急ピッチで準備が整えられ、俺達はヲ級奪還作戦を開始した。と言っても別にやること自体は普段とさして変わらない。敵を殲滅し、ヲ級を再鹵獲する。だが、この作戦には二つの難題がある。
一つはレ級の存在。直接戦って、改めてその強さに戦慄と恐怖しか覚えない。砲撃、艦載機、魚雷。ほぼ全ての艦の攻撃を一人で行う上にその全てが高い水準を誇っているまさに万能の敵。あれを俺という足手まといがいる状態で退けられるのか?
そして二つ目はヲ級だ。彼女が敵に再鹵獲されたのならば当然こちらに攻撃してくるはずだ。そして彼女の力量は既に飛鷹を上回っている。皮肉なことにそこまで成長させたのはこの鎮守府なんだが……。そして、彼女を再鹵獲なんて事ができるかどうかだ。刀を使えば酒匂の時と同じようにできるかもしれないと思い背中に括り付けてるが……激しい戦闘の最中に使い慣れない刀を使うことができるかどうか……。
「チ……さ……チヌ……チヌさん!」
「!? ……不知火か」
腕を引っ張られて後ろを振り向くと、そこには心配そうに俺を見上げる不知火の姿があった。
「チヌさん、しっかりしてください。今回の作戦の要は貴方なんです。……今回私は第二艦隊に配属となりますが、それでも作戦が成功するように尽力します。チヌさんも……気をしっかり持ってください」
「……ああ、わかっている」
……口ではこう返すが……正直自信なんて欠片もない。酒匂の時と違い、向こうにはレ級と言う化け物と、ヲ級が居る。そして、ヲ級を再鹵獲できるという保証もない……。酒匂の時にはヲ級が断言してくれた。だが、今はそれもない。
(……ヲ級がこんなに大きな存在になってたなんてな……)
人は失ってから初めてその大切さに気付くというが……それは俺にも当て嵌まったらしい。ヲ級が居ないことがこんな心細いとはな……。
「……チヌさん。大丈夫です。貴方は一度ヲ級を鹵獲したんですから、酒匂さんを助けたんですから……今度もできます。自分が信じられないというのなら、チヌさんを信じる私達を信じてください、お願いです」
……いつの間にか不知火が俺の手を掴んで見上げていた。その眼には心配そうな印象と……そして、俺を信頼している、そんな印象が見えた。……こう言われたら、信じるしかないか。
「……わかった。俺は、お前たちを信じる」
「はい、信じてください」
不知火の言葉に力を入れて返事をすると、不知火も力強く頷く。……少しだけだが、落ち込んでいた気分が持ち直してくれた。
やり取りを終えた俺は出撃ドッグで出撃準備に取り掛かる。そして時刻が来たことで、第一艦隊として出撃した。