第1話
カン カン と高い音が山の中に響き、やがてバキバキと音を立てて、木が倒れる。
倒れた木はそのまま数人がかりでトラックまで運んでいく。かつては重機やチェーンソーと言った機械類が使われていたというこの仕事も、現在では個々人が斧を持ち、人力で行っている。
「あー、クソッ! 全然進まねえ!」
近くで作業してた同僚がそんな悪態をつくが、誰も気にしない。全員が同じ気持ちで、そして、どうにもならない事だという事を知っているからだ。
「おい煩いぞ。黙れ」
それでも喚く同僚に他の同僚が声をかける。だが、声を荒げる同僚は逆にその同僚を睨みつけてきた。
「これが黙っていられるか! なんで俺らは人力で木材切らなきゃいけねーんだよ!」
「仕方ないだろ。深海艦隊のせいでガソリンは碌に入ってこない。入ってきても国が優先される。俺らみたいな使い捨てのところまで回ってくるわけねーだろうが」
「ちくしょう……! 仕事で失敗してなけりゃ……」
「俺だって借金がなけりゃここに来てねーよ。おら、愚痴ってないでさっさと仕事を進めろ」
同僚たちはそんなやり取りの後に再び仕事に戻った。さっきの同僚が言ったように、俺達が働くこの職場は様々な理由でまともな仕事につけない人間が受けてる仕事だ。同僚の大半は他所からここに回されてきた人間ばかりで、地元の町に住んでいるのは俺ぐらいだろう。
そんな事を思いつつも、俺達は仕事を黙々と続けていく。そして、定時をとうに過ぎたころあいにようやく仕事を終えることができた。仕事を終えた俺達はさっさと事務所に戻り、そこで服を着替える。そして、更衣室から出ると、休憩用のスペースでくつろぎ始めた。
「あー……疲れた……さっさと酒飲みに行きてー」
「もうちょい待て。給料来るぞ」
くつろぐ同僚たちがそんな事を話してると、俺達の元に社長がいくつもの封筒を持って現れた。
「おい、今月の給料配るぞ。名前呼ばれたやつからさっさと来い」
そう言って社長が順番に名前を呼び給料を配っていく。俺もそれにならって封筒を受け取り、中身を確認する。中には十数枚の紙幣と小銭、それに給与明細が入っている。
「……はぁ……あんだけ働いてこれっぽっちかよ……」
「しゃあねーだろ。金が貰えるだけマシってもんだぜ……ここだって、いつどうなるかわからねえんだからな。こうやって銀行振り込みにしないのも、脱税の為に記録が残らないようにしてるからとかって言ってるやつもいるんだぜ」
「マジかよ……」
そんな事を話してる同僚たちだが、ふと片方が俺の方に視線を向けてきた。
「よう、これから一杯呑みにでも行かねーか? こんな時ぐらい酒呑まなきゃやってらんねーだろ」
「悪いが……俺は酒が飲めないんだ。他を当たってくれ」
「はぁ? お前、付き合いわりーな」
「ほっとけ、そいつボッチだからな、根暗やろーなんか気にするな」
そんな言葉を後ろに聞きつつ、俺は事務所を出ていく。どうせ酒で酔いつぶれ、明日には酷い状態で出てくるだろうに、なんで酒なんて呑むのだろうか。人間の考えはよくわからない。