自分は間違ってない
だけど…
黙れ!俺は絶対なんだ!
いつしかその革は、格好をつけるための仮面ではなく、自分の本心を閉じ込める檻に変化していた。
しかし、ホンモノが見えなくなろうとも、いかに分厚くなろうとも、しょせんそれはただの革。表面に薄っすらと張り付く中身のないものだ。
その正義には、覚悟がなかった。
だから光輝は責任を追うことから逃げた。「自分が助けたのだからもうあとは大丈夫」などと、根拠のない理由をつけて。
なんと情けない生き方だろうか?自分の本心をひた隠しにし、飾り物の正義を振りかざす。ああ気持ちがいい。ああ最高だ。
そんな人生に、突然転機が訪れた。
ある日の学校帰りだった。大きな悲鳴が聞こえた。
いつものように正義感に従い、悲鳴が聞こえてきた方へ急ぐ。
路地を抜け、人の波に逆らい、とうとうたどり着いたそこで見たのは、
「あ…、ぐ」
「ママぁ」
「じにだくない!じにだぐえっ」
地獄絵図だった。
子供が遊んでいたであろう住宅地は見る影もなく、家や塀の一部はスプーンで掬ったように抉れ、、どす黒い血の海と化しており、今この瞬間も一つ、また一つと命が消えていく。
そして何より目を引くのが、キョロキョロとあたりを見回し、観察している人形の異形だ。間違いなくこの残状を作り出したのは奴だ。全身が血で濡れている
それは足音に反応したのか光輝の方を振り向き、じっと見つめる。
蛇に睨まれたカエルとはこのことか。久々に感じた恐怖。動くことを拒む足。そして、
『gGuooooooo!!!』
(あ、)
自分ではどうする事もできない力の差に、かぶっていた革はいとも簡単に剥がれ落ちた。
――――――――――――――――
あのあとのことを結論から言うと、光輝は無傷で助かった。重厚な鎧に見を包んだ戦士に助けられたのである。戦士の見た目に違わぬ力強い攻撃に、光輝は終始圧巻されていた。
その戦士は異形によって殺された人たちを見て、「済まねえ。」と絞り出すように言い、手を合わせて長い黙祷を捧げた。
光輝はようやく我に返ると自分もその戦士の横に並び黙祷を捧げる。となりで少し驚いたような声が聞こえたが、光輝もまた長い黙祷を捧げたのだった。
暫くして隣を見ると、戦士は既に立ち上がり、どこかに立ち去ろうとしていた。光輝はそれを慌てて呼び止め、聞く。
あなたにとっての正義とは何か。
戦士は狐につままれような反応を示すと、しばらく考えるような素振りを見せてから答えた。
そんな御大層なものは俺の中にはねぇ。あるのはただ守ると決めたものを守りに抜く「覚悟」だけだ。
覚悟。それは自分に一番たりていないもの。
いつもなら自分は間違ってないと思い込み、そんな言葉に心を揺り動かされることなどなかっただろう。しかし、被っていた革が剥がれていた今の彼には、その言葉がやけに染み渡った。
光輝は家に帰り、久々にある場所へと向かった。祖父の書斎だ。
とにかく今は答えが欲しかった。
まだ祖父が亡くなった当時のまま保存されているそこには、様々な本や筆記用具などが収められている。
その中で彼が手に取ったのは祖父の日記帳だった。祖父とはいえ日記を覗くのは流石に悪いと思い、手を付けていなかったそれを、光輝は思い切って開くことにした。
そこに綴られていたのは、書かれている文字から今にも聞こえてきそう祖父の悲鳴だった。
自分のしていることは正しいのか。間違っているのではないか。なぜ救えなかったのか。なぜ罪を償わせられなかったのか。
そこにはいつものかっこいい祖父など見る影もなく、一人の人間としての苦悩が綴られていた。
その震える字を辿っていき、とうとう最後のページにたどり着くと、そこには今までの弱々しく震える字とは違う、力強い字でこう記されていた。
「お前に覚悟はあるのか」
――――――――――――――――
「覚悟…か。どうだろうな。前よりはマシになったと思うが…」
いや、思い込みたいだけか?そんな卑屈ことを考えながら王宮の廊下を歩く光輝。
きっとあの一件がなければ自分は今も革をかぶり続け、本当の自分の姿から目をそらしていたことだろう。
今の自分の覚悟。それはたとえ何があろうともクラスメイト達を守ること。そのためなら自分の命など悪魔にでもくれてやる。そう決めていた。
ふと光輝が立ち止まる。
「…いい加減出てきたらどうだ?」
「おっとごめんよ。そんなつもりはなかったんだけど。…でも流石だね。天之川君」
「ふっ。ただの借り物さ。俺の力じゃない。それより何のようだ。
南雲」
柱の影から出てきたのはハジメだ。彼は息をするように自分を卑下しまくる光輝に苦笑いする。
しかし、すぐ真面目な顔になるとこう話を切り出してきた。
「君に大切な話があるんだ。この世界のことについて、ね。聞いてくれないかい?俺たちの秘密もおまけしておくよ。」
「……いいだろう。俺も気になっていたところだからな。」
二つ返事で了承する光輝。
この出会いが何をもたらすのか。それは神にはわからない。
はい、というわけで今回はここまでです。自分の中の光輝のイメージを書き出してみたのですが如何でしたでしょうか。これからも彼には活躍してもらうのでお楽しみに。
感想ご意見お待ちしております。
「神にはわからない…か。なんとも皮肉な言い回しじゃないか。」
「エヒトとか言うのは絶対に信用できないし丁度いいんじゃないかしら。」
「ああ。そうだな。」