変身まで持ってきたいんだが…無理かなぁ…。
まあぼちぼち頑張ります。
「グッヴヴゥウアアァ…!!」
戦士は膝を付きながらも、なんとか異形の一斉攻撃を受け止めた。しかし、膝が地面に深々とめり込み、纏っているアーマーからは嫌な音が響いている。
しかしそれでも依然としてハジメに手を貸そうとしない蛇。
確実に悪くなっていく状況にハジメはふと言葉を漏らした。
「こんな時…剛さんなら…」
あの青年であればこんなピンチかんたんに乗り切れるのではないか。そんな思いから出た言葉だった。
だがもうこの世に彼はいない。それはハジメが一番よくわかっている。
ハジメは自分の胸に手を当てる。青年に憧れ、弟子入りまでしようとした自分は、こんなにも役立たずでみっともない人間なのか?
自分はどんなふうになりたかったのか思い出せ。格好よく俺と言える男になるんだろ?
どうせこのままでは全員死んでしまうだろう。ならば、せめて最後は、自分で満足できるように。自分なりに格好よく。生きたい!
「うおおおお!」
「おまっ何やってんだ!」
「おりゃああ!」
ハジメは異形のうち一体に向けて特攻を仕掛けた。まさかハジメが反撃してくるとは思っていなかったのか、はたまたそんなことも考えられないのか、異形の体はハジメによって簡単に押し倒された。
ハジメの活躍によって一体分のパワーしか乗らなくなった攻撃を、戦士は跳ね除けて立ち上がる。
しかし、
「うわあああ!」
「っ南雲!」
しょせんハジメはただの人間。異形の力に勝てるはずもなく、ボールのように真上に放り投げられた。下には拳を引いた異形の姿がある。
戦士が動こうとするが、もう一体の攻撃に反応してしまい駆けつけるのが遅れる。礼一達もハジメの名を叫ぶが、だからといって落下位置が変わるわけもなく。
そのまま異形の拳は吸い込まれるようにハジメを突き殺さんと振るわれ…
『キシャアアアァァア!!』
しかし突然異形はバランスを崩し、拳がそれた。
それを行ったのは、戦士でも、ましてや礼一達でもない。あの蛇だ。
ハジメはなんとか駆けつけた戦士が受け止めることで地面への衝突を免れる。地面に降り立つと、その足元に先程とは態度を一変させ、逃げる様子を見せない蛇がたたずんでいた。
「力を、貸してくれるのか?」
ハジメを見つめる無機質なその眼には、機械とは思えない知性的な光が灯っていた。
――――――――――――――――
次の日、ハジメ達は、迷宮の入り口やってきていた。
ハジメは、ゲームや物語のような薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まである。
なんでも、ここでステータスプレートをチェックして出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握するらしい。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろうとハジメは考える。
入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。
クラスメイト達は、メルド団長の後をカルガモのヒナのように付いていった。
「んー。美味しいねこれ。」
「焼鳥っぽくてなかなかいけるね。」
「何食ってんだよ……。」
そんな中二人は最後尾で、露天に出ていた食べ物を買食いしながら歩いていた。
訓練期間中、莢は時折街に繰り出しては病院で手伝いをしたり、アルバイト的なこともハジメや幸利、礼一達番長ズとやって金を稼いでいたため、買食いする程度の金は持っている。
「そう言う清水くんも食べてるじゃん。」
「……いつの間に。」
「「「じー…」」」
クラスメイト達から羨ましそうな視線を感じるが、この金を稼いだのは自分たちなので分けるつもりは無かった。ただ訓練をしていただけで、働いてもいない彼らに食わせる飯はないのである。
迷宮内に足を踏み入れると、流石に外の活気ある雰囲気とは一変し、ゴツゴツとした岩が張り出す縦横五メートル以上ある通路に囲まれる。
明かりもないのに薄ぼんやり発光しているのは、緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているかららしいが、少し都合が良すぎるような気もするハジメ。
しかし特にこれといったトラブルもなく一行は隊列を組みながらゾロゾロ進んでいく。しばらく進むと、開けた場所に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートルくらいはあるだろう。まるで今から敵が出てきますよと丁寧に教えてくれているようである。
相変わらずご丁寧な演出に、ハジメは戦闘の予感を感じて周囲をうかがう。
その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から総勢五十を超える灰色の毛玉が湧き出てきた。
メルドが声を張り上げ、指示を出していく。
「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうから準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこく数は多いが、たいした敵じゃない。冷静にかかれ!」
その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物がそこそこの速度で飛びかかってきた。
灰色の体毛に赤黒い目が妖しく光る。ラットマンという名称に相応しく、外見はねずみのようだが、二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。人形のネズミでも夢の国のマスコットとは酷い違いである。
正面に立つ勇者パーティー――特に前衛である雫の頬が気味の悪さに引き攣り、固まってしまっている。
しかし光輝は特に反応を示さずに聖剣というアーティファクトを鞘から抜き、悠々とその中に歩いていく。
危険だと思ったメルドが忠告しようとする。直前、光輝の周りにいたラットマン達の首が一斉にはねられた。
その太刀筋はメルドですら捉えることは難しいほどに早く、鋭く、正確無比なものだった。
その攻撃をなんとかくぐり抜けた、というよりわざと逃された半数ほどに減ったラットマン達は、前衛の龍太郎、雫が蹴散らしていき、その間に後衛の魔術師チームである、背の小さい「谷口鈴」、メガネがトレードマークの「中村恵理」、香織が攻撃のフォーメーションを組み立てる。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」
三人が同時に発動させた螺旋状に渦巻く炎は、ラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。断末魔の悲鳴が聞こえ、哀れな魔物たちは灰へと変わり果てていった。
気がつけば、半数以上光輝が片付けたとは言え、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番が無かったのを見ると、どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。
それを見ていたメルドは、「頼もしい限りだ」と感心しつつも、丸焦げになり、魔石どころの話でなくなっているラットマンを見て苦笑した。
「ああ~、うん、よくやったぞ!」
「だが、これは明らかにやりすぎだ。今度からは素材の回収も念頭に置いておいたほうがいい。ぶっつけ本番でやるからこうなるんだ。」
何かオブラートに包んで注意しようと言葉を選んでいたメルドを遮るようにして、全く遠慮せずに光輝が言う。
メルドに褒められたことで頬を赤くしていた3人だったが、光輝の言葉で俯いてしまった。雫が言い過ぎだと注意するが、光輝は、
「俺たちがやるのは戦争だ。初めてやることだからうまく行かないのは解るが、戦場で敵は待ってくれないぞ。もう少し勉強しておいたほうがいい。」
と、相手にすることなくさっさと先に進んでいってしまった。
「グゥルルル…」
しばらく進み、クラスメイトたちの目の前には、トラのような魔物、「ブレイズキャット」が立ちはだかっていた。
「よし、次は礼一達の番だ。頼りにしてるぞ。」
「任しときな。行くぞてめぇら!」
「「おう!」」
礼一達の今の格好は、一言で言うなら「昭和の番長」である。短ランにボンタン、中には赤いシャツを着ているなんともわかりやすい格好だ。
莢の技能「医学の心得」の中にあった「裁縫」によって作製されたこれは、とても着心地がよく、礼一達はとても気に入っている。もちろんハジメもこれに関わっており、生地と生地の間にワイヤーを編み込んだものを挟んでいるため、強度も折り紙つきだ。
礼一達は、それぞれ風や炎をまとわせたハジメ特性の武器、「クギバット」を構えた。
このクギバット。見た目はただの釘の刺さったバットだが、もちろん面白いギミックが施されている。
礼一が飛びかかって来たブレイズキャットに向けて振るうと、衝突と同時に、バットに刺さっているクギの頭の部分からニードルが飛び出し、深々と魔物の肉をえぐりとった。
更にそこには魔法を纏っているため、掠るだけでもかなりのダメージを与えることができる。
更に3人目の技能であるチンピラ戦法とクギバットは相性抜群で、またたく間に魔物は数を減らしていく。
「よし、礼一達は下がれ!ハジメ、行けるな。」
「はい。任せてください。」
メルドの声に反応して、最後に魔物たちを押し込んでから後退する番長ズ。
それと入れ替わるようにして、ハジメ、莢、幸利の生産部門チームが前に出た。
ハジメは装備したグローブについている魔法陣を使い錬成を発動。魔物達の足を地面が変形して絡めとる。
そこに莢が、病院で使われているような白衣を翻しながらショーテルで斬りかかる。更に、
「狙って…打つ、リロードして打つ!」
清水がゴーグルを装着し、クロスボウで援護を開始する。
このゴーグルには、幸利の適正がある闇属性魔法によって、相手の弱点を看破したり、魔力の流れを読み取ったり出来、更には詠唱いらずのすぐれものだ。
更にクロスボウには弾倉が搭載されており、一回ずつリロードする必要はあるが、それでもいちいち矢をつがえるよりも、かなり早い速度での連射ができる。
ハジメも背中に背負っていた大剣を構えて、魔物たちに切りかかっていく。
クラスメイト達は、未だに生産部門に行くやつは卑怯もの、という認識があったのか、彼らの持っている質のいい武器に目を丸くさせ、彼ら自身の戦闘能力の高さに舌を巻いていた。
それをよく思わないものもいるようではあるが。
結果、既に魔物達が弱っていたこともあり、5分足らずで戦闘は終了した。メルドもとても満足そうな顔をしていたが、次に三人がとった行動に戸惑った声を上げる。
「お、おい、何をしてるんだ?」
それに対して、莢が不思議そうに聞き返す。
「魔石を取り出していますが…。なにか?」
ハジメらは今、それぞれが装備していたナイフで魔物の解体をしていた。魔石を取り出す為だ。しかし、魔石は魔物の機関、すなわち内蔵。それらは体の内部にある。
魔物の体から吹き出す血にまみれた三人に、クラスメイト達は「ヒィッ!」と怖じ気づき、尻もちをつく。
「使徒様、それは我々騎士団がやっておきますので…」
変わろうとしてくる騎士たちを手で制すと、莢は言う。
「これは私が奪った命。それならば私が最後まで面倒を見るのが道理です。」
そのやり取りを見ていた幸利は、作業を続けながらクツクツと笑う。
「流石、医者が言うと説得力が違うな。」
「清水君、別に良かったのに。これは僕らのエゴだし。」
「…いや。俺はこれがかっこいいと思ったからやってるんだ。別に付き合ってるわけじゃない。」
そう言って幸利は自分で取り出した魔石を眺める。その目には、彼なりの覚悟が光っているようにハジメは感じた。
はい。今回はここまでです。
礼一君達番長ズを活躍させるために魔物をオリジナルで作ったり、光輝くんが魔改造されてたり、段々やりたい放題になってきましたね…。
作者の中で、清水君は、勇者よりもかっこいいと思える生き方を示してやれば、ころっと態度を変えるチョロインみたいな感じがしています。
なので今作では、医者として、命に対してクラスメイトの誰よりも真摯に向き合う莢の考え方に共感をしてもらいました。
とはいえちょっと清水くん強化しすぎたか…?
次回はようやく。よ〜〜〜やく変身します。
お楽しみに。
感想ご意見お待ちしております!(切実)
「もっと面白い話が書ければ増えるでしょ。」
これが限界なんです…!
「それじゃあ諦めよう。」
……チクセウ